見出し画像

残像日記2

六月某日

となりの市の図書館へ行く。小説やエッセイ以外の文庫も文庫コーナーで分類され、ならんでいるのが新鮮。カードを作り、二冊借りる。穂村弘『図書館の外は嵐』、小林聡美『ていだん』。どちらも赤い表紙の本だった。抹茶アイスを食べる。


六月某日

三品輝起『雑貨の終わり』を読む。ロンドン郊外のフロイト博物館に置かれている、来館者たちが昨夜見た夢を記すノートに三品さんも書く。

……ひとりの人間の記憶のなかで、もう会わなくなったひとたちと不帰の客のあいだに、いったいなにが横たわっているのだろう、などとつらつら考えていました。

『雑貨の終わり』


どこかで生きているけれど、もう会うことはないひとと、実は死んでしまっていて、二度と会うことができないひと。近しい関係ではないとき、ことさらどう考えればいいのか。保坂和志も『もうひとつの季節』のなかで、そのようなことを書いていた。
高校生の一時期、家にいられない事情から家族全員でホテルに雲隠れする話もよかったが、無印良品の話が空恐ろしかった。長年、無印良品でアルバイトをしながらバンドを続けているムーアさんはアイリッシュの音楽をやっていて、日本中、どこでライブをしても「無印良品の音楽みたいですね」といわれるそうだ。他人からそういわれることには慣れたらしいが、あるときから、自分の音楽を自分で無印良品の音楽みたいだな、と思いはじめてしまったらしい。アルバイト先でBGMを聞くのも、練習後のバンドの録音を聴くのもつらい、という。読みながら、真綿でゆっくりと絞められていくような息苦しさを感じた。抹茶アイスを食べる。


六月某日 

小林聡美『ていだん』を読む。ていだんとは、三人が向かいあって話しをすることらしい。市川実日子、市川実和子の姉妹の名前をみつけ、思わず借りてしまった。写真の実日子さんがアンドリュー・ワイエスの描く女性のように見える。抹茶アイスを食べる。


六月某日

川上弘美『真鶴』を読む。不在について。いないものはいつまでたってもいなくならず、いるものはいないように感じる不思議。だれかの記憶に残りたければ、いなくなるのがいちばんたしかなのではないか、うつくしいのではないかと思ってしまう。






いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集