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日本女子サッカーの現在地/Insight #7

2023年の夏に行われたワールドカップで、ベスト8ながら優勝国スペインに唯一黒星を付け、強い印象を残したサッカー日本女子代表。

そんな彼女たちが活躍するヨーロッパ各国の女子リーグはたいへんな盛り上がりを見せています。

ひるがえって「日本女子サッカーの現在地」は?選手は?指導者は?サポーターたちは?「日本女子サッカーの現在地」について、元なでしこ選手、小林弥生さんとともに考えます。


<登壇者紹介>

ゲスト 小林弥生氏
FAこころのプロジェクトアシスタントスタッフ/  指導普及活動や解説

ゲストコメンテーター 續木智彦
西南学院大学サッカー部監督

司会進行 和田タスク
前FC町田ゼルビアスタジアムDJ

タスク:第7回のインサイト、ゲストの小林弥生さんのご紹介をさせていただきます。現在はJFAこころのプロジェクトアシスタントスタッフとして指導、普及活動をしています。いつサッカーを始めたんですか。

小林:小学校1年生から始めました。落合サッカークラブっていう地域のチームに入ったんですけど、他のチームの助っ人にいったり、市のチームでやってました。中学生のときには、メニーナっていうベレーザの育成組織に入りました。

タスク:高校生でトップチーム、ベレーザに行き、日本代表としてアテネ五輪に出場。日本代表として、国際Aマッチ通算54試合で12得点、国内リーグの公式戦出場223試合で51得点。鉄人の域なんじゃないか。

そんな小林弥生さんをお迎えして、女子サッカーについて、ワールドカップの振り返り、2011年からの進化、優勝、強豪国はなんでずっと強いんだ、といったお話ができればいいなと思ってます。

自分たちがそれ以上のものを出していないと、相手の勢いにのまれる


タスク:まずは、今回のワールドカップ。強かった印象があるんですよね。

小林:優勝の可能性を感じさせてくれるぐらいの試合展開だったり、チームの雰囲気だったと思います。

タスク:續木先生、どう感じました?

續木:強かったですよね。女子サッカーの質的な転換があったかなって思ってて。2011年に優勝したときは、ボールを動かす技術がまさって勝った。そこからフィジカルの要素が強くなってきて日本らしい、ボールを動かしていくところと、フィジカルの要素がマッチして強いなって思いましたね。

小林:池田監督になってからチームコンセプトの中で「奪う」っていうのを、常に最初から言ってたので「ボールを奪う」「得点を奪う」「全てを奪う」みたいな感じで。ボールを回したり保持するっていうより、フィジカル面の要素が高く感じたのはそういった部分にも表れてるのかなと感じました。

あとはボールを繋ぐ中でのカウンター、いかに早くゴールにいくかも、池田監督がずっとやってきて。ボール奪ったあと、縦への仕掛けっていう部分では、特にスペイン戦は出てたんじゃないかなと。

タスク:ずいぶん強いなと思ったんですよね。優勝も見えてくるんじゃないかって中で、スウェーデンにやられましたね。これはどうしました?

小林:前半の戦い方が課題で。私も見て、前半あれ?勢いどうした?みたいな。スウェーデンの方が明らかに出足速いですし、球際も強いっていうのが出てたなって思いますね。

タスク:テレビで見てて感じないような圧力ってのは、選手たちはマッチアップで感じるんすかね。

小林:全然感じますね。なんか勢いがすごいなみたいな、自分たちがそれ以上のものを出していないと、相手の勢いにのまれるんです。


岩渕さんが入らないで自分が選ばれる意味

タスク:池田監督になる前の高倉監督のときって全然違う気がするんですよ。何が変わったのかな?

小林:軸。軸がなかったっていうか、いろんな選手を試しすぎた。軸があった中で何人か入れば、やろうとしているサッカーっていうのはみんなが共通意識と思ってできたと思うんです。

「試合でこうしようね」っていうのを確認したのに、次の試合で違う子が入ってきて、うまくいかない現象が起きて「じゃあどうしようか」って固定できなかった。

高倉さんってコンディションがいい選手、結果を出している選手を呼んだりしてたので。でも、コンディションが良いからって、なでしこジャパンとしてやってることができるかはまた違う。

池田監督になったときに、メンバーが決まってこれで戦うんだっていう結束力が生まれて、選ばれた選手たちがひとりひとり責任を持てた

あと、今回のワールドカップに関しては、岩渕が入らなかったっていうのは起爆剤。入らなかったがゆえに、選ばれた人たちの責任っていうのはすごく感じたのかな。
怪我明けの選手が何人か入ってたんですけど「岩渕さんが入らないで自分が選ばれる意味があると思うから、チームのために頑張る」って言ってたので。

タスク:今回岩渕選手が入らなかった部分もかなり大きいですけど、2011年は逆に、澤穂希選手と宮間あや選手、この鉄板の2枚がいて優勝もしてる。これは結局、いることによる安心感があったんでしょうか?

小林:絶対的存在の澤さんが一生懸命ボールを追いかけていたり、泥臭くゴール狙ったり、相手にタックルする姿を見てると「あ、やらなきゃ」と。その背中を見てた宮間が、今度は自分が何とかしようっていうのを見せた。絶対的存在っていうのは大事かなって。

タスク:澤がいる、宮間がいる、岩渕がいない、やらなきゃいけない、って、やるための動機になってる。逆に言うと、動機付けがあるから強い気はしてるんですけど、今と2011年度、質が違う気がするんですよ。フィジカルフィットネスの部分では変わってきたんですか?

小林:技術も含めて今の子たちは上手いですし、体力もあると思います。進化していると思いますね。あと、アンダー世代のカテゴリーができた。2011年の若手の子たちが、アンダー世代の大会ができ始めたときなんです。

タスク:アンダー世代の大会、なかったんですか?

小林:私たちの年代で選抜ができたぐらいだったんですよ。岩清水や、永里、阪口とかはアンダーカテゴリーの世界大会に出て、全然成績を出せなかった世代なんです。でも、その次の年代からアンダーカテゴリーのワールドカップで準優勝だったりが出始めた。その年代でワールドカップに日の丸背負って戦うのは、上に繋がる。若いうちから世界を経験できるのは羨ましいなって思いますね。


アメリカって、女の子はサッカーをする文化


タスク:サッカーのプレーのスピード感が上がってきた気がするんです。スピード感的にはどう感じますか。

小林:すごい速いって思いますね。2011年の子たちのスピードってすごいゆっくりで、誘い玉で相手が釣れたら裏をいくとか逆を取るとか、相手の様子を見ながらという上手さがあったんですけど。今回は自分たちで早く動かしながら相手を動かして。世界と戦っていく上で、パスの質・スピードにこだわってますね。

タスク:アンダーもできて、こだわりもできてきて、さらに強い動機付け、やらなきゃいけないところが出てきてるのは、サッカーの進化に必要と感じるんです。

そう考えると、アメリカってずっと強い印象があるんです。サッカー自体も強いんでしょうけど、常に強い動機を持ってるから強いんじゃねえかって。

前回のワールドカップのとき、ジェンダーの話をアメリカの選手がしてて、それを訴えるためにもやらなきゃいけないことも動機なのかなって思ったり。どう思いますか?

小林:アメリカって、女の子はサッカーをする文化なんですよ。私がワールドカップに出場した97年の大会のときに、アメリカが優勝したんです。

優勝するためのドキュメンタリーがあって。「選手たちを絶対に優勝させよう!」みたいなプロモーションをかけてて。もうそこからの歴史の差ですよね。90年代のアメリカは優勝狙う感じで動いてて。アメリカ開催だったんですけど、中国と決勝でアメリカがPKで勝つんです。

自国開催も大きかったと思います。国全体でどんどん結果に繋げて、一気にアメリカのメンタリティが強くなって、少女たちが憧れるきっかけになった大会だったかなって。

2019年のワールドカップで優勝したときは、アメリカがジェンダーのことを訴えかけてくれたおかげで、今回の女子のワールドカップの賞金が爆上がりしたんです。

タスク:日本もやったらいいのに。

小林:ただ日本にはそういう強さがない。まずは自分たちが結果を出さなきゃいけないっていうのが、現役選手たちが求めてることだし求められてることだから、それ以上は行動に移せない部分があると思うんですね。だけど、違う部分で日本の立ち位置の評価を高めてくれてるのは、2011年ワールドカップ優勝したメンバーたち。

女子サッカーをどう見てもらうかも含めて、現役で頑張り続ける人、協会の上の方に掛け合ってくれる澤さん、FIFAと繋がりを持つ選手、今回のワールドカップの優勝トロフィーを持って入場した宮間あやとか。頑張ってくれてるなって思いますね。


日本のために国内でプレーすることも必要


タスク:アメリカ以外にも、スウェーデンもずっと強いんですか。

小林:ずっと強いんですよ。スウェーデンリーグは長くあると思いますし、イングランド、スペイン、ヨーロッパ勢は年々、女子選手に対する環境がすごく良くなってきてますね。

タスク:国内が強いと代表も強くなるもんなんですかね。

小林:なるんじゃないですかね。

タスク:イングランド、スペイン、スウェーデン、当然アメリカの国内のリーグも盛り上がっててずっと強い。かたや日本はどうなってんだっていうところで、WEリーグができましたね。

タスク:どう見てらっしゃいます?

小林:国内でやるより海外に出てやる方が、日本代表のレベルは上がるとは思っているので、そういった意味ではWEリーグは世界と比べてまだ低いかな。

私自身、海外に行ってよかったなと思うことがたくさんあったので。若いうちから世界を経験して、強豪国で代表をやってる人たちからの刺激を受けるのが理想かな。

でもプロリーグが発足したので、逆に海外からもっと選手が来てほしいなとも。

タスク:ずっと強い国は国内リーグも盛んで強い、選手たちも集まってくる、社会的な背景もある強い動機があって、ずっと強いとなると日本も国内が強くなったら、優勝がさらに現実味を帯びてくるような気がするんです。

WEリーグが盛り上がるためには何が必要なのかな。

小林:外国の選手もそうですけど、私は経験、歴史が必要かなって思う。海外を経験した選手、代表で活躍した選手が日本をどう盛り上げるか、日本のために国内でプレーすることも必要なのかな。

タスク:なるほどね、行って、帰って、また行って、を繰り返しながら。今後日本の女子サッカーが上位の常連と強豪国に入っていくには、時間と国内リーグの盛り上がりが必要じゃないかと。あとは動機があることも強さになるのかな。


女の子がサッカーしてるのが昔より増えた


タスク:チャットをいただきました。「スポーツの考え方も強豪国と異なりますよね、男女関係なくサッカーが盛んなことが強くなるベースだと思います」と。

小林:外国のサッカーは生活の一部で、週末になったら応援しにいこうっていう。子供や赤ちゃんも連れながら会場に行くみたいな。

タスク:生活の一部となってることが、サッカー先進国強豪国の共通点になってる。サッカーが国民の生活の隅々まで浸透していることが、国際大会での結果に表れてるんじゃないかと。これ日本で浸透してくのってちょっと難しそうだなって思っちゃうんですけどもね。

小林:バルサのフットサルを見に行ったんですけど、子供がギャンギャン泣いてても、応援がガンガン鳴っても関係ない環境だったので。日本って子供が泣くから連れていけないとか、全然環境が違うなって感じましたね。

タスク:ななさんから「スポーツが生活の一部になるのが難しいのは何でなんでしょうね。サッカーをプレーする人数だけでなく、女子サッカーを見る機会は少ない気がします」と、いただきました。

小林:ただちょっと私の中で嬉しいのは、CMとかで女の子がサッカーしてるのが昔より増えたのは感じますね。私達の時代は女の子がサッカーするなんて、みたいな時代だったので。

タスク:はっきりしてることは、日本という国、一つのコミュニティでサッカーを浸透していくことで男女問わず強くなっていくというところは間違いなさそうですね。


次回の案内と「The Blue Print」のお知らせ


タスク:次回インサイト第8回になります。テーマは、『世界一戦術的なクラブ』はfootballを変えるのか。ゲストは GOAT FCの代表のGOAT氏をお迎えします。

戦術マニア、いい意味でのクレイジー、その方がリアルのクラブを作って実際にやってるという、そんな方をお迎えしてフットボールを掘り下げていってみたいなと思います。ぜひ次回も楽しみにしていただけたらなと思っております。

また、「The Blue Print(ブループリント)」というオンラインコミュニティをFacebookグループの方で持っています。意見交換ができるようになってますので、ぜひご活用ください。

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