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銃口

バイト先の喫茶店には、たくさんの花が飾られている。花の蕾がこちらを向いている。今にも咲きそうな蕾をじっと見つめてみたら、まるで銃口を突きつけられているようだった。

季節の変わり目はとてもこわい。春が音もなく消えたと思ったら、夏がジリジリと嫌な音を立ててやってくる。みんなは、新しい季節に目を輝かせているのに、わたしはいつも置いてきぼりをくらったような顔になる。
わたしの真横を通り過ぎる季節は、わたしが泣いていることなんて知らんぷりで、次々に花を咲かせていく。花は「わたし、かわいいでしょ?」と言わんばかりに愛想を振りまいている。

過ぎていった季節はどこにいくんだろう。みんな、やってくる季節のことばかりで、過ぎていった季節のことは、無かったみたいに生活している。
みんなは先のことばかり考えているのに、わたしだけが過ぎていった季節のことばかり考えている。

急に悲しくなったので、お店を出て煙草を吸った。ふと足元を見たら、ピンク色の花が散っていた。散ってもなお、美しい花に、無性に腹が立って、散った花びらを踏んずけてお店に戻った。

突きつけられた銃口は、わたしに向けられたままだった。

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