【Shippio】覚醒する産業DXスタートアップ
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日本のインド哲学者、中村元が訳した「ブッダのことば」に「犀(さい)の角のようにただ独り歩め」という一節がある。
この言葉は、「道を求める者は、他の人々にわずらわされることなく、孤独であっても、自身の確信にしたがって進むべき」という教えを伝えている。
そんなブッダのことばを思い起こさせるのが、産業の黒子とも言える国際貨物輸送領域で、着実に成長を続けるShippioの姿だ。
過去10年、国内SaaSスタートアップの主役は「中小企業向け」であり、「非基幹システム」であったが、日本企業が真にDXを遂げるには「重い産業」を変えるスタートアップが必要だ。
デジタルフォワーダーとして、業界に新風をもたらしているShippioは、いかにその道なき道を切り開いてきたのか。
代表取締役佐藤氏、経営企画部長として、買収先の協和海運で社長を務める井上氏に、産業DXスタートアップ立ち上げの要諦を聞いた。
いまこそ、スタートアップは日本の産業DXを実現するとき
これまで日本のスタートアップシーンでは、基幹産業向けなど「重い」IT分野は敬遠されてきた。
時間がかかる、商慣習を変えづらい、ユーザーリテラシーが低い、VCファンドの期間と合わない、初期投資額が大きい、SIerと競合する。
理由をあげればキリがないが、つまるところ「難易度が高い」とされ、そのような分野における起業も、投資も限定的だった。
事実、上場SaaS企業のARRリストを眺めると、多くは、SMBを主顧客とするホリゾンタル型の企業が多く、産業DXプレイヤーの影は薄い。
ただ、近年、このような状況を変えるスタートアップが連続的に登場している。
製造業や金融、ERPなど国内IT市場の本丸とも言える領域で、SIerの牙城を切り崩し、アナログな現場を変革する事例が出始めている。
国際貨物輸送領域における数少ないスタートアップ企業として、貿易業務のDXを推進するShippioはその象徴的な存在だ。
日本通運を筆頭に、2兆円規模の売上を誇る企業が存在する国際貿易産業。
しかし、この業界には依然として多くのアナログ業務が残っており、巨大な市場である一方で、新規参入する新興企業はほとんど存在しなかった。
そんな中、Shippioは、国際貨物輸送の事業者として参入し、デジタル業務プロセスを確立。
その後、自社の経験を活かして、自社の顧客や競合他社にSaaSを提供する「オペレーショナルDXプレイヤー」へと成長する独自戦略を展開している。
ここからは、佐藤氏、井上氏に実際にビジネスを立ち上げる中でのポイントやその展望を聞いていく。
*なお、Shippio立ち上げ経緯はこちらの記事を参照ください
複雑な要素が絡み合う国際貨物輸送領域での成長戦略
――― 国際貨物輸送はあらゆるビジネスに影響がありますが、一般的には馴染みの薄い領域です。現時点で業界を取り巻く課題を教えてください。
佐藤氏: この数年では、地政学的なリスクの増大とサプライチェーンの不安定化が大きな業界課題としてあげられます。
例えば、昨年勃発したイスラエル・パレスチナ問題では、スエズ運河ではなく、周辺海域の安全な航行が脅かされ、多くの船会社が喜望峰経由の迂回航路を余儀なくされました。
その結果、貨物の輸送時間が1か月ほど増加するケースもあり、燃料コストの上昇、ひいては船賃の高騰を招きました。
これにより、船会社だけでなく、荷主やその先の最終消費者などにも価格転嫁されるなど、影響が大きいのですが、なかなか一般的にも注目されづらくあります。
今後も不確実性は高く、そのような状況に対応するためにも、アナログ業務のデジタル化が求められています。
――― 2年前に取材をさせていただいた際、大手フォワーダーはデジタル化に二の足を踏む状況でした。そこから状況に変化はありましたか。
井上氏: 2年前と比較すると、デジタル化に対する機運は飛躍的に高まり、ユーザー側の要望も大きく変化しました。
私たちは、Shippioのデジタルフォワーディングの経験をもとに、2024年9月に、物流事業者向けSaaSプラットフォーム「Shippio Works」をリリースしましたが、反響は非常に大きく、多くのフォワーダーもデジタル投資に積極的な意向を感じています。
国が推進する貿易DXの補助金制度も後押しとなり、まさに「貿易DX元年」と言える状況です。
――― Shippioは、1プレイヤーとして国際貨物輸送業界に参入し、そのノウハウをSaaS展開していく順序をとっている点が、既存のスタートアップと異なり、特徴的です。
佐藤氏: 私たちの経営判断として、まず重要だったのが、プレイヤーとしてこの領域に参入したことです。
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