なぜ、IVRyは飽和するホリゾンタル領域でT2D3立ち上げができたのか
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SaaSスタートアップを取材していると「この企業が伸びているらしい」という噂を度々耳にする。
対話型音声AI SaaSを提供するIVRyもそんな一社だった。
優秀な社員を多く集める様は、誰が呼んだか「人材のブラックホール」
2024年5月には、ALL STAR SAAS FUNDをリード投資家としたシリーズCラウンドで30億円の資金調達を行うなど、今、最も勢いのあるSaaSスタートアップの一社だ。
Web予約システムやチャットツールなどが普及をするなかで”斜陽”とも受け取られやすい電話応対領域だが、奥西氏は「今後もT2D3ペースで拡大を続ける」と強気の姿勢を貫く。
ホリゾンタルSaaSは飽和したとの声も聞かれるなかで、投資家をも驚かす急成長プロダクトを生み出した要因はなにか。
Next SaaS Media Primaryは、代表取締役 奥西氏に独占取材を行い、その視点に迫った。
今「ガチ」で伸びているSaaSスタートアップはどこか
奥西氏のインタビュー前にIVRyが本当に「人材のブラックホール」であるかを検証してみたい。
Next SaaS Media Primaryでは、現在、企業データ分析サイト「compalyze*」と協業し、SaaSスタートアップ従業員数データの月次集計を開始している。
本データを活用し、SaaSスタートアップ468社を対象に、昨年12月時点と今年7月時点の従業員数の変化を集計した。
従業員数30名以上の企業を対象に、増加率が大きかった上位ランキングが以下の通りだ。
SaaSビジネスにおいては、ARRと従業員数の増加は相関傾向が強く、従業員数の伸びがその企業の「アクセルを踏む度合い」を現している。
変化率の首位はPrimaryも以前に取材を行ったSales Markerで176%の増加率となっている。そのほかにもLayerX、ニーリー、SmartHRなどT2D3成長を標榜するスタートアップが順当に社員数を伸ばしている。
このなかでIVRyは6位につけており、おおよそ半年間で従業員数が50名から100名と、人員が倍になる拡大ぶりを見せている。
一般的にスタートアップでは、30名、50名、100名といった規模感で組織構築の課題を感じやすいと言われているが、この壁を半年ごとに迎える急成長はどのように生み出されてきたのだろうか。
*「compalyze」はベータ版のリリースに向け、現在開発中。
T2D3ポテンシャルのある市場の見出し方
――― 奥西さんは、現在のIVRyのサービスに至るまで、6つのプロダクトを立ち上げてきたと聞きました。当初どのようにビジネスを開始したのでしょうか。
奥西氏: 大学院に在籍していた2013年から2015年ごろ、仲間とiPhoneやアンドロイドのアプリを開発するなかで、新しいプロダクトを作っていくプロセスが面白いと感じ、そこから新規事業やビジネスを立ち上げるキャリアを志しました。
当時、映画「ソーシャル・ネットワーク」にあったようなマーク・ザッカーバーグのSNSに見られる世界に影響を受け、自分でも開発者向けのコンテストに出ていました。
審査員からサービスのマネタイズに関する質問も受けるなかで「そういうことも自分で考えないといけないのか」と知りました。映画の中では大人が考えていたのですが、現実は自分でやるのかと。笑
開発だけでなく、自身でサービスデザイン全般を担えるスキルを身に着けたいと思い、新卒ではリクルートに入社しました。エンジニアではなく、UXやプロダクトマネジメントをやらせてもらいました。
リクルートでは起業を見据え、3年ほど働くことを想定し入社しています。入社時の面接官から「起業したら自分で1憶円失うかも知れないが、リクルートで100億円失敗しても自分の給料が数百万円下がるだけだから大きな商売をやるのもいいよ」とアドバイスをもらい、面白いなと思いました。
丸4年在籍していた中で、事業立ち上げも失敗もさまざまな経験をしました。新たなチャレンジを行うにあたり、リクルートの大局方針や人事・ファイナンスに対する制約などがなく、自分でいろいろなことをコントローラブルにしたいと思い、起業に至っています。
――― 起業してからは、まずどのような事業に取り組んだのでしょうか
奥西氏: 起業当初は、人材データ分析のサービスに取り組んでいました。企業内で人事評価を行う際、上司の判断といった属人性があるため、同じ能力があってもフェアな評価にならない可能性があり、それを全社的にシステムで管理・可視化するようなサービスをはじめました。
大手企業には実際に導入も進み、反響も頂くなかで、中小企業は導入コストやそもそもIT人材が不足しているため、このようなソフトウェアの提供が難しいことも分かってきました。
Web文化では「ソフトウェアはオープンソース的に誰でも使用可能であるべき」という志向があります。
一部の資金やリソースがある企業だけがソフト使える世界ではなく、誰でも使え、広く企業にいきわたることで全体の効率性があがるような、非対称性がないビジネスの方が自身のモチベーションにつながると判断し、そこからピボットをしました。
――― 中小企業向けビジネスにフォーカスをするなかで、複数のビジネスを立ち上げたのはなぜでしょうか。
奥西氏:そこからは、採用求人ページが簡単につくれるようなSaaSや副業系のメディア、天気にもとづいた服装のサジェストメディアなどいろいろ取り組みました。
これは、リクルート時代の学びですが、新規事業の立ち上げは常に分からないことだらけで、仮説検証してはじめて伸びる、伸びないが判明します。初期仮説が当たる確率は10%程度ですので、10個サービスがなければヒットが出ないと。そのため一か月に1サービスのペースでローンチし、その7個目が現在のIVRyでした。
ファウンダーマーケットフィットという言葉がありますが、自分自身がエネルギーが湧き続けるような領域に取り組むことも同時に重要だと気づきました。どんなサービスも最初は無名の時代を過ごす中で、それでもやり続けられるためには、本当にやりたいことにフォーカスする必要があります。
――― 「1人リクルート」のようにビジネスを立ち上げていったのですね。今の電話応答サービスの着想をどのように獲得したのでしょうか。
奥西氏:事業をはじめるにあたっては、受託開発でキャッシュをつくり、製品開発を行っていました。当時は仕事に忙殺されており、携帯電話にかかってくる着信を全て無視していたのです。
ところがある日、銀行融資審査で「電話で本人確認ができなかったので融資できませんでした」というお知らせを貰ってしまいました。笑
この経験から、電話をかける側と受ける側に大きな非対称性があることを実感しました。当時、私が受けていた8割ぐらいは営業電話であり、本当に必要なのは2割程度でしたが、それを受けるためには全ての着信に対応しなければいけない。
そのため、受け手がその非対称性をコントロールできるような、自動応答のシンプルなプロダクトを開発したいと感じました。
――― IVRyが登場するまでも電話自動応対の製品はそれまでも存在していました。成熟した雰囲気も漂うマーケットに対してどのような勝ち筋を描いていたのでしょうか。
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