オーストラリア2400Km自転車旅31日目🚴‍♂️

31日目 「野グソ」

午前中にすべての添木を抜き終えた。昼休憩をとってから、添木を縛るための紐をこしらえた。紐の一端に小さい輪を作る作業。
これが500本、、、
黙々とその紐をこしらえている時、もう一人、髭に雇われていたオーストラリア人のフィルのおっさんが足を引きずりながらこちらへとやってきた。

「やーフィル、どうしたその足?」
彼は顔もひどく腫れている。

「・・・えらい目にあったよ。昨日ケンカしちまった。彼女を怒らして、、、そしたら彼女、筋肉むきむきの男友達を呼んできてそいつにボコボコに蹴られるわ殴られるわで」
そりゃひどい、漫画みたいな話。。。

「何で彼女を怒らした?」

「アボリジニが俺に煙草をくれってあんまりにもしつこく言うから、あっちいけやこのクソが一っておっぱらったら彼女がぶちぎれて。。。彼女はアボリジニーとオージーのハーフで、カンに触ったのかもな」

あぁーよく分からない。

「その分だと当分働けそうもないな」

俺は彼の足を見て言った。
ほんとにえらい目にあったよ、と言いながら彼はポケットから小さいナイフを取り出し、履いているジーパンの裾を切り、さらに手でそこを引き裂いた。

「見てくれよコレ」

わざわざ傷口を披露してくれた。青く膨れあがっていて、見てられない。

「俺は彼女んちで暮していたが、もうそこには帰れなくなった。だから今日からお前らみたいにここのファームに住み込みで働かせてもらおうと思ってな。だけどしばらくは働けそうにないからただ寝るだけ。恥ずかしくてあんまりタン(髭)とは顔合わしたくねーよ」

髭は、、、良いヤツかも、と思った。

「そっか。早く良くなるといいけど。。。でどこで寝泊まりすんだ?」
「家の裏手に大きな倉庫があって、そこにマットをしいたよ。今日からそこで寝る」

「俺たちはそんなに長くここで働く気ねーから、すぐにこのキャラバンに入れる。そしたら蚊にもさされないし」

「俺の寝床にいつでも遊びに来てくれよ。暇で死にそうなんだ。コーヒー入れるからさ、な!」

彼はひょこひょこと足を引きずりながら帰って行った。

俺は、午後4時にやっと紐をこしらえ終わり、さっそくファームへ行って添木を縛る作業を始めた。今日で17列全て終わらせたい。。。

ただ、、、何となく今日は腹の具合に嫌な予感があった。。。
添木を縛るのにしゃがんだ瞬間突如すさまじい便意に襲われた。。。

「昨日のサバかっ!

ヒヨコにあげないでよかった」

この便意、一刻を争う!

ここから髭んちのトイレに行く余裕は、、、ない

「こうなりゃ野グソじゃー!」

あたりを見回す、ハッッ!

不幸なことにすべてのトマトはなぎ倒されていて野グソポイントが無い。最高の見通し!我ながらよくこんだけ倒したなと。

「誰じゃー!こんな完璧に茎倒したのはー!」クソッ

身を隠すとこがない。全神経を肛門に集中させキュッと口を固く閉め、最も近くの茂みまで祈るような気持ちで駆け込んだ。目にも止まらぬ速さで短パンをおろした、、、が間に合わず、半分は短パンの中へと放たれた。

「あーぁ、やっちゃった。うんちもらしちゃったよ。最悪」

ショックだった。

ん、、、?

「・・・紙がねぇー!」

ティッシュなんて持ち歩いてない。クソッ

その辺の葉っぱを引き千切ってケツやら何やらを拭いた。

葉っぱの幅なんかせいぜい3cm、、、、

「あーーー手についたーーー!!」

手ぇ臭せー!

もーいいよ。。

その後面倒くさいのでそのまま働き続けた。始めはお尻が冷たかった、、、がすぐに慣れた。

「スゲーな、、、慣れるんだ」と自分に感心した。

「このまま最後までいったれーー!!」

時間は8時を回り、真っ暗になった。

ファームの横を通った車から声をかけられた。

「おーい、いつまでやってんだー!」

「うるせー一!」

午後8時半全てを終えた。

これで気持ち良く新年を迎えられる!

少しの不快感と大きな達成感!

髭んちに蟹股で行ってシャワーを浴び、念入りにケツと短パンを洗った。

キッチンに行って飯を作ろうと思ったら、おやっ!

シンクの中にソーセージが3パック無造作に置いてある。。。

よく見ると賞味期限が切れている。

これは、、、『賞味期限が切れちゃってるけど、もし良かったら食べて』という事だな、と解釈した。

俺が仕事を終えたことに気付いてか、タコもキッチンにやってきた。

「これ食ってくれということですよね?」と聞いてみた。

「俺もそういうことかなと思ったんよ。けどやめといた」

「え、何で?よし焼いちゃいましょう!」

「いや俺はやめとくわ」

チェッ、おもしろくない。

吹けない口笛をスゥースゥー吹きながらソーセージを焼いていると、、、

髭夫妻が帰ってきた。

一応聞いとこう。

「あの一このソーセージって食って良かったんですね!?」

「・・・・」

髭は何にも言わない。

ワイフは目が点になっている。二人はしばらく足を止めていたが、すぐに寝室へと入っていった。

「ん??・・・・・食っちゃいけなかったヤツか。」

ソーセージのうまそうな油の匂いが虚しくあたりにたちこめた。も一焼き始めているし後に引けない。

無言でソーセージを焼き続けた。一本だけ食って、残りを皿に盛り、ラップをして冷蔵庫に入れた。

タコは大きな顔をさらに大きく膨らませ必死に笑いを堪えている。その顔で俺も笑けてくる。頼むやめてくれ。

タコは俺に一本ビールを渡してくれた。

「どうしたんすかコレ?」
髭が大晦日と言うことで俺とタコとフィルに皆で飲んでくれと言ってビールをプレゼントしてくれたとのこと。えっ!いいとこあんじゃんあの髭。

となるとなおさらソーセージの件が情けなくなってくる。

「全部でビールを5本くれてんけどな、うち3本をフィルが持ってった」

「ははは、そうなんですね。」

結局ブタミンチ(正真正銘俺の)を焼いてご飯と一緒に食べた。ビールをグビグビ飲むと、改めて仕事を終えた達成感を噛み締めた。

・・・ヒヨコは!?、、、辺りを見渡したが、姿を見せない。

今頃日本ではみんな紅白歌合戦見てんだろうな・・・

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?