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窓辺にて

わたしは自室にいるとき、ほとんどの時間を窓辺で過ごす。濃紺の夜も、赤黒い夜も、決まって朝の白んだ光に食べられてゆく。わたしは、それをただ見守る。
夜が朝に食べ尽くされたとき、窓辺の植物に水をやる。こぽこぽ土が水を飲む。霧吹きで葉っぱに水をかけてやる。新しい葉っぱは、光を求めて、すぐに窓ガラスにぶつかるから、毎日位置をかえてやる。ついでに撫でてやる。ああ、新しい葉っぱは、こんなにもやわらかい。

4時頃に目を覚ました太陽は、すぐに夜を食べ尽くす。綺麗にぺろりと平らげる。朝の優しいふりをした太陽は、窓に彼の幻影をうつす。ああ、今すぐ抱きしめて、捕まえて、離さないように、でも壊れぬように、新しい葉っぱを撫でるときのように、それはそれは、やさしく触れるから、もう一度だけ。馬鹿げたことを考えてしまう。朝の太陽は優しいふりして、わたしを惑わす。
彼もまた、朝の太陽だった。
わたしは、もうしばらく窓辺に、あなたを見続けるだろう。それはちいさな絶望であり、なによりもやさしいちいさな光となるだろう。あなたを鮮明に思い出すとき、わたしはまだ、大丈夫だと思うだろう。
窓辺は、それらすべてを見ている。わたしが食べ尽くされる夜を見守るときのように。ただ、静かに見つめている。

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