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「2023年2月の珈琲 Tanzania:君なんて知らない」
ガツンと苦くて、どろどろとした濃厚な甘さの恋なんてひとつもない。
Tanzania:君なんて知らない
開いたノートから
折りたたまれたルーズリーフが
はらりと落ちた
君のことなんて
これっぽちも知らないから
思わず、そっぽを向いた
ちょっぴり苦くて甘いコク
2月といえば、バレンタインデーだ。
節分もあるけれど、とりあえず、今回はバレンタインデーだ。
街の雰囲気が赤やピンクに染まり、たくさんのハートがちらつきはじめる。
それに背中を押されるように動きだす小さな恋があることを知る身としては、やっぱり、この雰囲気はかわいくて、好きだなと思う。
小さな恋というのがミソで、数十年生きてきたにもかかわらず、ガツンと苦くて、どろどろとした濃厚な甘さの恋なんてひとつもしたことがない。
ならば、2月に焙煎する珈琲のひとつは、苦みといっても軽めに、そして、淡く甘い余韻が残るものにしようと思った。
軽めの苦みに淡く甘い。
そういえば…。
大学1回生の時、第2外国語にフランス語を選択した。
友達はフランス語以外を選択したようで、クラスに顔見知りは一人もいなかった。
そのことに寂しさを感じたが、週1回ほどのクラスであることや積極的に友達を作る性格でもなかったので、特に誰かと親しくなることもなく、授業を受けていた。
だから、ある男子学生に、ノートを貸してほしいと言われたとき、この人は誰だろうと思った。
誰かはよくわからなかったけれど、ノートを渡した。
翌週の授業前に、男子学生は、「ありがとう。」と言って、ノートを返してくれた。
折りたたまれたルーズリーフが手元にはらりと落ちてきたのは、授業が始まり、そのノートを開いたときだった。
なにかと思い、ルーズリーフを開いて、わたしは赤面した。
そして、末尾に書いてある名前を見て、初めて、その男子学生の名前を知った。
君のことなんて、わたしはこれっぽっちも知らない。
恥ずかしさも相まって、わたしは、思わず、そっぽをむいてしまった。
知らないことに飛び込む勇気も、これから知りたいという欲も、そのときのわたしは少しも持ち合わせてはいなかったのだと思う。
悪いことをしてしまったという後悔、そして、淡い好意は、2月の珈琲Tanzaniaのちょっぴり苦くて甘いコクへとカタチを変えたのだった。