
日記:サーモンを食べた(寿司桶マルチ)
サーモンを食べた。今日もサーモンは私に微笑んだ。美味しかった。サーモンは常に美味しい。
じつのところ、あまり良質なサーモンユーザーではないので、サーモンなら何でもおいしいと思っている気がする。おいしいサーモンと、特別においしいサーモンがあるような気がする。
今回、私は、寿司桶マルチにおいて、5/8という圧倒的なサーモンスコアをたたき出した。
レギュレーションとしては、今回のサーモンは、寿司桶に収まっているサーモンだ。サーモンは4貫、サーモンのたたきが4貫、テーブルにはおよそ5人。思い返してみると、サーモンの数は鮮明に覚えているが、同じテーブルについた人たちの人数はあやふやだ。
寿司桶は上限コストが決まっているタイプで、玉子は5つ、ツナマヨは3つという感じで、一律に4つずつの寿司がある、というわけではない。
私はこの配分にデスゲームの予感を感じ取ったが、今回、倫理的に最大のサーモンをせしめることができた。全く再現性がないが、サーモンを食べられた喜びとともにここに記しておこうと思った。
寿司桶:序盤の戦略
寿司桶の寿司は常識の範囲内で密集しており、割りばしはそれぞれが持っていた。ゆえに、おのおのは、おそらくは初手、「一番食べたい寿司」ではなく、「一番引きやすい寿司」をチョイスしたのだと思っている。
そうなると、寿司は、……麻雀牌を積み上げて、ペアを作って消すゲーム……のように、行儀よく端から少しずつ減っていくことになる。私はまるでシヴィライゼーションで一番良い立地を引く幸運を得たかのように、サーモンの前に座っていた。だから、1個目のサーモンを食べることは全く難しいことではなかった。
しかも、これは、ほかのサーモンプレイヤーと比べて、かなり有利だった。
ごく一般的な寿司桶を想像してほしいのだが、寿司は交互に並ばず、同種の寿司は連続して並んでいる。信じられないほどに良い立地だ。
しかしながら、サーモンは4つしかなく、私はおそらくは暴君ではないため、そのあとは周辺を攻めていった。一番良い寿司をいただいてしまったので、玉子、イカ、となんとなく、デッキのバランスをそろえつつ、相槌を打ち、オードブルを食べながら、機会を待った。十分に待ったつもりである。
寿司は少しずつ減るが、あまり、大げさには減らなかった。イカ、イカ、サバ、……ネギトロ……。
寿司桶:中盤
サーモンはたしか、同じくサーモンを愛好する素晴らしい同志により(私は、無論、その慧眼に深くうなずいた)、2貫に減っていた。
ついに誰かが、「マグロ食いたいんだよ、マグロ」と周辺の寿司ではなく、中央にあるマグロを食べ、私は、寿司桶が次の段階に進んだことを察した。この流れに乗れば、乗らなくても別に、いや、食べてもいいのだが、中央の方にある、サーモンのたたきが食べられる!
これは、サーモンだが、私がまだ食べていない種類の寿司であるため、私がチョイスしたとしても、ルール違反には問われない。このレギュレーションの中では何としても確保しておきたいサーモンだ。
迂回しながら、機会を伺い、ついにサーモンのたたきに手を伸ばした。
おしゃべりに花が咲き、寿司桶は、遅々とした展開となっていた。私は誰かが「疲れてるときに食べると、アレルギーが出るんだよね」と発言したサバをチョイスした。サバを食べると、頭がよくなるはずだ(頭の悪い発言)。
寿司桶:後半~フィニッシュ
寿司桶の展開は硬直していた。
場が十分に停滞したことを確認したあと、私は、サーモンの2貫目に手を伸ばした。美味しかった。私は、あまりに私の思い通りに進んでいる寿司桶に驚嘆していた。その後、また、サーモンのたたきを食べた。もちろん、十分に待った。この時点でおのおの1個ずつのサーモンが残されており、また、全体的に、個数に関してもバランスよく消費されていた。残り一つはなかなかフィニッシュしないのだ。
全てはこの卓の人間が自分の寿司をだいたい手前からとっていることによる奇跡だった。また、飲んで、おしゃべりする人の方が多く、寿司桶の進行は極めてゆっくりだった。今思えば、自由に、寿司をとるためだけの割りばしがないのも、かなり影響していそうな気がする。依然として感染症対策我叫ばれる世の中である。
私はここで箸を止めるつもりだった。
それぞれ4つ、計8つしかないサーモンを、一人で4貫も食べたのだ。これ以上を望めば独占禁止法に触れ、公正取引委員会が私をしょっぴきにやってくるだろう。しかし、寿司桶はその後、一向に減らず、私はそもそも、ゲームのルールを勘違いしているというか、一人だけサーモンを狙っているような気がしてきたが、最後に「残ってるの、あっちのテーブルに回すか」という宣言があったため、私は急いで己の胃に、最後に残ったサーモンのたたきをかくまってしまった。
サーモンスコアは、5/8。
ふりかえり
私が無類のサーモン好きであることは全く公言していないため、この嗜好がスコアに影響している可能性は低いはずだ。
全てが順調だったわけではない。パスされるのを待っていたワサビは、隣のテーブルに渡ったきり、いっこうに帰ってこなかった。ガリは袋から出されることを忘れていた。
私は、サーモンのことだけを考えていた。
どのような点がこのようなサーモンスコアに寄与したのか考えると、まず、そもそも、寿司の種類によって個数に偏りがあり、割り切れる人数でもなかったこと。一人一貫ずつ、という意識が低かったこと。寿司に対してはバランスよく、守備をかためていたこと。上手く私の思惑と周囲の戦略がかみ合ったことがあげられるだろう。
このような混沌としたゲーム進行が、5/8というサーモンスコアを生み出したのだろう。
おそらく、もうこのスコアを超える日はこない。様々なインシデントが複雑に絡み合い、ベスト・スコアを叩き出したようである。全ての風が私に向かって吹いていた。じゃあ向かい風じゃねえか。ともかく。サーモンは今日も美味しかった。