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エンドロール

ぐっすり眠れなくなったのは、いつからだろう。夜がさみしくてたまらなくなったのは、いつからだろう。どうせ眠れないから、どうしようもないことをたくさん考えよう。このさみしい夜は、わたしだけのものだから。
喧嘩をして縁を切った友だちの名前とか、むかし付き合っていたひとが連れていってくれたレイトショーのこととか、そんなどうしようもないこと。
どうしようもないことは、昼間はひっそり隠れているくせに、夜になった途端、わたしの中を徘徊しはじめる。わたしの中を、くるくるまわったり、走ったり、泳いだりして、とにかく、ぐちゃぐちゃにする。整理整頓されていた気持ちとか、記憶とか全部がひっぱりだされて、散らかって、これじゃ怒られちゃうよ、と思う。
でも、誰に?
すぐに、一人ぼっちなことに気がつく。ここには、誰も居ない、入って来れない、どうしたって、わたしだけの場所なんだ。

喧嘩をして縁を切った友達は、花の名前だった。その花が咲く時期は、始まりの季節でみんなが待ち望む季節だったけど、私はその季節が嫌いになった。いつもその頃になると、あの子のことを思い出すから。あの子との思い出はいつだって、淡いピンク色をしているのに、私たちは燃やされた枯れ葉みたいに、くすんでバラバラになった。

むかしの恋人が連れていってくれたレイトショー。主人公が、好きな人と手を繋いで眠りについてエンドロールが流れる。
彼の運転する車の助手席で、わたしも、こんな風に愛を抱いて眠れる日が来るのだろうか。そんなことを思ったけど、恥ずかしくて言えなかった。この人となら、そんな日も来るかもしれないとさえ思った。
彼の運転する車に乗るのが好きだった。彼の横顔を見るのが好きだった。信号待ちでこちらを見て話してくれる彼が好きだった。

「しおりちゃんはやさしすぎて僕には勿体ない」と言われて呆気なく振られた。

あなたが、毎日忙しくて連絡が来なくても怒らなかったから?
あなたが、私が行きたがってたお花畑に女ともだちと行っちゃっても怒らなかったから?
ぜんぶ、いいよって笑って許したから?

もう、全部、しょうがなくて、どうでもいいことだけどね。一人ぼっちのこの夜には、すべてが重要で、すべてが間違いだった気がしてくる。
外が明るくなってきた。一人ぼっちの夜が終わる。一人ぼっちの朝が来る。なにも変わらないはずなのに、朝は壮大な何かを運んできてくれる気がする。朝の光はわたしには眩しくて、足が縺れる。こんなとき、誰か寄りかかれたらと思う。
映画みたいにはいかない。わたしの生活には、素敵な音楽は鳴らない。それでも、続く、悲しいことに、まだわたしの生活には、エンドロールは流れない。

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