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「ざわめき」


しりとりに美しき言葉を並べたるたとへば硝子、菫にレース
人肌は匂ふ今まで摘んできた花の全てをまとめたやうに
机には鳥に変はるといふ薬まづは背中にそしてすべてに
薔薇色の顔は湖へと向いてゐるゆつくりしづむパルフェの葡萄
まぶしさを盾にしてをり大樹から地上に降りるその一瞬は
結ひ上げてしまへば髪はやはらかい意思を隠せる飾りとなつて
鳥籠に閉ぢ込めてゐるひかりたち触れてしまへば夜空に帰る
くちびるは祈りのしづけさでひらく煙草をくゆらせるときでさへ
少年はいつもさびしきまなざしで眼鏡を外す、かの少年もまた
溜息といふ花びらの淡くあり遠くへゆけば誰も彼もひとり
眼には詩となる言葉のみ映るあなたは忘れてしまふ 驟雨に
画家住むといふ家ありて玄関の灯りの奥に潜むざわめき


※立命短歌第8号 掲載

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