ゆかりある日記 その32
ウーバーイーツとゆかりさん
道にいる大きなカバンを背負ってバイクか自転車で急ぐ人は皆ウーバーイーツだと思っている。毎日どこかでウーバーイーツとすれ違うたびに、あ、ウーバーイーツと心の中で声に出してしまっていたので、いつかは頼みたいと思っていたのだけれど、頼んだウーバーイーツは知らないウーバーイーツでお店の人ではないから、と考えてしまうとほんの少しだけ怖くてまだ頼んだことがなかった。
しかしこんなにも街ではウーバーイーツが溢れているということは注文する人がいるんだ、と自分を安心させて、ようやくダウンロードしただけだったアプリを起動させる。
ゆかりさんにウーバーイーツ頼むよ!と言うと、え!!!と僕が鬼退治に行くかのような驚きの声を上げて、僕のスマホを見つめる。何を頼もうかと考える我らは街頭テレビでオリンピックを見つめる子供のようだった。
マクドナルドに決めて注文する。マクドナルドなんて身近だけど、我が家からはマクドナルドは遠い。昔住んでいた場所もマクドナルドからは遠かったので、そういう人生なのだろう。どういう人生だろう。
そしてマクドナルドならば失敗がない。これが一番大事だと思う。ウーバーイーツに浮かれて初めて食べるようなものをウーバーイーツに持ってきてもらっておいしくなかったら僕はウーバーイーツを恨んでしまうだろう。そんな失敗をしてしまったらウーバーイーツたちとすれ違うたびに睨んでしまう。
失敗がないマクドナルドを注文して画面を見続けていると、見知った地図の画面に変わる。そして遠くでバイクのアイコンとマクドナルドが浮かんだ。何が起きるのだろう。僕のスマホの中では小さな現実の地図が現れている。
マクドナルドは我らの注文を用意している表示が出て、バイクはマクドナルドに向かっているとのこと。バイクだからか、すごいスピードでマクドナルドへ向かっていく。いつも我らが歩く道を倍以上のスピードで進む。
準備ができたと同時にバイクは到着し、今から向かうとの表示が出てきたので、ゆかりさんに大変だ、ウーバーイーツが来ると街に攻め入りされる前の住人のような言い回しで伝える。
ゆかりさんも一緒にバイクが移動する様を見つめる。どんどんいつも歩く道を進んでいくバイクのアイコン。ゆかりさんはじっと見ながら見てしまうなあ、つぶやいていた。そんなことを言ってある間に画面上では家の通りを通るので、思わずカーテンを開ける。バイクが通り過ぎる。あれだ、来たぞ!ゆかりさん!とインターホンの前に移動してウーバーイーツを待つ。少し髪の毛を手櫛で整えていると、インターホンが鳴る。すぐに通話を押したいが、待ってました!感を出したくなくてインターホンの終わり待って、通話を押す。はーい。
男性が何か早口で何を言っているかわからない言葉がインターホンから聞こえる。ウーバーイーツ語だろうか。僕も濁った声ではーいと返事をしてドアを開けると背の小さな男性が立っていた。勝手にすごい速さで来たから屈強な男だと思っていた。むしろウーバーイーツはみんなボディービルダーだと思っていた。偏見。注文したものを受け取る。
これが、、、です。
これが、、、、です。
これが、、です。
ウーバーイーツ語の名詞が聞き取れないので、適当に返事をする。ドアを閉めた瞬間、ふと気づく。
普通の出前だ。ゆかりさんはカーテンを少しだけ開けて帰るウーバーイーツをじっと見つめていた。
眠るゆかりさん
ふと日記を書きながらゆかりさんを見ると、正座したまま寝ていた。なんか、そういう偉人のエピソードがあるような気がした。写真を撮ろうとした、ふっと目を開けてこっちを睨んできた。
なんで写真を撮ろうとしたのがわかったのだろう。