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「2025年1月の珈琲 Brazil:君の見た世界」
Brazil:君の見た世界
先生から手渡された
鉛筆一本画用紙一枚
図工室の一角を君と並んで描く
瞬く間に時は過ぎ鳴り響いたチャイム
君の絵に描かれていた
わたしには見えなかった君の見た世界
個性的な香りをはなつ苦味
わたしの見えている世界と君の見えている世界がちがうことを知ったのは、小学4年生の図工の授業だった。
図工室は、本校舎から中庭を抜ける渡り廊下を渡った別校舎にあった。
別校舎の奥にある教室はどこも日の光が届きにくいせいか、昼でもうっすらと暗い。
しかも、特別な授業がなければ、生徒が足を踏み入れることもなく、その暗さには寂しさも加わっていた。
そして、それは図工室も例外ではなかった。
その日、図工の授業が始まると、先生はわたしたちに鉛筆一本と画用紙一枚を手渡しながら、図工室の好きな一角を自由に描くように伝えた。
生徒数はひとクラス30人ほどだっただろうか。
思い思いに好きな場所をさがす。
すると、30人ほどは意外にも散らばった場所に腰をおろすこととなった。
そして、わたしのとなりには君がいた。
わたしと君が描いたのは、図工室の一角、棚の前にあった絵画作品乾燥棚。
なぜ、それを選んだのかは今となってはわからない。
ただ、わたしと君が選んだのはそれだった。
一本の鉛筆を黙々と動かし、一枚の画用紙に絵画作品乾燥棚とその背景にある棚を描いた。
集中していると時間が過ぎるのはあっという間だ。
鳴り響いたチャイムの音にはっとし、君を見ると、君もわたしを見た。
そして、互いに描いた絵を見せ合った。
君の絵に描かれていた図工室の一角を見て、わたしは衝撃を受けた。
たしかに、同じ図工室の一角、しかも、絵画作品乾燥棚を描いてはいたけれど、その同じ景色の見え方、受け取り方、そして、表し方は、わたしと君とではまったくちがうのだと思った。
君の絵には、わたしには見えなかった君の世界が描かれていた。
2025年1月の「Brazil:君の見えた世界」の香りは、一瞬、普洱茶のような個性的な香りがした。
でも、その後の味わいは、Brazil特有の安心感のある苦味とコクが広がっていく。
それは、小学4年生の図工の授業で受けた君の絵から受けた衝撃とわたしと君の見える世界がちがってもいいという安心感にとてもよく似ていた。