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語られたがる言葉たち――東日本大震災から10度目の3月に際して

語りたい言葉がある

先日、友人から戯曲を借りたんですが、まあ面白くって。
というわけで、買ってしまいました。はい、ドン!!!!!!!!!

ご存じの方も多いと思いますが、ダルカラ(劇団DULL-COLORED POP)の主宰、谷賢一さんが書かれた『福島三部作』です。めちゃめちゃ面白かった。

原発の誘致から原発事故までを細やかに描いた戯曲なんですけど、丁寧に注がたくさんついてるので、あたかもエッセイを読んでいるかのようにスラスラ読めちゃうんですよね(私が双葉郡出身のため様々な背景を想像しやすかったというのももちろんあると思います)。

この戯曲のことについてだけでも、なんぼでも文字がかけてしまいそうなのですが、今回特に取り上げたいのは、第3部のタイトル「語られたがる言葉たち」です。

「語られたがる言葉たち」?

谷さんはこのタイトルについて、以下のように述べています。

本作品は2016年夏から2019年夏にかけて筆者が収集した震災エピソードを繋ぎ合わせて作られている。「語られたがる言葉たち」というのはその時の体験から生まれた言葉だ。福島の人々から話を聞く際、「自分から震災や原発のことについて聞かない」というルールを作ってただ雑談を重ねたのだが、一人の例外もなく人々は震災や原発について語り始めた。まるで言葉が語られたがっているかのように。(谷賢一,2019『戯曲 福島三部作』而立書房,p314)

この言葉、本当にしっくりきました。

語られたがった言葉たち

私は、高校時代『数直線』という作品の構成を担当しました。
「原案:ふたば未来学園高校演劇部」となっていることからも分かる通り、この舞台は、当時の部員(1,2期生)の経験をもとに作られています。

作劇の過程を通じて、そして上演するたびに、この舞台は何度も何度もその姿を変えました。
それはまるで、部員たちからひとつ、またひとつと湧き出てくる「語られたがる言葉たち」の声に呼応するかのようでした。

「語りたくない人もいる」

しかし、必ずしも語ることが正義だとは、私は思いません。

東日本大震災(以下、震災)以降、毎年3月になると必ず、震災の話題に触れる機会があると思います。その際、個々人の震災の捉え方の違い、スタンスの違いがよく話題に上がります。

「語りたくない人もいる」
「思い出したくない人もいる」

当然です。10年経とうが関係ありません。そういった人々に語ることを強いたり、また無理やり向き合わせたりすることは、あってはなりません。

しかしいつか、そういった方々からも、「語られたがる言葉たち」があふれてくることがあるのではないでしょうか。そして、そういった「言葉」が「語られたがる」時期が、まさにこの3月なんだと、私は思います。

語られたがる「言葉」たち

その「言葉」たちのためにも、年に一度、3月に、できるだけ多くの人と震災のことを振り返る時間を持つことはとても意義のあることなんじゃないかなと思っています。

「もう10年もたってしまった」
「まだ10年しかたっていない」
「10年は区切りではない」
「被災地の復興は着実に前進している」
「復興は思ったより進んでいない」
「震災のことについて、語りたくない人もいる」
「震災の経験について、知りたい人がいる限り、発信を続けていきたい」

昨日見たニュースを思い出しても、これだけの「言葉」が語られていました。
今まではこういったニュースを見るたびに、いろんな意見が対立して、せめぎ合っているようで、心が疲れてしまっていたのですが、主語を「人」ではなく、「言葉」にすることで(「言葉」が「語られたがっている」と考えることで)、私はより相対的に、そして素直にこれらの「言葉」を受け止めることができるようになりました。

「語られたがる言葉たち」の行方

そしてニュースになるということは、「言葉」に耳を傾けてもらえたということでもあります。

思うに、「語られたがる言葉たち」は、誰かに耳を傾けてもらうことで、その役目を果たすのではないでしょうか。

私自身、高校時代に、主に演劇を通して、なぜあれだけの言葉を語っていたのだろうと考えたことがあります。
自分の経験や考えを整理するため、表現して知ってもらうため、他の人の考えを引き出すため、主にこの3つの理由からだと、今では考えています。

もちろん、「言葉」が「語られたがる」理由はこれ以外にもあると思います。きっと、人それぞれにあるでしょう。
しかし私は、その目的は全て、誰かに耳を傾けてもらってはじめて達成されるものだと(なぜか)確信しています。

そして、「語られたがる言葉たち」は、当事者・非当事者かかわらず、あなたの中にも眠っているかもしれません。

年に一度のこの機会、誰かの、そしてあなたの中にある「語られたがる言葉たち」の声に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。

もしよかったら、私にも聞かせてください。

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