「6月の珈琲 Indonesia:こころを吸う」
人の行けないけものみち。
Indonesia:こころを吸う
まるで丸飲みされたかのように
頭から足の先までが覆い尽くされた
どろどろとした湿り気を帯びた
得体のしれないものが
目から耳から
こころを吸い尽くす
苦味を帯びたコクがこころを吸う
夏に向けて、葉が生い茂った金木犀。
その足元にぽっかりと開いたたった一つの穴は、けものみちだ。
昼には、近所の猫たちが、小さな平屋の庭と隣家の庭を行き交うために通り抜けていく。
そこを、猫ではないなにかが行った気がした。
足を踏み入れるというよりは、するり、いや、にゅるりと通り抜けていったような。
もしかして、ヘビ?
そう思って、目を凝らしてみたものの、二度と、その姿を捉えることはできなかった。
ただ、こころのなかに、湿り気のある得体のしれないものがこちらからあちらへ行った感覚だけが残った。
頭から足の先までが覆い尽くされ、息ができなくなりそうだ。
もし、ヘビに丸飲みされたなら、こんな感じなのかもしれない。
湿気のかたまりが居座る夜に、そんなことを思った。
どこに行ってもまとわりついてくる。
けっして、逃れることはできない。
どろどろとした湿り気を帯びた得体のしれないものが目から耳から入ってきて、からだの真ん中をじわじわと目指していくのがわかった。
このままだと、すべてを支配され、こころまでも吸い尽くされる。
だから、あの日のヘビかもしれない得体のしれないものを見た感覚を思い出した。
あちらからこちらへ。
人が行くには小さいけれど、得体のしれないものが通れたなら。
こちらからあちらへ。
苦々しい傷を負ったとしても、きっと、私も通れるに違いない。
けものみち。
こころを吸い尽くす得体のしれないものが、抜け穴を教えてくれた。
6月の珈琲「Indonesia:こころを吸う」の苦味を帯びたコクがこころを吸っていく。