【直撃取材】「ハードウェア×SaaS」は次のトレンドとなるか
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「HESaaS」というワードをご存じだろうか。
Hardware Enabled SaaSの略称であり、ハードウェアとソフトウェアの掛け合わせを示し、国内でもにわかに注目を浴び始めているコンセプトだ。
昨年、クラウド録画カメラサービスを提供するセーフィー、スマートロックと入退室管理システムを提供するPhotosynth(フォトシンス)の2社が「HESaaS」企業としてIPOを行うなど、スタートアップの台頭も見られ始めている。
ホワイトワーカー向けの業務系SaaSにおいては、数多くのプレイヤーが台頭し競争が激化する中で「ハードウェア× SaaS」にはどのような可能性が残されているのか。
企業データが使えるノートでは、2021年12月通期の決算発表直後にフォトシンス代表取締役社長河瀬氏に独占インタビューを行い、「HESaaS」の可能性と未来について迫った。
クラウド入退室管理システム「Akerun」が必要とされるわけ
フォトシンスはクラウド型の入退室管理システム「Akerun」の提供を主軸にビジネスを展開している。
扉に後付けする「Akerun Pro」と電子錠の制御端末「Akerunコントローラー」の2つのスマートロックハードウェア端末、そしてクラウド上で入退室管理を行うソフトウェア「Akerun Connect」のラインナップをもっている。
従来の入退室システムはビル内だけで設置・管理されるオンプレミス型が主流となっており、現在も大企業や大型のビルにおいては既存メーカーが提供するシステムが利用されるケースが多い。
オンプレミス型のシステムは情報がビル内のサーバーに閉じているため、インターネットを通じた外部からのアクセスができず、複数拠点を持つ企業などにとっては不都合が大きい。また、一般的なオフィスビルで入退室管理システムを構築すると、ビル全体では数千万円以上のコストがかかるなど、中堅企業以下では賄うことが出来ない高価な設備となっている。
一方、都心のオフィスビルにおいて執務エリアのサーバールームや機密性の高い部屋は、テナント企業自身が自前で入退室管理システムを設置する必要性が増しており、より安価で使い勝手の良いセキュリティシステムが求められていた。
このような不都合・ニーズに対しフォトシンスは初期導入費用が掛からず、月額17,500円から利用可能なクラウド型のシステム「Akerun」を2016年から法人向けにリリースし、現在では4,278社以上まで導入を拡大している。
売上高に占めるサブスクリプションの割合は88%、ARRでは16.5億円に上り、成長率もYonY+36.5%での成長を見せるなど、足元の決算でも順調なKPI推移を見せている。
「HESaaS」のポテンシャルは単に「ハードウェアをクラウドで利用できる」という利便性に留まらない。
「Akerunの将来性は飲食・小売店で使われるPOS端末をイメージすると分かりやすい。端末利用のサブスクリプションだけで稼ぐモデルではなく、その先の決済などに広大な市場がある。(河瀬氏)」
上記コメントの通り、ビジネスの真骨頂はAkerunが浸透した後に、そこから得られたデータ・情報を通じてセキュリティや労務管理システムといった事業が連続的に立ち上がっていく拡大可能性にある。
「Akerun IDを持っていれば、家やオフィス、ホテルなどのあらゆる扉を開くことができるキーレス社会の実現を目指す。プラットフォーム化して蓄積した人間の行動データを元に、情報の可視化や効率化の提案が可能になる。(河瀬氏)」といったビジョンのもと、まずはその足掛かりとなるドアロックシステムAkerunの普及を進めている。
ハードウェアのSaaS化は必然
取材の中で河瀬氏は「ハードウェアのSaaS化は必然であり、今後も加速する」との見方を示している。
この5年程で企業が利用するソフトウェアはオンプレミスやパッケージ型のソフトウェアからSaaSへのクラウド化が加速した。背景には、ベンダーが売り切りからサブスクリプションモデルへの転換を志向したことに加え、ユーザーも一過性の価値提供から継続的なアップデートによって利便性を向上させたい意図が一致したことが大きい。
このような変化の波がハードウェアにも到来しつつある。
「個人の観点でも家や車を思い浮かべると分かりやすいが、これまでのハードウェアは基本的に売り切り。データを通じて定常的に顧客と接点を持ち、継続的に提供価値をアップデートできる可能性がハードウェアには大きく残されている」とフォトシンスの経営陣は語る。
実際に設備やハードウェアのサービス化に移行するグローバル企業が目立ち始めている。
GE(General Electric)は航空機エンジンを売るだけではなく、「エンジンの稼働時間」や「エンジンの回転数」に応じて課金するビジネスモデルへと大きくシフトし、データから読み取れる情報の提供といった新たな付加価値を創出するなど従来のモノ売りから脱却を図っている。
「ハードウェア(リアルなモノ) = 売り切り」といった図式が色濃く残る中で、「HESaaS」には大きな市場化の機会が眠っていそうだ。
Akerunのビジネス可能性を問う
このようなトレンド変化がありつつも「Akerunを単なるクラウド型の施錠システムとして見られ、将来的な成長可能性に注目が集まらないこともまだまだある(河瀬氏)」と「HESaaS」のコンセプトが理解されるまでにはもう少し時間を要する状況があるようだ。
ここでは、投資家などからも寄せられる疑問を交えながら、Akerunのビジネス可能性を探っていく。
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