麻雀から考える、物事を説明する方法

1日中麻雀をした。
個室を借りて自動卓を使って友人と楽しむ麻雀は、仕事で腐った心を癒すには十分な時間になる。

王牌の場所が分からなくなったり、ツモる山を間違えたり、鳴いた牌を混ぜ忘れたりしたが、総じて楽しい時間を過ごすことが出来た。 

ところで、来てくれた友人の中に、この日初めて麻雀をやる人がいた。役の一覧表を印刷して(しかも2つのサイトのものをそれぞれ)持参してくる、とてつもない熱意の持ち主であった。

そんな熱意のある友人には是非とも麻雀沼に浸かって欲しいので、4時間くらいかけて全力でルールを教えたのだが、休憩中に別の友人(経験者)から「しみたいって説明上手だよね」と言ってもらった。

ルールを理解してくれているのか非常に心配していた最中での言葉だったので、とても気が楽になった。その後の局で5巡目に四暗刻を和了するくらいには。

といっても、私は「人にどう説明すると理解しやすいものになるのか」を体系的に考えたことがない。教師を目指していた身としては非常に恥ずかしいことである。


そこで、体系的に考える足がかりとして、自分がゲームのルールを教える時に何を意識しているのか、言語化してみようと思う。


こんなことをするに至った理由は当然ある。

いちばん大きいのは自分への投資になると思った点だ。ゲームには基本的に明確なルールがあるので、ルールのない社会の中で仕事や商材を説明するよりもある程度確信を持って言語化できるはずだ。

新人教育も営業も、はたまたプレゼンで企画を通すにしても、やるべき内容が明確に決まっているわけではない。

決まった枠の中のものを説明するための手段を言語化することは、枠が決まっていないものを説明するための良い経験になるだろう。

ここで書き出す一筆が自分の将来を良くするバタフライエフェクトを生み出すと思えば、多少面倒な言語化も捗るというものだ。

それっぽいことを言えたし、「noteを使ってる人はかっこよく見える」と思っていることは伏せておこう。この理由めちゃくちゃダサいし。


先んじて言っておくと、これはあくまで自分の考えている内容であり、「これが絶対である」というわけではない。予め留意されたし。


自分がゲームのルールを教える際に意識していることは大きく3つ。説明みたいな大層なことをできる立場にはないが、出来る限り言語化していきたい。

※自分はゆる言語学ラジオやQuizKnockといったYouTuberの影響を大いに受けているので、「これ動画で言ってたやつやろ」といった内容が含まれる。「こいつ他人が喋ってることにめちゃくちゃ影響受けててウケる」と思ったら、微笑ましい目で見るようにして欲しい。また、具体的な内容や説明例を見たかったら、上記のYouTubeチャンネルを視聴することをオススメする。物事の説明とか関係なく圧倒的に面白いチャンネルだ。





①目的から話す

いきなりロジカルシンキングの大前提みたいなことを書き出して申し訳ない。しかし、結局はこれが説明の上手い下手に大きく関わってくると思っている。''ボードゲームを遊ぶ会'' みたいなところに赴くと、何をするゲームなのか分からずただ自分のターンで何が出来るか教えられるだけという説明がいまだに跋扈しているのも確かなのである。

「麻雀ってまず13枚の手牌があって、山から1つツモったら要らないものを捨てて、それを繰り返していくんだよね」

麻雀を始めたくて説明をお願いした時にこれを最初に言われたら、「要らないものってどれ?」「どうすれば勝ちなの?」「てかツモるって何?」等とりとめのない疑問が山のように湧き出てくることだろう。

野球を知らない少年に対して、

「これはグローブというものなんだけど、これを左手に付けて外野を守ってるとするじゃん?その時にボールが飛んできたらボールが落ちてきそうな所に向かっていってノーバウンドでキャッチするとアウトになるんだよ」

といきなり外野フライのさばき方から説明する人はいないだろう。もしいたら反省した方がいい。そんな説明を受けたら疑問が山ほど出てくるに違いない。なんなら自分は左利きなので、利き手でグローブを付けることになってしまう。

麻雀において、最初に突然ツモった牌を処理する方法を伝えるのは、野球でいきなり外野フライを捕らせるのと同じだと思っていい。

野球のルールを頭から説明したければ、

「野球は9人1チームでやるチーム戦で、攻撃と守備に分かれて試合をするんだ。守備側の投げるボールを攻撃側の人が打って、条件を達成すれば点が入る。その点をたくさん取った方のチームが勝ちなんだ」 

と話し始めれば、次は勝つためにどうしたらいいか、つまり点を取る条件や点を取らせない方法について説明をしていけば良くなる。

麻雀も同様である。

「麻雀は基本4人で遊ぶもので、3枚組4セットと2枚組1つを他の人より早く作った人が点を貰える。最終的にいちばん点数の高い人が勝ちっていうゲームなんだ。」

と話し始めれば、次は勝つためにどうしたらいいか、つまり3枚組と2枚組はどう作ればいいのか、点数はどう計算していくのか、について話していけばいい。

この話は、突き詰めると「話す順番を予め決めておく」ということに帰着するかもしれない。

英語の勉強で 3単現のs が出てきた時に「お前なんなん?」と思ったことはないだろうか。''現在'' はともかく、''三人称'' や ''単数'' なんて言葉は普通に暮らしていたら中1まで確実に出会わない言葉たちである。
だから、たいていの中学校では3単現のsを説明する前に人称と単数/複数の説明をするだろう。先にそれらの言葉を知っていれば、三人称・単数・現在と言われた時に状況を整理することができる。

教育現場にいる人間ではないので誤解があるかもしれないが、麻雀も似たようなものである。

リーチを説明するには面前とテンパイについて説明する必要があるし、面前を説明するには鳴きについて説明する必要がある。鳴きを説明するには……というふうに逆算していけば、おのずと最初に何を説明したらいいのか分かる、という寸法だ。

いずれにせよ、説明をする相手に対してまずどこに目的があるかというゴールを見せれば、次はゴールまでどういった道筋を辿ればいいかを教えることに注力すれば良くなるのだ。 






②そのゲームでしか使わない用語を小出しにする

1つ目にだいぶ気合いを入れてしまったので、次はなるべく簡潔に進んでいきたい。

先ほど、「リーチを説明するためには面前とテンパイについて説明する必要がある」と言ったが、''面前'' という言葉自体は別に知らなくても麻雀は出来る。なんならテンパイもそうだ。

リーチを教える時には
「ポンとかチーとかしてない状態で、あと1個であがりになる時に "リーチ" って言えば良いよ」
でいい。別に間違ったことは言っていない。
「面前でテンパイした時に "リーチ" って言えば良いよ」
よりよっぽど初心者フレンドリーである。

これは教える相手の性格や熱意にもよると思う(後日書く予定)。ただ、ことゲームにおいては仕様を理解することが先決で、対応する用語は後で覚えてもいいと自分は思っている。

ゆる言語学ラジオを見ている方ならピンと来ているかもしれないが、嶋村先生が生成文法の話をした時に水野さんが課した制約「使っていい専門用語を3つまでとする」に近いものがある(第何回の話だったか忘れたが、有料のnoteじゃないので許して欲しい)。

定義に忠実になるあまり、用語に混乱して離脱する初心者を生み出してしまうよりは、用語を捨ててでも本質を分かりやすくすることで楽しめる初心者を増やす方が、説明する側としては嬉しいだろう。少なくとも自分はそう思う。





③理解させたい内容以外のものはゲームそのものに必要だとしても極力省く

この項は実際にゲーム形式で説明をする上での補足的な部分として捉えている。「必須でないけどあった方が便利」みたいな感じで、自分は重宝している。

というより、実際にデジタルゲームだとよく採用されている方法だ。

ソシャゲあるあるとして、「最初のキャラを強制的に強化/進化させられる」というものがあると思っている。このあるあるはマンガを読んだりポイ活したりするアプリ経由で無料ポイントを貰えるタイプのゲームに特に多いような気がする。

ゲームをする上では邪魔でしかない時間だと思っているこのシステムは、ある1つの概念を理解してもらう上で非常に効果的である。  


自分は今回これを使って鳴きの説明をした。
手牌を全員オープンにした状態でとりあえず和了を目指しながら進んでいき、鳴ける所でカットインを挟んで(?)説明を始めた。

この時、経験者の友人からツモ順の話(取る人と取る場所が反時計回りと時計回りでややこしい)をしていたが、自分はその話をしないつもりでいた。

未経験者の友人から疑問として出てきたらそれだけ話そうと思っていたが、疑問が出てこないのであれば次の局の最初に言えばいいかと思っていた。

理由はもちろん、鳴きを理解させるために他のことを話すのは余計だと感じたからである。一度認識出来れば、それ以降は鳴きに対する認知負荷が減り、他の概念を理解しやすくなると考えたのだ。

未経験の友人は賢いし熱意もあったので、ここでツモ順の話をしたのは結果として正しかった気もするが、それでも自分のスタンスは変えるつもりはない。

人に物事を理解させたいなら、一度に沢山新しい概念に触れさせてはいけない。これは②に通ずるところもある。






一緒に説明上手になろう

以上3つが自分のスタンスだ。

ゲームの目的を最初に提示し、目的を達成するために必要な概念を小出しに解説していく。

説明できる立場にないとか言っておきながらずいぶん尊大な3,000文字だったが、この3つを頭の片隅に入れておくだけで「説明上手だね」という評価を貰えるのであれば、ずいぶんコスパがいいのではないだろうか。

重ねて言うが、これは「絶対正しいもの」ではない。なんなら、他の人から「他人に説明する時に気をつけていること」を教えて欲しいと思っている。

ぜひコメントやTwitter、あるいは直接会った時にでも教えて欲しい。みんなで説明上手になって、世界の幸福度を上げよう。


それではまた。

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