ロシアは平等主義の夢を見るか?#5
歴史ストラテジーゲーム『Victoria 3』のロシアで平等主義社会の実現に挑戦したAAR(リプレイ)です。広大な国土と莫大な人口という課題を克服するため、今回は連邦化という戦略を採用しました。
本文中の出来事はすべてフィクションです。実在の人物・団体・国家などとは一切関係ありません。
前回のあらすじ
普仏戦争に乗じてバルト連合州の奪還を目指したロシア軍でしたが、現地の革命とアメリカの干渉により撤退を余儀なくされました。
正教会に代わり政治の主導権を握ったのは知識人でした。これまでの停滞が嘘のように社会改革が進み始めたものの、急激な改革は国内の混乱を生み、ロシアは一時革命寸前に陥ります。
危機を乗り越えたロシアは平等主義社会を目指して邁進しました。しかし、そこに立ちはだかったのはあまりにも高い理想の壁でした。
第5章 五カ年計画
計画経済の時代
今回の最終目標であるジャーナル「平等主義社会」が出現したのは1914年。ロシアの現状は要求される条件に遥か及ばず、キャンペーン終了までの残り22年で平等主義社会を実現するのは不可能に思われました。
百姓人口:30.9%(目標10%未満)
生活水準:15.9(目標20以上)
識字率:77.3%(目標90%以上)
そこで考えたのが、国勢調査に基づく計画経済の導入です。各州のデータをスプレッドシートにまとめ、計画的に開発を進めることにしました。
ただし、計画経済を採用したのはあくまでもプレイヤーで、ゲーム上の経済制度はレッセフェールを採用しています。自由放任主義なので政府の影響力は弱いですが、君主制であることを利用して積極的に布告を出しています。
まずは近代化の遅れている州で集中的に開発を進める一方、1916年には国境閉鎖を制定しました。移民の流入による識字率低下を防ぐためです。
同年、すべての政府機関で投資レベルが最高になり、摩天楼、地下鉄、動物園といった最新施設が立て続けに誕生しました。ロシアは見違えるほど豊かになり、いつの間にか下層階級の必需品に自動車が並んでいるほどでした。
ここでロシアを取り巻く外交状況にも触れておきましょう。
普仏戦争の際に独立を果たしたバルト連合州はロシアの属国に戻りました。ロシアの勢力圏に収めた後で外交的に保護国化したのです。
一方、ヴィクトリア女王が革命に斃れた後、ロシアはイギリスとの関係改善を進めました。今回の最終目標は世界の覇権を握ることではないため、これ以上の対立は無意味だからです。
しかし、イギリスとの関係修復は容易なことではなく、外交戦での譲歩と恩義を重ねる必要がありました。それでも苦労の甲斐あって、1900年には露英同盟が成立。ただし、無用の戦争に巻き込まれることを防ぐため、同盟締結後もイギリスが起こす外交戦には即座に局外中立を宣言しています。
第一次五カ年計画
さて、計画経済の開始から4年間でロシアの状況はここまで改善しました。
百姓人口:30.9% → 24.7%(目標10%未満)
生活水準:15.9 → 18.1(目標20以上)
識字率:77.3% → 81.2%(目標90%以上)
初期の計画経済に手応えを感じて、1918年からは本格的な「五カ年計画」を発動しました。基本戦略はこれまで通り、識字率の低い州に教育機会を高める「社会的流動性の促進」の布告を出し、百姓の多い州を集中的に開発することです。
五カ年計画を開始したこの年、早くもロシアのGDPがイギリスを上回って世界第一位になりました。
翌年には老齢年金を制定。生活水準が大幅に改善され、まずは生活水準20以上の条件を達成しました。しかし、法律に反対していた正教会が「宗教的フィクション」のデバフを発動。識字率向上の障害になってしまいます。
1921年には労働者の保護を制定。生活水準でもイギリスを上回ります。この頃、小ブルジョアの勢力が3割を超え、ロシアは総中流社会となりました。
第一次五カ年計画は1922年末に完了。国勢調査の結果はこうなりました。
百姓人口:24.7% → 8.4%(目標10%未満)達成!
生活水準:18.1 → 21.8(目標20以上)達成!
識字率:81.2% → 84.4%(目標90%以上)
未開発の州に施設を建て続けたことが功を奏し、人口に占める百姓の割合を10%未満にする条件も達成。残る条件は識字率90%以上だけとなりました。これを満たせば晴れて平等主義社会ジャーナル達成です。
しかし、都市部の識字率上昇は頭打ちになりつつありました。識字率の地域差も大きく、布告だけで残る13年以内に目標を達成できるかは微妙です。
平等主義の理想郷
識字率を改善するために真っ先になすべきことは、教育関連の法律制定と教育機関への投資です。しかし、できることは既にすべてやり尽くしていました。布告も権力の許す限り出し続けています。
それ以外の方法を考えた結果、学者POPを増やすことが最善との結論に至りました。POPには職業に応じて識字率が設定されており、中でも学者POPは高い識字率を誇ります。
そこで、第二次五カ年計画では学者POPの職場である大学と芸術院を集中的に建設することを基本戦略としました。この時、ロシア人は美術品に執着を持っていたので、芸術院が生産する美術品の消費先にも困らないはずです。
第二次五カ年計画は順調に進み、1927年末に完了。結果はこうなりました。
百姓人口:8.4% → 0.3%(目標10%未満)達成!
生活水準:21.8 → 23.5(目標20以上)達成!
識字率:84.4% → 87.1%(目標90%以上)
あと少しのところで、まだ識字率が目標に達していません。識字率の伸びは目に見えて鈍くなってきています。
果たして、大学と芸術院を大量に建設する戦略は功を奏したのでしょうか。
学者POPの数はこの5年間で3倍以上に増え、人口に占める割合では公務員を上回り、農家に迫る勢いを見せています。識字率にも間違いなく良い影響を与えているはずですが、それでも識字率90%の壁は越えられませんでした。
この頃、ロシア国内では謎の生産性低下が問題になっていました。累進課税を制定したことで税収は安定し、建設も全力で進んでいましたが、国内産業の生産性は軒並み低く、GDPも伸び悩んでいたのです。それなのに、国民は依然として世界最高の生活水準を謳歌していました。
いったいロシアでなにが起きているのだろうとデータを調べて驚きました。
国内の工場では慢性的な労働者不足が起きていました。識字率を上げるために学者POPを増やした結果、単純労働を請け負う国民が足りなくなってしまったのです。識字率低下を防ぐために移民を禁止していたので、不足した労働力を移民で補うこともできませんでした。
しかし、それでも国民は世界最高水準の社会福祉を享受し続けていました。科学技術の粋を集めた最先端の生産方式のおかげです。いつの間にか、単純労働は機械に任せ、人間は学問や芸術といった知的活動に従事する理想郷が誕生していました。
これが100年かけて求め続けてきた平等主義社会の終着点なのでしょうか。
われら
いよいよ平等主義社会の探求も最終段階です。第三次五カ年計画では借金を恐れず公務員の給料を増やすことにしました。生活水準が高いほど識字率の改善速度が上がるため、あらゆる手段で国民の所得を増やす戦略を採用したのです。同時に、これまで通り大学と芸術院の建設も続けました。
第三次五カ年計画の開始は1928年。キャンペーンの終了が1936年ですから、次の五カ年計画を実行する時間は残されていません。これが最後の五カ年計画です。
第三次五カ年計画の開始直後、ロシアに衝撃が走りました。宿敵アメリカがテキサスとバルト連合州を要求して外交戦を仕掛けてきたのです。
大西洋の彼方にあるテキサスを見捨てて全力でバルト海を守れば、負けない戦いはできるでしょう。しかし、戦争が長期化すればアメリカの通商破壊を受けて生活水準は下がり、識字率の改善速度に悪影響が出ます。ロシアにはもはや時間が残されていませんでした。
ロシア政府は矛を交えることなくアメリカの要求を受諾。テキサスはアメリカの直轄領となり、バルト連合州はアメリカに移譲されました。
ロシアがアメリカの要求に屈した直後、今度はフランスから外交書簡が届きました。ロシアの保護国であるギリシャを移譲しろとの脅迫です。
ロシアは弱腰だと完全に甘く見られていました。しかし、フランスの要求を拒否すれば外交戦になり、戦争に発展します。この場は涙を呑んで要求を受け入れるしかありませんでした。
翌年、全力で戦争を回避した甲斐もあって識字率が88%に到達します。
しかし、ロシアの金準備は底をつき、借金財政に突入していました。芸術院への助成費用が莫大な額に膨らみ、恐ろしい勢いで財政を悪化させていたのです。しかし、ここで歩みを止めるわけにはいきません。
少しでも生活水準を改善するために、勢力圏の原則を「食品の規格化III」に置き換えました。これで生活水準が即座に1ポイント上昇します。通常のプレイでは滅多に選択しない原則ですが、今はその1ポイントが貴重なのです。
さらに、タイミング良く精神病院の待遇を改善するイベントが発生。莫大な支出増と引き換えに生活水準が1ポイント上昇します。
第三次五カ年計画は1932年末に完了。期待の結果はこうなりました。
百姓人口:0.3% → 0.0%(目標10%未満)達成!
生活水準:23.5 → 25.6(目標20以上)達成!
識字率:87.1% → 89.4%(目標90%以上)
百姓の人口は減り続け、ついにゼロになりました。一方、識字率は惜しくも目標に届きません。識字率の伸びはますます低下しています。
残り時間は3年。あとは人事を尽くして天命を待つしかありません。第四次五カ年計画はないのです。
1933年、アメリカ、フランスとの停戦期限が切れました。いつまた無理な要求を突きつけてきてもおかしくありません。
この年、生活水準をわずかでも底上げするため、財政赤字には目をつむって最大限の減税を実施しました。
1934年、識字率が89.7%に到達。目標まであと少しですがまだ届きません。財政赤字は900Kを超え、限界に近づきつつあります。
この頃、ロシアの都市クルスクでは拡張に拡張を重ねた芸術院の規模が100に達し、ハリウッドと並ぶ映画の都として世界中に名を轟かせていました。
そして、運命の1934年8月1日。ついに識字率が90%に到達し、平等主義社会ジャーナルの完全達成に成功しました。
キャンペーン終了を1年半後に控えて間一髪での目標達成でした。
あとがき
ここまでお読みいただきありがとうございました。
今回のプレイの後半では計画経済の真似事をしましたが、統計を取るたびに成果が目に見えてわかるのは非常に楽しい体験でした。現実世界で計画経済を推し進めた人々もこんな気分を味わったのでしょうか。
また、平等主義社会を目指して最適戦略を考えていくうちに、いつの間にか理想郷ならぬ暗黒郷と化してしまったロシアを見て、社会実験ゲームである『Victoria 3』の底しれぬ恐ろしさを感じました。
この時のロシアの状況は別の解釈もできます。生産性の低下は、利益が出る限り際限なく経済を拡張し続けるレッセフェールの副作用だったのかもしれません。しかし、プレイした当時に抱いた印象をあえてそのまま書き起こしました。
識字率を改善する戦略を考える際には、様々な方からアドバイスをいただきました。この場を借りてお礼申し上げます。
最後にプレイ環境をご紹介します。複数のModを利用していますが、ゲームバランスに直接影響するModは導入していません。
それでは、次のAARでまたお会いしましょう。
本体構成
バージョン 1.7.4
DLCは当時最新の「Sphere of Influence」まですべて導入
Mod構成
Japanese Language Advanced Mod
日本語改善ModJapanese Improvement
日本語改善Mod(未公開)Japanese Font Moga
フォント改善Mod(未公開)Romantic Music
音楽ModUniversal Names
人名改善ModVisual Leaders
人物表示Mod