「2024年2月の名前のない珈琲 Papua New Guinea:夢を見る」
かわいい小学生バリスタが淹れてくれた2月の名前のない珈琲は、いつかの夢を思う味わいだった。
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2月の名前のない珈琲
Papua New Guinea「夢を見る」
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小学低学年の子どもの手はこんなに小さかったのか。
そりゃ、母の手伝いをしていたとき、大きな包丁で厚くて固い皮のかぼちゃを切るのに難儀したわけだ。
大人の手には小さめのドリップポットを片手で持ちながらも重さと熱さに耐えかね、両手を添えて、ドリップポットをキッチンに置く様子にそんなことを思い出していた。
2024年1月末から、毎週火曜日、吉祥寺にあるギャラリーAtelier Littleで間借りをしている。
そこでは、時々、かわいい小学生が珈琲を淹れてくれる。
珈琲を淹れたい!
彼のその思いが、クラっときちゃうくらいかわいくて、ならばと、月の珈琲3カ国の味の違いを伝え、お客さまから珈琲のご注文が入ったら、どの珈琲を召し上がるか確認してくださいとお願いした。
「これはあまい感じ、これはにがい感じ、これはすっきりした感じ。」
たったこれだけのことと思うかもしれないが、お客さまを目の前にして、迷うことなくすらすら伝えるのは難しかったりする。
ちなみに、焙煎した本人であるわたしも、時々、あれ、これはどんな味だっけ?と一瞬の間があくことがある。
かわいい小学生は、お客さまとのコミュニケーションという第一関門を難なくクリアし、第二関門珈琲を淹れるに颯爽と突入してきた。
(レジは、Atelier Littleのオーナーが担当しています。)
とはいえ、何も教えていないのに、お客さまに提供する珈琲を淹れてもらうわけにはいかない。
まずは、珈琲の淹れ方について説明しながら、珈琲を淹れる様子を見てもらい、できあがった珈琲をお客さまにお持ちすることをお願いした。
「お待たせしました!〇〇の珈琲です!」
かわいい小学生の元気な声がアトリエに響く。
珈琲を手渡されたお客さまは頬を緩めながら珈琲を受け取っていらして、彼は彼でちょっと照れくさそうにお母さんに抱きついていた。
その姿がまたまたなんともかわいらしい。
第二関門珈琲を淹れるでは、彼のお母さんの珈琲を淹れてもらうことになった。
珈琲豆の説明→注文を受ける→珈琲豆を挽く→珈琲を淹れる
(やかんからドリップポットに湯を移すのは危ないので、わたしが担当。)
踏み台に乗った小学生バリスタは、たった1回のデモンストレーションで流れを把握し、見事に珈琲を淹れた。
さっきまでのかわいさはどこへやら、今度は、その姿が頼もしく見えてくる。
お母さんに珈琲を渡し、お礼を言われたときの彼のうれしそうな顔に、私も、昔、同じような経験をしたことを思い出した。
小学生の頃、クリームチーズが入っている箱の裏に書かれたレシピで、母にチーズケーキを作ったことがある。
誰でも作れる簡単なレシピのチーズケーキなのに、母はとてもうれしそうで、将来はお菓子屋さんになれるねとわたしに言った。
それがとてもうれしかった。
わたしが作ったモノを喜んでもらえるうれしさを実感したのはこのときだったのだと思う。
そして、この心に刻んだ気持ちが、いつかの夢を見る気持ちに繋がることをわたしは知っている。
お菓子屋ではないけれど珈琲豆屋になると決めた時に思い出したのは、この気持ちだったから。
かわいい小学生が淹れてくれた2月の名前のない珈琲を飲みながら、その清々しいほどにすっきりと冴えた味わいに、彼にとって、お母さんやお客さまが彼の提供する珈琲を喜んでくれるという経験がいつかの夢を見ることに繋がってくれたらいいなと思った。