春川

ただの備忘録。

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最近の記事

春のコーヒー屋さん

春の夕暮れはうっすら淡くてやわらかい。ぼんやりしていてあまい匂いがしそう。 全然本格的な春じゃないのに、2月も末になると日本中は装飾の桜が満開になる。そして大本命の桜が咲く頃には夏になってる、のはまあ知れたことで。 早足の桜を楽しみたくて、この時期はスターバックスの桜のシフォンケーキが食べたくなる。かわいいよね、桜のシフォンケーキ。 普段コーヒー屋さんで選ぶならドトール一択な私ですが、この時期は特別で、まぁ、毎年のルーティンみたいなもので、結構楽しみにしているのです。 やっ

    • もしも呪いのCDだったとしても

      私はポルノグラフィティがすきだ。中でも彼らの2ndアルバムの「foo?」には特別な思い入れがある。 私のfoo?は多分2007年に地元のGEOで買ったもの。つまりは中古品。 これまでの人生でこんなにどっぷりと足元をとられるアーティストなんかいなかったもので、この迅る気持ちを心のどこに置けばいいのか全く分からなかった。更には性分ゆえに、「何かを熱烈にすきになるには、それがなくなった時の為の覚悟がいる」という概念に支配されていたので諸手を挙げて「ポルノグラフィティがすきだ!」と

      • あの日のクリスマスケーキ

        クリスマスケーキに纏わるエピソード。 20歳のクリスマスイブだったと思う。私のシフトがそろそろ終わるかという頃、これからシフトインするバイト先の一番年上のTさんが「みんなで食べなよ」とホールケーキを買ってきてくれたことがあった。あまり表情豊かな方ではなかったけれど、バイト歴も長く頼り甲斐のあるTさんはみんなのお兄さん的な存在だった。 そんなTさんがクリスマスプレゼント的な感じでサプライズをしてくれたので、周りのバイト仲間はかなりはしゃいでいた。私もその様子を見ながら一緒に笑っ

        • そんな風に纏わりつかないでよ

          煙草の匂いが苦手だ。なりたくもないのに感傷的にさせるのは世間一般のパブリックイメージが強すぎるせいだと思う。こんなに世間が分煙、禁煙、煙草税値上げ、なんて世間が騒いでいる時代にも関わらず、愛煙家たちは我が道を行く。私の世代だとチャットモンチーや宇多田ヒカルの所為で、結局、格好よくてちょっと切ない、に落ち着いてしまう気がする。加えて元恋人が喫煙者だとどうもそのイメージにつけ込まれてしまって感傷的になりがちである、というのは私の偏見。 自慢にもならないが私は人より少し鼻が効く。

          サマータイムサマータイム

          「こんなにステキな夏の午後なら、アイスコーヒーを並べるだけでも、うんと特別に見えるわね」  声のトーンだけで彼女の機嫌がいいのは明らかで、その雰囲気を逃さぬように気の利いた一言でも言えれば良かったのだけど、当の僕は洒落たフォントのメニューを見る彼女の伏せた睫毛の薄い陰に見惚れてしまってそれどころではなかった。  街を一望出来る小高い丘の上にあるカフェのテラスは午後の日差しを上手く遮って心地よい木陰のようだ。カランと小気味よく水の入ったグラスが鳴る。既にヒタヒタと汗をかいた

          サマータイムサマータイム

          私の名前は寄る辺ない

          今年もまた会社に新卒が入ってきた。人見知りの私は今後も薄かろうとも関係が続くであろう知らない人間が苦手なので頭を掻き毟りたくなる衝動にかられるのだが、それはさておき。 その新卒のうちの1人は私と同じ春川という名字だった。同じ名字で同じ女性。同じ名字だなんて大したことではなく、世の中の佐藤さんや高橋さんに言わせればに日常的すぎて取るに足らないとことなのだと思うのだけど、同じ名前の人というのは、私には少し思い当たる記憶があって、時々それを思い出してしまう。 もう随分古い記憶で、

          私の名前は寄る辺ない

          (因みに下の記事、信じられないことに誤って3回全消ししてしまった不憫な文章なのです…(苦笑)その度に書き直しているので、今回公開したものは4回目に書いたもの。最早書きたい気持ちよりも折角書いたのに消えるなんてざけんな何が何でも書いて公開してやる的な根性だけで4回目を書きました)

          (因みに下の記事、信じられないことに誤って3回全消ししてしまった不憫な文章なのです…(苦笑)その度に書き直しているので、今回公開したものは4回目に書いたもの。最早書きたい気持ちよりも折角書いたのに消えるなんてざけんな何が何でも書いて公開してやる的な根性だけで4回目を書きました)

          桜のある東京に住んだ話

          昔、東京に住んだことがあった。 とは言っても、実際は会社の研修でたった2週間だけな上にホテル暮らしをしていたので、厳密に言うと滞在していたという方が全くもって正しい。それでも超カッコつけたいので東京に住んだと言わせてもらう。 そうさせるくらいの魅力が東京にはある。 今でこそ切符を買って新幹線に飛び乗ってしまえば2時間ちょっとで辿り着いてしまう東京。けれど家族での1回と、友人達と行ったディズニーリゾートの動線と修学旅行とでの計4回しか東京に行ったことのなかった当時の私にとっ

          桜のある東京に住んだ話

          褪せないままで巡ってくる、また春の手前で思い出すこと

          私が大学を卒業する年の3月、バイト仲間での最後の飲み会で3つ下の男の子に「江國香織は読む?」と聞いたことがある。それを毎年この時期になるといつも思い出す。 学生の頃、私の世代がバイトを卒業するのを祝う飲み会、所謂追いコンでのことだった。オールもそこそこの三次会。みんなも私も気持ちよく酔っていて少し眠くて、それでいてとても楽しい時間だった。 割合、そこに居るのは本好きが多くて「浅田次郎が推し」だとか「村上と言えばどっちが好きか」だとか、ありふれた会話をしていたので、その流れで

          褪せないままで巡ってくる、また春の手前で思い出すこと

          11月23日(木)祝日 13:56 3号車 17 E

          上りの新幹線ほど心躍るものはないが、下りの新幹線ほど億劫に感じるものはない。少なくとも今の私にとっては。 少しでも落ち着かせる為にこれを書いている。左手にはドトールのサンドと言えば必ず選ぶと言っていいほどだいすきなミラノサンドのBとブレンドコーヒーの入った紙袋。ホームの寒々しい風に流れて紙袋からコーヒーの香りがふんわり漂ってくる。多分ドトールでのテイクアウトは初めてのような気がする。あまり見覚えのない包装紙に包まれたミラノサンドとコーヒー、紙袋。それだけでいつもと違うのに下

          11月23日(木)祝日 13:56 3号車 17 E

          さよなら、昨日の知らないあの人

          大袈裟な話をする。 9月の半ばのその日、5年間連絡を取っていなかった友人が夢に出てきた。夢の中では祖母の家がシェアハウスになっていて、その住人のひとりが彼だった。祖母が住人たちの部屋の片付けをするように言うので私は言われるままに掃除に向かった。彼の部屋が一番近くにあったので何の気なしに入る。そこは埃っぽい段ボールが散らかり放題で人がやっと1人通れるくらいの道が辛うじてあるだけの乱れ具合だった。「ウワァなんだこりゃ」と近くにあった段ボールを指で摘む。埃がはらはらと空気中に舞い

          さよなら、昨日の知らないあの人

          26,000円にイヤホンを挿す夜

          『――それでは5月8日の月曜日に、朝の8時までに敷地内に出しておいて下さいね』 「はい、よろしくお願いします。失礼します」そう言って通話ボタンを押した。 今日、かれこれ10年連れ添ったMDコンポを処分した。10年分の、しかも思春期の音楽という私のルーツのウエイトを大きく占めてきたものなので愛着の大きさは言わずもがな。それに「処分」という言葉を使ってしまうことにとても抵抗があるのだが、「捨てる」という言葉を使うと余計悲しくなってしまうし「手放す」というのも厳密には語弊があるの

          26,000円にイヤホンを挿す夜

          首の骨を手折る

          いつもの美容室で男性スタッフがシャンプーをしてくれた。まだ男の子の面影が残る男性。かれこれ6年も通っているけど男性にシャンプーをしてもらうのは随分久しぶりだったのでなんだか新鮮だった。まず当たり前だけど手のひらが大きい。頭を抱えられたときの接触面積が広い。有り体な表現だけどゴツゴツして骨ばっている。手のひらが私の皮膚に触れる度に皮膚のキメの粗さが分かる。それは少し堅いけれど丁寧なシャンプーで彼が今年の新卒だというのが手のひらを通して伝わってきた。 昔とてもすきだった

          首の骨を手折る