ゲームの"流れ"は実在するのか?/Insight #15 イベントレポート
「流れが良かった」「流れを引き戻す」「試合の流れをつかむプレーでした」試合の勝ち負けを左右する”流れ”。感覚的にはある気がしますが、実際に測れるのでしょうか?
今回のインサイトでは、栃木シティフットボールクラブ・インディビジュアルアナリストの橋谷英志郎氏をお招きし、「分析」の本質について語り合います。
<登壇者紹介>
ゲスト 橋谷 英志郎氏
栃木シティFC インディビジュアルアナリスト
ゲストコメンテーター 續木智彦氏
西南学院大学サッカー部監督
司会進行 和田タスク
前FC町田ゼルビアスタジアムDJ
タスク:第15回目は「ゲームの"流れ"は存在するのか?」というタイトルです。今回のゲストは、橋谷英志郎さんです。栃木シティFCで、インディビジュアルアナリストというお仕事をされています。
橋谷:個人を分析するアナリストとして役割をいただいてます。自チームの個人と対戦相手の個人にフォーカスして分析をします。
タスク:どんなことを個人として分析するんですか?
橋谷:まず大きく分けると、対戦相手のスカウティングと自チームの成長のサポートの二つがあります。対戦相手のスカウティングは、僕を含め栃木シティは3人のアナリストがいるんです。Jリーグでも3人いるチームが出てくるというレベルで、J2とかJ3になると2人いればいい方で、1人でコーチが兼任でやってるとこも。我々だと、自チーム、対戦相手、個人を担当するアナリストとなっていて、僕は対戦相手の個人をピックアップして、誰がキーマンで、誰がどういう能力を持ってて、こういう特徴があるんだっていうのを見にいってます。
タスク:どうやって見つけるんですか。
橋谷:対戦相手の仕組みを構造的に見るというより、「この選手どんな癖あるんだろう」「こういうところ脅威だろう」と、単純に見ていく感じです。あとは、「チームとしてどのようなタスクを設けられてる選手なのか」、「こういう能力があるからこのポストに置いてるんだ」といった見方で、対戦相手を見てます。
タスク:見つけたら、どうメモってるんですか?
橋谷:顔写真と背番号と身長、攻守においての能力、チームにおけるタスクというように、フォーメーションにシステムを当てはめて、資料を作りながら試合を見ます。
年間データを取っていると、選手の「流れ」や「波」が見えてくる
@16:00
タスク:自チームの個人分析はどういう仕事になるんですか?
橋谷:まず選手のフィジカル的な個人データを取る。僕は「プレーモデルスタッツ」と呼んでいます。チームのプレーモードに沿って選び抜いた項目、やってほしい生産性の高いプレーやそういうスタッツを集めて、選手の成長を促したりサポートをしたりする。データも取りながら映像を切ったりして、「このプレー今までできなかったけどできるようになったよね」みたいに、若手を中心にチームの底上げをしていくのが主な動きです。
タスク:自チームの分析は、出したものを監督に渡すのか、それとも直接アプローチするんですか?
橋谷:スタッフミーティングで議題にあげて、「この選手気になってます」「こんな話をしようと思いますが他に意見ありますか」とディスカッションさせてもらって。選手に伝えるのは基本的には僕からです。
ただ、基本的に選手にデータは見せないです。人間がやってるスポーツなので、数値で判断する捉え方はされたくないです。選手の目線からしたら「こないだの試合は一緒に組んだ奴がこうで…」とか、数字じゃ測れないことも出てきちゃうんで。
年間データを取っていると、選手の「流れ」や「波」が見えてくるんです。「この選手は今こんな波の中にいるよね」とある程度可視化するようなイメージですかね。じゃあ、今のうちにアプローチして、「この前の試合どうだった?」というように、僕は「一緒に正解を見つけていこうぜ!」というスタンスですね。
タスク:橋谷英志郎という人間がなぜ分析官になったのか。
橋谷:大学までは、サッカーをやってました。大学の途中で、フットサルに切り替えたって感じです。選手を引退したタイミングでフットサル女子代表のゴールキーパーコーチの話がきまして。でも予算もあるカテゴリーじゃないから、分析も一緒にやってほしいと話を受けて。
当時分析をやったことなかったんですが「やってますよ」って、ハッタリ言っちゃって。「どんな分析をやってるか今度見せて」と言われて、その後の2ヶ月間は必死に分析の本や動画編集ソフト買ったり、チームの先輩や監督とかに聞いたり、もう見よう見まねでやってっていうのがきっかけです。
地球上の物事はすべて波で起きる
@26:08
タスク:どんなとこから始めたんですか?分析はデータを蓄積しなきゃいけないじゃないですか。
橋谷:基本的に対戦相手のスカウティングからですね。対戦相手がどういうチームなのかを紐解くところからスタートして。
2015年のフットサル女子の世界大会がグアテマラであったんですが、初戦にグアテマラと試合して、1対2で負けたんです。負けた夜、監督が僕の部屋を訪ねてきて、「負けたんだけど、自分たちのフットサルができた試合だと思うんだよね。データを取ってほしいんだけど」と言われ、その時が初めてデータを扱ったタイミングで。
何をしたかっていうと自分たちが対戦相手のアタッキングサードに侵入した回数、ボールが侵入してボールタッチした回数です。
タスク:なんでそこからやろうと思ったんですか。
橋谷:物理的にボールがアタッキングサードに入る回数が多ければ多いほど、相手に脅威を与えてるっていう考えのもとカウントして、その試合がどういう試合だったのかを見たいということで。ホテルの電話機の横にあるメモ帳にフットサルコートを書いて、どこでタッチしたか丸をして結果を出したんですけど、日本のほうが多かった。できることはやれたよねと。
タスク:時間で区切ったのですか。
橋谷:そのときは場所で見てたんです。でもフットサルは競技特性として交代が自由で、出ている4人が総入れ替えするやり方が主流。特に「どのセットでどれぐらい入るのか」を見たいとなったときに、データの取り方が時系列になってきたんですよね。
そうなってきたときに、「流れ」って見たほうがいいよねと。ちょうどその頃、デイトレーダーをやってる友人が、「地球上の物事はすべて波で起きるから」と興味深いこと言い出したんです。「フットサルだって波が起きてるんでしょ?それを可視化すると次に何をすればいいかわかるんじゃない?」って。「確かに!」って。それで、流れを可視化するために、見えるような単位で区切ってカウントしようと。
僕は1分単位だったのですけど、プレイングタイムの1分で何回対戦相手のアタッキングサードに侵入できたか、逆に侵入されたかをカウントしていくと、やっぱり波が起きるんです。これをたくさん取っていくと波の頂点でゴールが生まれやすい傾向が見えてきた感じです。
タスク:どういうふうに流れをチームで使ってるんですか?
橋谷:流れに関しては基本的に試合中です。フットサルのときは、試合中に監督に対して常に情報を伝達していきます。アタッキングサードの進入回数とか、ペナルティの進入回数で見ていくような感じ。そこはフットサルもサッカーもあんまり変わりないと思っていて。
要は、流れを見れるようにすると、このままいっていいのか変えなきゃいけないのかをジャッジするための参考資料になるわけです。
續木:相手を受ける戦術のときに、自分たちの流れになってることもありますよね?ボールを握らせている状況だけれど、自分たちの流れである可能性はあるし、どういう指標で流れを想定できるのかな?
橋谷:まずデータを貯め込んでおくのが大事になってきます。要はチームによって流れの特性があると思うんです。たとえば、攻守の入れ替えだと、チームによって勝ちやすい回数が出てくる。データを貯め込んでいくと、いろんな適正な数字が出てくるんですよ。
自分たちのサッカーをやるために必要なプレーってなんだろう
@41:47
タスク:栃木シティでは、シーズン中どういうふうに使っていますか?
橋谷:かなりアタッキングフットボールなので、前に前に攻めていくっていうのがチームの特徴。対戦相手の背後を走るのは大事なプレーになっていて。これは対戦相手がどうこう関係なく、自ら走れるじゃないですか。この回数だけを数えても波が出てくる。他にもシュート数、ペナルティーエリアの進入回数、ペナルティーエリア内のゴールエリア幅の進入回数とか、あとはパッキング・レートという前進するパスなど統計を取っていきます。その中で、今自分たちがどういった波にいるのかを見る。
タスク:そうなるとデータ量は必要ですね。
橋谷:データ量は必要なんですが、難しく考えなくていいと思ってて。いっぱい取るのが大変ではあるけれど。たとえば、背後を走った回数とか一つのことからスタートしてもいいと思うんですよね。「自分たちのサッカーをやるために必要なプレーってなんだろう」というところから始まるんです。
タスク:「どんなデータを貯めればいいかわからないときに、どうやって貯めればいいですか?」と質問も来てますが、自チームが大事にしてるのは何なのかから始めろってことですよね。
橋谷:監督がやるサッカーは何なのか。前に進みたいサッカーであれば、パッキング・レートを測ったほうがいいし、背後を取った回数をカウントしたほうがいい。逆にボールを保持することを大事にするチームであれば、ボール保持率が高ければあったほうがいいし、パスの本数でもいいと思うし、自分たちのやりたいサッカーに対して何が合うかなっていうところです。
データと感覚の乖離があったときは、何かチームで問題が起きたとき
@51:36
タスク:「一つの試合において、プレイヤーおよびチームの感覚と、データに乖離が少ないほど勝ちにつながるものですか?」と質問をいただきました。
橋谷:データを貯めておくことによって、大体これぐらいの数値になるだろうと、選手はある程度把握していると思います。チームスタッツはミーティングで必ず見せるんで。スタッツを全員で眺めて、「この試合こうだったよね」と、監督が話します。選手の中でも「今日の試合だとちょっとスタッツ負けましたかね」という感覚は、もう育っていってる感じです。
タスク:選手側の自主解決能力にも影響している気がしますね。
橋谷:ただ、ギャップが出るときもあるんです。相手を圧倒してても勝てないときってあるんで。「スポーツだからしょうがないよね」っていうところもあるし、でもしょうがないで終わらせられないんで、何がいけなかったのかを根拠として紐解いていく。
最終的にゴール前の質の話になるけれど、そんなにすぐ上がるものじゃない。じゃあ回数を増やすのか、人数増やすのか。どういうふうに回数を増やすのかっていうところはコーチたちが作っていくところで、選手たちもそれを各々考えながらやっていく感じです。
タスク:「野球ですが、野村監督の勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなしに通じるものがある気がします。体感とデータの乖離」とチャットをいただきました。
橋谷:データと感覚の乖離があったときは、何かチームで問題が起きたときなんで。そうなったときは慎重になります。どこかにギャップがあるから乖離してるわけで、そこを見つけられれば問題解決になる。
タスク:「分析」というと僕は言葉として強く聞こえてしまうというか、やはり数字というものに信頼を置いているんです。ただ、それだけじゃだめだなっていう気もしてて。自分たちがどうしたいからデータを使うというのがないと、ただ分析があってもっていうことになりますよね。
橋谷:別に何か結論を出さなきゃいけないものじゃないと思うんです。たとえば「今こういう状況だよね」と議論するだけでもいいと思うんですよね。
「分析」って難しくとらえてほしくなくて、ただただ自分たちのチームを記録して貯め込んでいくと、もしかしたら向かう先が見えてくる。なのでまずはライトなものからちょっとずつスタートしていくことで、チームにプラスになると思ってます。
タスク:さて、今日は橋谷英志郎さんに来ていただきました。ぜひ、自分たちの強みややりたいことに沿ったデータを取って、シーズンなり、トレーニングなりゲームなりに使ってください。
今回は社長とかクラブの方にも出演をOKいただいたということで、クラブにもご協力いただいて本当に感謝しています。
次回の案内と「The Blue Print」のお知らせ
次回は来月7月5日(金)20時〜21時です。タイトルは「神栖ワールドユースフットボール開催の挑戦」。次回もご参加いただければなと思います。
僕ら「The Blue Print(ブループリント)」というオンラインコミュニティを、Facebookグループの方で持ってまして、意見交換などできるようになってますので、ご活用ください。
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