豊かな生活
精神科病棟に入院して2週間が経とうとしている。家に居たら自殺してしまうのでここに居るから、ここに居たくないとは思わない。けれど、外に出て文化的な生活を送りたいな、と思って悲しくなる。 iPhoneの狭い画面で見るNetflixじゃなくて、劇場のスクリーンで映画を見たい。積読をデイルームで読むんじゃなくて、電車の中で途中の本屋で見つけた文庫本を読みたい。自販機で買う缶コーヒーじゃなくて、街のカフェでカフェラテを飲みたい。外の空気を吸いたい。大空の中の月を見たい。好きな音楽をかけてドライブしたい。知らない場所に行きたい。
あぁ
薬を飲まないと人間の形を保てない。眠っている時以外ずっと死が隣に居る。 薬は一日中効いているわけじゃなくて薬が途切れると雨雲が立ち込めた空のように、ネガティブな考えと気持ちが頭からこべりついて離れなくなる。そうなると、脳味噌がただの臓器に成り下がって、生命活動を維持するためのただのモノになってしまう。 感情は暗い部屋に閉じ込められ、肉体は微熱に犯されて、私はただただ呼吸する肉人形になる。 スーハースーハー…人、一人の部屋に呼吸音だけが鳴り響き、孤独が奏でる轟音から身を守っているAirPodsからくだらないラジオの音が漏れている。このまま一生一人、部屋の中で孤独を恐れ、他人を恐れ、肉体が朽ちるのを待ち続けるしかないのか。 薬で眠っている間は、とても浅いもので、昔の夢をずっと見ている。夢の中だと、自分のことを忘れて奇妙な体験にのめり込める。こういうトリップだけをできたら肉体を捨てて、精神世界で生も死もない自由になれるのかな。