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あおい

祖母の家を出たとき、月がぼうっと光っていて(というより当たり前にそこにあるというような在り方)、風は冷たく、隣の家の柿は立派で、すっかり夜だった。それは存外よい夜で、車に乗ったら本の続きを読もうと思った。
海岸線に出たあたりで、鞄を探り、手が本に触れた瞬間「こうも暗いと本は読めないな」ということに気が付いた。そして、同時に「わたしは、本当に1人では何も出来ないんだな、わたしのからだは本当に頼りないな」と思った。一度認識してしまうと、もうずっと昔から、常に、考えていたというように、そのことしか考えられなくなった。
昼間の海は、あんなにひかりを喜んでいたくせに、夜の海は、一粒のひかりも許さず、ギラギラと跳ね返した。
今、この海に飛び込んだとき、この頼りないからだはどうなるだろう。ひかりのようにギラギラと跳ね返されるのか、闇として受け入れられ、どこまでも深く沈むのか。今すぐにでも、試したかった。
母が運転する車は、時速60kmを超えている。止まらない。というより、止められない。
やはり、わたしは、わたしのからだは頼りない。

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