「SaaS×Fintech」トップキャピタリストの景色を探る(WiLパートナー 久保田 雅也氏)
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本記事では2回シリーズに渡り「SaaS×Fintech」領域のトップランナーにインタビューを行っている。(前回はLayerX福島氏)
「SaaS×Fintech」に注目が集まる中で、今回は、5月に150億円の大型資金調達を公表したUPSIDERなど、注目スタートアップにも投資を行ってきたWiL パートナー久保田氏にインタビューを行った。
FintechがBtoBのシステムに入り込むことで、SaaSのビジネスモデルや企業評価がどのように転換していくのか。そして、なぜそのようなビジネスモデルの理解が今後のSaaSを考える上で必要不可欠なのか。
国内でも屈指の発信力を持つトップキャピタリストの視点を探った。
必ず知っておくべきSaaS×Fintechの背景
――― 国内においてもSaaSとFintechの掛け合わせが進む事例が増えてきました。どのような背景があるのでしょうか。
久保田氏:SaaSの中でも特にバーティカル領域でFintech化が進んでいくと考えています。この背景には大きく2つの要素があります。
1つは、マネタイズの観点です。特定業界におけるソフトウェアのサブスクリプション売上だけでは市場が限定的であることから成長に限界があり、LTVを上げていくための新たなキャッシュポイントが必要となる企業が増え始めています。
バーティカルSaaSは他業界へと染み出してサービス領域を広げることが難しく、特定の産業構造や業界環境に依存しています。既存のマーケットや顧客をベースにLTVを伸ばすための戦略として、Fintech化が進んでいます。
もう1つの観点は、より良い顧客体験の提供です。
顧客にとってより良い体験を届けようとすると、ソフトウェアを超えた価値提供が必要になります。プロフェッショナルサービスやコンサルティングのような人的サービスも1つの選択肢ですが、金融サービスを付加して一連のより良いUXを実現することは重要です。
バーティカル領域では産業や業界ごとに深く根ざした課題が存在し、ソフトウェアが解決できるのはそのごく一部です。業務プロセスに踏み込んだ顧客体験を提供するためにFintechと融合する流れが生まれています。
――― これらはSaaSビジネスの側面から見た背景ですね。SaaSとFintechはどういった関係にあるのでしょうか
久保田氏:これまでの一般的な金融ではなく、SaaS特有の顧客データへのアクセスが可能な構造が「SaaS×Fintech」の肝です。
ソフトウェアを通じ、「どの顧客が、いつ訪れ、どんな行動をとり、日々どのくらい使っているのか」といった情報が得られれば、決済や与信といったFintech要素をシームレスに提供することができます。
金融業は垂直産業で閉じておらず、各産業の裏側に水平的に隠れています。業界ごとに顧客との接点をソフトウェアで押え、裏側にBaaS(Banking as a serivce)として金融サービスを実装している状況が「SaaS × Fintech」の正体ではないでしょうか。
――― 金融業の観点からも「SaaS×Fintech」に着目する理由があるということでしょうか
久保田氏:金融そのものはデジタルでほぼ完結する価値に留まっており、本質的にはコモディティです。例えばローンはみずほやSMBCなど、どこで借りてもユーザーにとってほぼ違いがありません。
これまで金融業が顧客を囲えていたのは、規制産業でありライセンスを必要とすること、ゆえに巨額の資本が集まりやすかったことが要因です。また駅前の一等地に支店を置き、認知と信頼を獲得できていたという地理的な優位性も影響しているでしょう。
従来、金融事業者だけが提供していた金融サービスは顧客体験が垂直に閉じていました。しかしながら本質的に金融はコモディティであり、同サービスだけで顧客を囲ったり誘引したりすることはできません。
そのため金融業は垂直から水平へと構造転換が起きてきました。
すなわちユーザーやコミュニティを抱え、一次情報を握っている産業サービスの裏側に隠れるようになったのです。「SaaS × Fintech」の流れにはこうした金融側面から見たマクロの背景も影響しています。
――― 「SaaS×Fintech」で先行している成功事例はありますか
久保田氏:社員の一元管理が可能な人事管理ソフトウェアを提供するGustoが好例です。彼らはペイロール(給与支払システム)を起点にFintech事業を展開しています。
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