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劇場版呪術廻戦0 公開初日に本気で向き合った話

劇場版呪術廻戦0を見に行った。

話は3月、アニメが最終回を迎える少し前に遡る。
その頃私はこんなことを言っていた。
アニメ終わった後画面が暗くなって、夏油傑が「来たる12月24日!我々は百鬼夜行を行う!」とか言って、12/24ロードショーって言われたらどうしよう〜〜!!あはは!

現実になった。

いや、正確には少し違ったけれど、割とほぼその通りになった。
叫びながら笑いながら後ろにひっくり返る。後頭部を床にぶつける。痛い。嬉しい。
真っ暗な部屋でひっくり返って引き攣った笑い声をあげるオタク。あの時の私は私史上かなり気持ち悪かったと思うけど、オタクってそんなもんだよね。
別室にいた姉は私の叫び声で事の顛末を理解した。話が早い限りである。

とりあえずカレンダーアプリを開き、予定を書き込む。
 12/24 終日予定 「命日」
12/24公開なんて言われてないけど、私は呪術廻戦のスタッフを信じてる。
今冬 イコール 12/24
これは揺るぎない方程式。
そうだよね!ハム太郎!
呪術廻戦きってのモテ男、夏油傑は、3月下旬、その一言でトレンドを掻っ攫い、何万人ものクリスマスイブの予定をキープした。

そこからの9ヶ月間はあっという間だった。おかしい。正直体感3ヶ月。
本当に楽しみにしていた。なんらかの情報が公開されるたび叫び、劇場版に向けてのトレーニングなどと言いながら本物の夏油傑の声を聞き倒した。
「来たる12月24日…」無理ちょっと止めよ?何回聞いても気が狂いそう。
キービジュアルが公開された日、映画見たら本当に気が狂って死ぬんじゃないかと思った。死ぬ死ぬと繰り返す私のTwitterの断片を見た知人から悩み事があるのかと心配するDMが届いた。
呪術廻戦の公開が楽しみだけどめちゃくちゃ怖くて…と返すいたたまれなさ。

0時最速上映の報せを受けたのは8時間バイトの帰り道だった。タイムラインをスクロールしながらぼんやりしていた目をかっぴらく。
私の居住地域 ある 終電 逃す いける? 親 説得 戦争!?
無数の単語が頭を飛び交う。
結局、帰宅早々無策で親に訴えた私の感情論は響かず、両親総出で2時間半の説教(戦争)にもつれ込んだ後、私は敗北した。
おれは…よわい…
きっとその夜、私と同じような戦争が全国各地の多くの家庭で繰り広げられたことだろう。
居住地域、年齢、仕事、その他諸々の事情を抱え最速上映に行けないオタクの巨大感情で、ひとつの特級呪霊が生まれた。
私たちは猿だから呪いを生み出してしまう。
悲しい。

そうして12月20日の夜、ベッドの上でパソコンとスマホを両手に持ち、1時間強の間、日付が変わるのを待った。
自分が行ける範囲の各映画サイトのチケット販売開始日時を前々からカレンダーにメモしていたけれど、どの映画館も呪術廻戦に備えて特例の0:00スタートだった。
どのジャンルの何のオタクをしていても、チケットやグッズの先着戦争とは縁を切れない。ところで戦争までの待機時間、謎に笑い出してしまうのはなんなんだろう。
日付が変わる。
観測範囲で1番早い8時のチケットは、案外すんなり買えた。最後列ど真ん中。良席。
あれ?意外とうまく行く。鯖、頑張ってるやん。
その次の時間。
「あなたは38??番目です。順番にお繋ぎしますのでそのままお待ちください」
ギャー!!!3千人もいんのか!?そらそうか!
何分かジタバタしながら待っているうちに、その次も買えた。さっきと同じシアター、隣の席。
ここ、私の家になる?
次の時間。
繋がらない。輪をかけて繋がらない。
パソコンを放置してスマホに移行。読み込み直して読み込み直して読み込み直してようやく繋がった。
3千人以上待機。もう驚かない。なんならさっきその人数の割には早く繋がったし。
同じシアター、1回目と同じ座席。
シアター7番、私の家じゃん……。
IMAX上映3連続。
30分の戦いの末、朝イチからロクな休憩も挟まず6時間箱詰めにされてすごい映像を見せられ続けるクリスマスイブが確定した。

前日の夜、よくわからないけれど高いパックを開封して謎に保湿とかをしていた。
いつも家を出るギリギリに準備をするダメな私は、その日はちゃんと荷物をカバンに詰めて、下着から上着から何から何までまとめて隣に置いた。
22時半過ぎにベッドに入る健康睡眠。でも全然眠れない。遠足に行く前日の子供、大事な仕事を控え絶対に寝坊できない前日の大人、両方の心を抱えてギンギンに醒めた目をどうにか閉じる。
眠れ…眠れ…
狗巻棘がいるなら今私のところに来て眠れって言ってくれ。マジで。頼む。

変な夢を見て目が覚めた。朝!?
目覚まし鳴ってなくない!?
時計を見ると1時台だった。
なーんだ。って呟いてもう一度眠る。
また目が覚める。今度こそ朝!?
目覚まし!!!鳴ってなくない!?!?
まだ1時台だった。
再び目を閉じる。
恐ろしい。眠れたもんじゃない。
ジャカジャカジャカジャカ…
一途のイントロが流れ出して目を開ける。(天才のイントロをジャカジャカとしか書けなくて本当にごめんなさい)
朝だ!!今度こそ、時刻は4時15分。
素早く布団を出られるようにと起きる時間の少し前にタイマーをセットしたはずのエアコンが機能してなくて部屋はめちゃくちゃ寒かったけど、全然余裕で飛び起きた。

大事なのは腹ごしらえ。何せ私にまともな昼食を食べる時間はない。ポップコーンその他も買わない。大事なシーンで「ポリッ」とか言いたくない。あっこれはキャラメルが偏った美味しい部分!とか思って気を散らすのも嫌だ。
五条が夏油に向ける最期のセリフ、その瞬間にお腹で間抜けな音が鳴る、なんていう最悪の事態はなんとしても回避したい。

その日の私は、最速上映の終了と同時にテレビアニメ2期制作決定!の情報公開があると信じ切っていた。でも私だってその衝撃を劇場で受け止めたい。そうでなくたって死んでもネタバレは回避したい。だから絶対にTwitterを開けない。普段息をするようにTwitterを開いている私には難しい所業だった。
やっぱ0巻を読み返すか……なんて電子書籍のページをめくれば、思ったより時間が経ってしまってスマホを放り出す。
あんなに早く起きたのに、結局10cmヒールの厚底ブーツで駅まで走る羽目になった。
外はまだ暗い。怪我をしては困るのでスマホのライトで地面を照らしながら走る。
まだ暗いうちの出発は、否が応でも私のテンションを高まらせた。これディズニーとか行く時のやつや!

すごい。これから、呪術廻戦を見るんだ。
五条悟が、夏油傑が、乙骨憂太が、祈本里香が、禪院真希が、狗巻棘が、パンダが、みんなが、劇場で動いて喋って叫んで戦って生きるんだ。
着くまでに0巻を2周読んだ。

劇場に着いたのは6時55分。すでに入り口には列ができていて、こんな時間なのにと目を瞠る。
7時に会場が開いて、ずらずらとゆっくり歩いてパンフを購入、購入済チケットを発行、お手洗いを済ませて、ゲートの前に並ぶ。
私情だが、そのシアターに1番はじめに足を踏み入れるのが好きだ。大きなスクリーンとたくさんの椅子があって、がらんとして薄暗いここで、これから物語がはじまるんだと思うとドキドキする。

1回目を見た。
見ている最中から何度も、こんな素晴らしい映画が作られた事に対する感動と感謝が尽きなかった。
ここまで語っておいてなんだが、内容がどれほどすごいかどこがすごいかという話はまた別のnoteでするつもりです。
(書きました。原作について「本気」で書いたのはこちら 映画についてはこちら)

なぜならオタクの巨大感情を書くだけでもうこの文字数だから。
入れ替え時間の25分は、思ったよりも短かった。出て、お手洗いを済ませ、朝は見られなかったタイムラインをスクロールしながらまた並んで、入ったら終わりだった。
やばい。このスパンであと2回あるのか。
2回目を見終えて、3回目の時間で来ていた友人2人と合流する。マジで何やってんの、ほんと大丈夫?と心配混じりに笑われた。
ほんとにそう思うよ。私も。残念ながらもう頭はおかしい。正気の人間はこんなことをしないのだ。
3回目を見終えて、再会した友人は開口一番「君よくあんなん3回も連続で見たね」と言って笑った。「今まで見た全映画の中で1番面白かった」とものたまった。めちゃくちゃ嬉しかった。
友人と3人で歩きながら帰る。2人はメインジャンルは呪術でないものの"ちゃんと"オタクなので、あのシーンが良かった、あの演出が良かった、と話しながら駅に向かう。彼女たちとは、ちゃんとご飯食べなね、と言われて別れた。

基本的に私は多くのオタクと同じように、体力的に決して恵まれていない。ちゃんと非力で貧弱だ。体力テストは学年ドベ3だった。
不慣れな早起き、3連続の映画。映画というのはそもそも、大音量と大画面に晒されて、楽しいのはもちろんだがその分疲れるものでもある。大好きな映画をコンマ1秒たりとも見逃すまいと目をかっぴらいていたなら、大好きなキャラクターの心を思い情緒をガタガタに揺さぶっていたなら、尚更だ。
妙な達成感があった。
感謝、感激、雨、霰、感動、疲労、空腹、達成感、充足感、いろいろなものがないまぜになりながら、さすがに10cmヒールの足は重い。

精一杯今日を楽しんだ。そう思った。
それでもひとつ思い残したことがあった。
「来たる12月24日、日没と同時に、我々は百鬼夜行を行う」
私、12月24日、日没と同時に百鬼夜行をするのが見たい。
スクリーンで。
こんな集中力を欠いた状態で見に行くのは作品に失礼だろうか。もうご飯食べて寝た方が良いのでは??そんな迷いを振り切って、自宅の最寄駅を乗り過ごし、ショッピングモールの最寄駅で降りる。
早足でイオンシネマに向かい、4回目のチケットを買った。
さすがにあんまり良い席じゃなかった。
両隣が上映中にスマホをつけやがったので、猿め……と思って睨みつけた。
上映中は電源を切ろう。切らないにしても万が一にも画面がついたり音が鳴ったりバイブが鳴ったりしないように設定を徹底してカバンにしまおう。設定に自信がない人は電源を切ろう。

でもそんなことは全部関係なくなった。映画があまりにも良かったから。1日に4回見たって新鮮に感動できる映画。2曲分の長い長いエンドロールに連なるたくさんの名前を見ながら、どうかこの人たちが全員幸せになるようにと祈った。
アニメ制作現場の労働環境は決してクリーンではないと聞く。本当なら1枚の絵に1億の値がついてほしいのに、そんなことは絶対にないだろう。そんな環境でも、必死でペンを動かした人の、走り回った人の、頭を下げた人の、その人たちの全力があったから、今ここにこんなに素晴らしい映画がある。
スクリーンで生きる彼らの瞬きひとつ、指先ひとつには、その裏でそれを作っているひとの人生があるのだと思うと、途方もない気持ちになってしまった。

この映画を、私は何度も繰り返し見たい。そして、ひとりでも多くの人に見てほしいと思う。興行収入1000億とか突破して伝説になってほしい。
映画の良さは収益だけではかれるものではないけれど、すごいものを作ったらそれだけの結果が出るんだという形をつくりたい。
微力ながらでも、私もその形の一部になりたい。

映画が終わって劇場を出て19時、4時半に食べた朝食ぶりの食物を摂取した。身に染みるチョコレート。
私よりもっとたくさんチケットを買って、たくさん見る人もいるだろう。逆に、金銭、家庭、地域、仕事、諸々の事情で満足いくほど見られない人もいるだろう。
それぞれの向き合い方があり、それぞれの愛し方があると思う。
私は、今の私にできる最大限で、この最高の映画の初日を楽しんで、この最高の映画に想いを注いだ。そう思えたから良かった。
私の呪術廻戦初日が終わった。

クリスマス当日。世間は浮かれ、インスタには煌びやかなデート写真が溢れ、私はバイトだった。
ゆっくり寝て、昼前に起きた私は思う。
呪術廻戦が見たい!!!
昨日あんなに見たのにまだ見たいのかと笑えてしまう。それでもバイトは休めない。社会的責任。そしてまたこのバイト代も映画に消えるのだ。お金は廻る。

そして今日、12月26日。朝9時半。
私はまた映画館にいた。
5回目の呪術廻戦を見るために。


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