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「2024年9月の珈琲 India:ハリケーン回遊」

India:ハリケーン回遊
電柱から飛び出した何本もの電線が
暴れる風に揺れている
右から左へ流れる雲の速さが
嵐の到来を知らせていた
そんなことは知ったことかと
回転する風を逆手にとり遊び狂う鳥たち
芳醇なコクと苦みに翼をゆだねる

この土地で初めての台風がやってくる。

築60年以上の小さな平屋の雨戸は木でできていて、戸袋から出すのもひと苦労だ。

しかも、たとえ、すべての雨戸を動員したとしても、隙間から入ってくる風が雨戸と窓を揺らして、カタカタガタガタ、その音は止まる気配もない。

大丈夫なのかしら?

不安になりながらも、築60年以上ということは、その間、いくつもの嵐を耐えてきたわけだから、わたしが心配することもないのだろうという考えに落ち着いた。

こんな日の海はどんな感じなのだろうか。

気にはなるけれど、嵐のなかを海に向かうわけにはいかない。

外の様子が気になるわたしは、風が少し弱くなった頃合いをみて、雨戸を少し開け、様子をうかがった。

灰色の空に、細く黒い線が揺れている。

それは、電柱から飛び出した何本もの電線で、暴れる風にあおられて、揺れていた。

その上空では風が雲を右から左へと押し流しているのだけど、その速さがとんでもなくて、やはり、嵐は近づいているのだと思った。

そんな空をいく羽もの鳥が飛んでいることに気がついて、わたしは思わず、目を見張った。

ずっと、見ていると、ひと集団の鳥だけでなく、他の集団の鳥も、上から下へと、風をその羽に受けながら、自由に飛び回っている。

嵐が来ているなんて、そんなことは知ったことかと言わんばかりに、むしろ、いつもより回転する風を逆手にとり、遊び狂う鳥たちに、目を奪われたわたしは窓の外をじっと眺めていた。

初めての嵐の日、わたしの不安を取り去ったのは荒れる風のなかで遊び狂う鳥たちの姿でした。

それは、モンスーンの風で乾燥されたインドの珈琲の芳醇なコクと苦味に翼を委ねているようだったのです。

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生産国:インド
品種:アラビカ種
精選方法:モンスーンコーヒー
風味:スパイシー、懐の深さを感じる深いコク
煎り加減:深
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