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Rp:9~13まとめ かかりつけ薬剤師とその要件

患者さんはどのように薬局を選ぶだろうか。
そもそも薬局を「選ぶ」と考えている人も少ないかもしれない。
患者さんの多くは病院の一番近くにある薬局を選ぶことが多い。いわゆる門前薬局だ。
現在厚生労働省が定める調剤基本料の区分の内、重要視されるのが集中率だ。
端的に言えば、門前とズブズブの関係の薬局はダメ、ということ。
門前からの処方だけでなく幅広く処方を受け入れる薬局が優良な薬局で、基本料に関しても優遇される仕組みになっている。

ではどうすれば門前以外の処方を受け付けることが出来るだろうか。
僕は「推しの薬局」「推しの薬剤師」を作ってもらうのが近道ではないかと思う。
これは簡単なことではない。薬局なんてコンビニの数以上ある世の中だ。

「鈴木さんはこの薬局で働き始めてどれくらいでしたっけ?」
「もう10年になるかな。どうして?」
「僕はこの薬局の在籍は今月からなんで出来ないんですけど、鈴木さんなら「かかりつけ」取れるかなって思って」
「かかりつけ薬剤師?ん〜仲いい患者さんもいるけどどうだろう。。それこそ負担額増えるしねぇ」

かかりつけ薬剤師指導料
かかりつけ医という言葉は昔からあると思うが、かかりつけ薬剤師という言葉は聞き慣れないかもしれない。
かかりつけ薬剤師とは「あなた専属の健康コンシェルジュ」といったところだろうか。
かかりつけ薬剤師になるには様々な要件はあるが、一番のハードルは負担額が増えることだろう。
お薬手帳を持参される方だと服薬管理指導料として45点を算定することが出来るが、かかりつけ薬剤師になれば「かかりつけ薬剤師指導料」として76点を算定することが出来る。

「確かに、患者さんからすれば負担額が増えることはしたくないと考えるでしょうね。
じゃあどれくらい負担額が増えるかってわかりますか?」

「えーっと最安だと45点から76点なので、その差は31点で、310円ですか?」
「そうですね。そこに医療保険のことを考えると3割負担の方だと100円くらいですね。
「100円くらいか。うちの患者さんだとジジババが多いからもう少し安くなるね。でも元々3000円支払っている人の負担額が100円増えるのと600円が700円になるのって、なんか嫌がられそうよね。」
「確かにそうですね。そのへんは信頼関係もあると思うので人は選ばないといけないですね。
なんで、まずは支払いがない人でかかりつけの同意をもらう練習をしてみるのはどうでしょう。生保やこども医療、自立支援を持っている人がたまに来ていたと思うんですが。」

生活保護、子ども医療などの公費を持っていれば自己負担が0円で医療を受けられる。
生活保護は別として、自立支援、重度心身障害などの公費を持っている人は「かかりつけ」を作るハードルが低い上に「健康コンシェルジュ」としての役割を存分に発揮出来る機会かもしれない。

「そうね。同意を取るってサインを書いてもらうんでしょ?そういうのしたことないからちょっと不安だけど、まあやってみるわ。」
「負担金がかからない人でも『なんかよくわからないからやらない』っていう人もいると思うので、患者さんにとってのメリットを如何に示せるかですね。」
「仲いい患者さんでかかりつけ取れそうな人は何人かいるんだけど、だいたい自己負担ある人なんだよね。まあ慣れてからだろうけど、そういう人に対して説明ってしたことある?」
「自己負担のある人に関しては自己負担増を上回るメリットをどれだけ示せるかですね。」

患者さんも様々で、自分の体に関して出された薬を飲むだけの人、食事や運動、サプリメントも取り入れて健康に気を使う人もいる。
急に頭が痛くなって薬をドラッグストアに来たけど、今の自分にあっている薬を教えて欲しいと薬局に電話をかけてくる方もいる。
(その場合、ドラッグストアの店員に聞くことも出来るのだが)
自己負担がかかる方でも後者の人だと「自己負担が上がる代わりに今まで以上に薬剤師を頼ってください」と言えば同意を得られる可能性は飛躍的に上がる。

「確かにそれは良いね。いつも悪いねぇと言われるけれどかかりつけを算定しているから大丈夫とわかれば気軽に頼りやすいかもね。」

基本的にかかりつけを算定している人としていない人(大多数の人)を比較して基本的にサービスは変わらない。
かかりつけを算定していない人は薬局に電話をかけてはいけないということも無いし他の薬局でもらっている薬との併用薬のチェックをしてもらえないというわけでもない。
ここがかかりつけ薬剤師の同意を得るうえで少し難しいところだと思う。
なのでお金がかかるか、信頼関係はどうか、負担額が増える分のサービスを提供できるかを考慮し交渉するのが適切だと思う。

「じゃあ時間があるときにお金がかからない人の中で声をかけられる人を選定してみましょう。不安だったらロールプレイしてみますか?」
「いや、それは大丈夫。そっちのほうが恥ずかしい。」
「そうですか。。わかりました。」

後発品への変更やかかりつけの同意に関わらず、薬剤師の仕事をする上で患者さんに同意を得るための交渉をする場面は実はある。
吸入薬指導加算、調剤後服薬管理指導料、外来服薬支援料2(旧一包化加算)なども一見医療機関発進の加算に思えるが、
薬剤師が必要と感じるのであれば「負担額増える変わりによりよりサービスを提供できる」ことを説明し、医療機関に指導の指示をもらうことができれば算定することも可能だ。
「病院の指示がなければ算定できないし」と考えず患者さんや病院に様々な提案をすることで職能をより発揮でき、信頼される薬局に昇華できるのでは無いかと思う。

鈴木さんにかかりつけ薬剤師の同意を取ってもらう提案をしたところで、他にも確認するべきことはいくつかある。

かかりつけ薬剤師の算定要件として、以下のような文言が示されている。
1.以下の要件を全て満たす保険薬剤師が配置されていること。
・施設基準の届出時点において、保険薬剤師として継続して3年以上の薬局勤務経験がある。
・保険医療機関の薬剤師としての勤務経験を1年以上有する場合、1年を上限として保険薬剤師としての勤務経験の期間に含めることができる。
・当該保険薬局に週32時間以上(育児・介護等で時短勤務を行う薬剤師の場合(注1)は週24時間以上かつ週4日以上)勤務している。
・施設基準の届出時点において、当該保険薬局に継続して1年以上在籍している。
2.
薬剤師認定制度認証機構が認証している研修認定制度等の研修認定を取得していること

3.
医療に係る地域活動の取組に参画していること

4.
患者との会話のやりとりが他の患者に聞こえないようパーテーション等で区切られた独立したカウンターを有するなど、患者のプライバシーに配慮していること

僕が最初鈴木さんに在籍期間を確認したのはこのためだ。
幸い、谷口さんが研修認定薬剤師の認定取得を支援してくれていたので鈴木さんは認定を取得していた。
パーテーションに関しても以前薬局の改装をしたタイミングで改善された。
だが、ここで問題が起こった。地域活動の取り組みへの参画だ。
夜間受付をしている医師会病院の門前薬局などは薬剤師会会員の中でシフトを回して、これに参加すれば「地域活動に参加した」とみなされる。
だが鈴木さんのようなお子さんもいる女性薬剤師にこの活動への参加はなかなか難しい。
これは早急に対処しないといけない!!

僕は元の職場である土堂薬品の友人に連絡を取ってみることにした。
僕が居た店舗では定期的に休日当番があったので「地域活動への参画」に関しては簡単だったが、そうでない店舗も沢山あるはずだ。

「地域活動への参画ね〜。休日当番と夜間の当番以外だとなにかのまつりにブースを出して健康相談に乗るとかかな〜」
「あーバラまつりとかにもドラッグストアが出店して血圧測定とかやってますね。あれって簡単に出られるんですかね?」
「基本的には申込みしてテントとテーブル椅子とかを用意すれば出来るんじゃないかな。今はバラまつりの季節は終わっているし、健康まつりに参加したら良いんじゃないかな。
あれだとテントとかは出さずに薬剤師が薬局の代表として参加すればいいだけだと思う。」

健康まつり、マルシェといったイベントは各地て定期的に開催されているはずだ。
今回僕達が参加しようとしているのは薬剤師会が主催するイベントだが、副業という形で健康マルシェを開催している人も多い。
(健康マルシェという形が「地域活動への参画」に該当するかは不明だが。。)

「休みの日に出ないといけないのはネックですが夜よりはマシかもしれないですね。その線でいけるか確認してみますね。」
「子どももいるし、うまく時間調整が出来ると良いね。」

正社員で薬局の売上向上のためとはいえ、休日に出勤してもらうのは少し気が引けるところではある。
だがこれから僕は経営者になろうとしているのだから社員との業務内容に関わる交渉は必ず必要になってくるだろう。
社員だとしても管理職ともなればこういった交渉は必要だ。
鈴木さんにロールプレイの提案をしたように、僕も鈴木さんに交渉をするためのロールプレイが必要なのかもしれない。

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