ショートショート「警備」

「ねえ、お父さん、うちも警備会社と契約した方がいいと思うんだけど」
「うーん、そうだな」
「この辺でも結構入っているひとがいて、このまえ聞かれちゃったのよ。怖くないですかって」
「まあ、入っといた方がいいんだろうけどな。でも、最近物価が上がっても、給料は上がらないし、まだ大丈夫なんじゃないか」
「万一の備えって大事じゃない。起きてからじゃ遅いんだから」
「そう言って買った防災だか防犯だかのグッズ、この前、捨ててたな」
「あれは古くなったものを処分しただけ。今、もっと新しくていいのがでてるのよって紹介されたから買い直そうと思って」
「まあ、いざという時に使えないと意味無いしな」
「そうでしょ。買って安心じゃなくて、点検が大事なのよ」
「近所で強盗とか、何かあったのか」
「別にないけど、この辺住宅地で不安じゃない。でも、一応用意はしてあるの」
「用意って、何を用意するんだよ」
「貴重品は銀行の貸金庫に預けて、現金を入れた封筒を用意したの」
「現金を入れた封筒?」
「そう、変に抵抗しないで、これを渡すから帰って下さいって言えば、大概大丈夫なんだって」
「なるほどな。それで幾ら入れたんだ?」
「一応十万」
「…十万か。それ、高いのか安いのか?」
「うーん、その辺が相場なんじゃない」
「相場?そんなのあるのか?」
「わかんないけど、教えてくれたひとに値段まで聞けないし、命に替えられないじゃない」
「でも、キャッシュカードとかクレジットカードまで要求されたらどうするんだ」
「とりあえず渡して、後から補償してもらうしかないでしょ」
「まさか強盗の被害にあって、こちらの落ち度で補償できませんなんてことないよな」
「こんど、ネットで見てみる。ほら、封筒はこの引き出しの一番下にあるから」
「…」
「ねえ、警備会社に入ればさらに安心じゃない」
「もちろん、プロにまかせた方がいいには違いない。素人がムリにしてもケガするだけだし」
「ケガですめばいいけど、子供の受験とかも近いんだから、ほんと万一のことがあったら大変でしょ」
「警備会社といっても色々あるだろうし、それぞれプランも違うだろう」
「それはこれから相談しようと思って」
「やっぱり、大手の方が安心だろう。テレビでCMをやってるような」
「ほら、あのオリンピック選手の出てるCMあるじゃない」
「うんうん。金メダルをとった」
「あそこが一番有名だし、あれでいいんじゃない」
「確かに、聞いたことのないところよりは安心感があるな」
「そうそう安心でしょ」
「うん。安全に投資することは大事だとは思ってはいたんだ。玄関のドアに警備会社のステッカーが貼ってある家をわざわざ選ばないだろうから」
「そう、それだけで全然違うでしょ。ステッカー大事よ」
「…」

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