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Rp:19~21まとめ 薬剤師交流会
8月某日木曜日、僕は福山市内に出掛けた。
僕はあまり一人で出掛けたり飲みに行くことは無いので妻は驚いていたが、薬剤師や薬局の経営者が集う飲み会と伝えると快く送り出してくれた。
この会食は、言えば情報交換会だ。
全国的に薬剤師は足りていないという世の中で、薬局がどのように人手を調達するかと言えば仲介業者を通すのがほとんどだ。
だがこの仲介業者というのが曲者で、薬剤師一人を転職させるのに仲介業者は薬剤師の年収あたり3割程度の仲介手数料を報酬として請求している。
もちろんこれが悪というわけではない。
が、経営者としては仲介業者を通して薬剤師を一人雇えば150〜180万円以上のコストがかかり、その薬剤師が半年程度でやめてしまえばマイナスでしか無い。
経営者としてはこの「仲介手数料」をカットしたいわけだが、それをする手段として「情報交換会」として色々な薬剤師や経営者の方と情報交換することで
自分の薬局にいい人材を引き抜くことが出来ないかと企てているわけだ。
「今日は誘っていただきありがとうございます。」
僕は二上さんにお礼を伝えた。
二上さんは元薬局の事務員さんで前職で薬局の立ち上げに数件関わり、今では薬局を4店舗経営しているやり手社長だ。
「こちらこそ、今日はよろしくお願いします。
皆さんにとっても良い情報交換や交流する場になれればと思います。」
「はじめまして、吉岡といいます。土堂薬品というと三輪社長のところだよね。
三輪社長とは何度か食事にも誘ってもらってお世話になっているよ。」
「三輪社長と面識があったんですね。社長とはどんなキッカケでお食事されたんですか?。」
「元々山野くんと僕が知り合いでね。山野くんが三輪社長と会わせてくれたんだよ。」
まさかこんなところでうちの社長の話が出てくるとは思わなかった。
県内でもうちの会社はそれなりに名前が売れているとは思っていたが、ここまでとはな。
他にも経営者が1人、サラリーマン薬剤師が3人集まった。
経営者3人は顔見知りでこの会の発起人という形だったが雇われ4人(もちろん僕もだ)は初対面だ。
食事会は二上さんの乾杯の音頭とともに始まり、それぞれが和気あいあいと話していた。
雇われ薬剤師は僕の他に3人いた。
1人は岡田という男で国際薬膳師の資格を持っていて在宅の経験も豊富なようだった。
他の2人は大和薬局(日本で業績ナンバー2の全国展開している会社だ)の薬剤師。
こういう場に来る人なのでそれぞれがそれなりの知識や経験があり、話していてとても楽しかった。
「土堂薬品の桜井くんかい?二上さんから話を聞いたときにもしかしたら、と思ったんだよね。」
遅れて山野という男が入ってきて挨拶をしてきた。
今は薬局を1店舗経営しいるが前職は土堂薬品で薬剤師をしていた人だ。
「山野さん、はじめまして、ですね。お噂は社長からも聞いていますよ。
僕も福山で薬局経営者の食事会と聞いて、もしかしたら山野さんもいるかなと期待していたのでご一緒出来るのは嬉しいです。」
「桜井くんは独立したいと考えているの?」
「元々機会があれば独立したいと考えていたんですが、先日似島で開業している方から承継のお話をもらって、今は出向という形で事業の立て直しをしているところです。
数字次第では僕が引き継がせてもらう話にはなっています。」
「似島か。田舎で人口も減ってきているけど改善の余地があるようならやってみる価値はあるかもね。
僕から一つ言えるのは、経営は楽しいよ。失敗もあるかも知れないけど、多分死ぬことはないし、そこまでの大ゴケは無いと思う。
それに薬剤師という資格はあるけど、必ず薬剤師をしないといけないわけでも無いしね。
やることの幅は確実に広がる。
全てを考えた上で、俺は経営は楽しいと思うな。」
僕はこの言葉でとても救われた気がした。
救われたという表現が正しいのかはわからないが、「失敗するのが怖い」「雇われのほうが幸せかもしれない」
という迷いが全く無いわけではなかった自分の救いには確実になった気がした。
山野さんは僕が思っていた以上にとても前向きに物事を考え、先々のことを考える男だった。
現に、薬局の売上を元手に薬局以外に巻き爪治療の事業も行っている。
それを是と取るか非と取るかは個々人次第だが、僕は前者の考えだ。
薬局事業は一般的に門前と一対一の関係だとほとんど何も考えずに患者さんが来てくれる。
広域処方箋の獲得を考えれば話は変わってくるが、「集客」のことをあまり考えずに患者さんが来てくれるのは恵まれた事業だと思う。
それに比べ飲食、エステ、整体などはそういうわけにはいかない。
しっかり集客をし、経費を抑え、お客さんへのより良いサービスも検討しなくてはならない。
薬局事業だけだとこのあたりの数字を意識することに関して危機感は薄れてしまう。
別事業をするだけで数字を意識することが出来る。
この別事業をするということは経営者だけでなくても十分することが出来る。
今はどの業界も「副業」を勧めている時代だ。
どの分野でも問題ないと思うが、副業をし継続した売上をあげることが出来ると本業での成績も上がるという話はX上でもしばしば見かけることが出来る。