
逆をとるセンスは教えられるのか - 元日本代表キャプテンが語る、スター選手が持つ”意外性”の本質/Insight #21
決定的な瞬間をつくるセンスは、教えて伸びるものなのか?
日本代表として歴史的な名選手とマッチアップした経験と長年の指導者の視点から、時には天性とも言われる「センス」を育てることができるのかを本音で語り合いました。
<登壇者紹介>
ゲスト 前田秀樹氏
東京国際大学サッカー部監督
ゲストコメンテーター 續木智彦氏
西南学院大学サッカー部監督
司会進行 和田タスク
前FC町田ゼルビアスタジアムDJ

逆をとれれば余裕ができて良い選択ができる
タスク:本日のゲストは2回目のご登場、前田秀樹さんです。よろしくお願いします。現在は、東京国際大学の監督をされております。今は部員がもう400人ですか。
前田:そのぐらいいますね。
タスク:全員に公式戦をさせサッカーにコミットしながら、人間力も一緒に育てていらっしゃいます。前回サッカーをしていく中で、「逆をとっていく重要性」があるのではとお話いただきました。なぜ必要なのですか?
前田:サッカーはボールが一個しかありませんから、特にボール際ですよね。一対一の場面は重要になる。逆をとれれば余裕ができて良い選択ができる。
なぜフェイントをするかといったら、相手を騙すためですよね。今話している場面は、特にシュートレンジや攻撃になりますけど、逆をとらないとなかなかシュートができない。とれるとゴールの隅に飛ばせるだけの余裕ができる。
もっとレベルが高くなると、股を抜いたシュートなんかもできますよね。「余裕を作る」という意味で、逆をとるのが大事になるのです。
タスク:攻撃でとおっしゃっていますけど、守備でもですか?
前田:守備でもあります。小学校低学年には難しいと思います。ただ、相手のボールをどうやって奪うか。自分から仕掛けて、相手にボールを運ばせて狙って取る。積極的な守備はあるんです。
相手からボールを奪うということは、攻撃にチャンスが生まれるということ。相手の陣で取れれば、もっとシュートまでいけるチャンスがありますよね。
リアクションだとマイボールにはならない、アクションしないと。
遊びの中で身体が自然に動けるものを作っていく
タスク:具体的にどうすれば?
前田:たとえば、剣道では相手に「面」を打たせるような仕草をさせて、「小手」を狙うことがあります。サッカーでは縦にわざと追い込むような態勢を作って、相手の切り返しを持っていかせる。それを読んで、切り返した瞬間に獲ってしまう。そういう仕掛けをやるということです。それができるとサッカーが楽しくなってくるんですよね。
タスク:ただ、フィットネス能力を持ってないと…
前田:そう簡単にできるものではなくて。サッカー用語でいうと、子どものころからアジリティが必要になってくる。
タスク:敏捷性ですね。
前田:たとえば、クロスステップやサイドステップ、ターンなど足の運びをスムーズにできないと。僕の年代は、木登りや縄跳びなど、遊びの中でみんながやってるんです。身体を自分の思い通りに使いこなせるのが自然にできていた。
今の場合は遊ぶ場所がない。そうすると、たとえばラダーや色違いのコーンを置くとか、コーチが色違いのビブスを持って挙げた色をタッチするとか、それを何秒でできるかとか。遊びの中で身体が自然に動けるものを作っていくことが大切だと思うんですね
タスク:積み上げが大事になってきますね。
前田:ヨーロッパでは、17、8歳でサッカー選手としてのカリキュラムが終わる。ですから、小学生はその年代で必要な神経回路をどう作るかです。
自転車って小学生前に乗れちゃいますよね。一回乗れたら、何十年も乗らなくても乗れます。それと同じ。小さい頃に両足を使うことによって、両足が使えるようになる。高校から自転車に乗るのは難しい。回路がないから乗りこなせないと思うんです。
タスク:体が動けば、多少下手でもやりようがあるのでは。
前田:サッカーは攻撃だけじゃないから。守備が上手い子は相手のボールを奪って入れ替わったら一人抜いたことになる。だから、守備って大事なんです。
バスケットのパスもそうですよね。NBAの河村選手は身長が173cmぐらいしかないのに人気がすごい。「ノールック」でパスができるんです。アメリカのファンはもう喜んじゃって。サッカーの場合も、ディフェンダーは相手の目を見て、パスがどこに来るかを予測するわけです。でも、ノールックされると騙されるんですよ。逆をとれる選手はレベルが高い。
相手のためを考える習慣をつけると、相手にとって嫌なこともできるようになる
タスク:相手もレベルが上がってくると上手くいかなくなるのでは。連続性の中で、相手と駆け引きしていくのですか?
前田:ふだんの生活から考えるような習慣をつけないと難しいです。要するに、常に相手を感じ取らなきゃいけない。ただゴミを拾うだけでも、見ている人からすると「ありがとう」という気持ちになる。
大谷選手が人気があるのはそこです。グラウンドでゴミが落ちていたら拾ってポケットに入れる。それを見たアメリカの人たちは「なんて人なんだ!」っていう。
相手を常に考えながらやってると、自然とそんな気持ちになってくると思うんです。相手を考える習慣をつけると、相手にとって嫌なことができるようになるんですよね。
外国人に人気の日本の100円ショップは「こういうのあったらいいな」を感じ取って、それを商品化してるだけなんです。そういうことを考える人がいるってことですよね。スポーツの世界でも必要な部分なんです。
やらされるのではなく、自分がやろうとすることが大事。「こうすれば相手は引っかかるだろう」とか、自分でフェイントを作って。昔はクライフが作った「クライフターン」ってありました。発明じゃないけど、自分で作っていくのも大事。
日本人はヨーロッパで「器用だ」といわれる。久保くんなんかそうですよね。カットインしても、必ずシュートまで持っていきます。相手も読んでるんですよ。でも相手が取れたと思ってきた瞬間、シュッともう一回突くんです。アジリティも速いです。
それは、日本の文化からも生まれてくるかもしれないですね。
タスク:大学の生徒の皆さんには、どうアプローチされているのですか?
前田:基本技術の精度の高さは必要ですが、たとえば、パスを出すときに誰を見て出しているか聞くんです。「味方を見て出す」という人が結構いるんですよ。でも、相手に読まれるとカットされることもある。僕は「相手を見るんだ」っていうんです。
味方が走ったときに、オンサイドになる・ならないかを見れる選手は見るところが違うんです。その秘訣は教えます。相手のラインを見るとわかるから、パスを出さない、足元にするとか、いろんな選択を自分の中で考えられるんです。
シュートでは、パワーが必要なロングシュート以外では「ゴールにパスをしなさい」と言います。
タスク:まさにジーコさん。
前田:そういう考え方を持たないと。「シュートは思い切り打たないと」と、上にふかしちゃう子が結構いるんです。メッシやマラドーナもそうでしたけども、強いシュートだけじゃないんです。コースギリギリとか、おちょくったようにキーパーの逆を取るとか。
タスク:相手ディフェンダーを見てる中で、味方と合わせるのは難しいと思うのですが。
前田:相手を見てると、パスミスになるかもしれないけど、相手には引っかからない。リスクはないわけです。味方が走ってなくても、相手に取られないですから。そういう見方もあるんですよ。一つだけじゃないというのも大事なことですね。
人生経験のある人の方がやる気を出させられるかもしれない
タスク:「指導のコツや、40代の指導者へのアドバイスがいただけるとありがたいです」と質問をいただいています。
前田:指導者の年はあんまり関係ないと思うんです。ただ、どの年代を指導されてるのかは大事で。日本は、若い年代が若い子を見ることがあるんですけど、ヨーロッパは若い人もいるけれど、チームの長にはベテラン・人生経験の豊富な方が必ずいる。指導もただ厳しいだけじゃなく、褒めたりチームワークがどれだけ大切か教えたりする。サッカーだけを教えるんじゃなくて。
僕も性格を見て話すんですよ。あまりネガティブなことを言ってしまうと、もっと落ち込んでプレーが悪くなって、もう辞めるというケースも出てくる。そうじゃなくて、逆にいいよって。「やろうとしてることは間違いじゃない」と声をかけてあげる。性格によるんですね。
それを読めるって、すごく大事。人生経験の豊富な人は、いろんな方とお会いされてる方が多いから、かける言葉は全く違ってくると思うんです。
若い人は、どちらかというとプレイヤーを育てる形になっちゃうから、サッカーの技術は見せられるかもしれないけれど。人生経験のある人の方がやる気を出させられるかもしれないです。
タスク:前田監督のキャリアの中で、逆をとるのが上手い選手はいましたか?
前田:稲本なんか上手かったね。世界のトップレベルっていうのは大体持ってますからね。僕がやった中では、マラドーナとかもそうだったし。考えもしないようなことを平気でやっちゃうし。
タスク:「逆をとるプレーは、特定のポジションに向いているということはありますか。また、ポジションごとに必要な能力や適性、観点の違いについて知りたいです」と質問をいただいています。
前田:前の選手は要求される部分があります。一方でセンターバックは逆をとられる選手が多いですね。体が大きいと、アジリティが少し遅いことがあります。
タスク:ただ、最近ではサイズがある選手でもアジリティの高い人たちが出てきましたね。
前田:トレーナーの役割なんです。18歳からある程度筋力をつけなきゃいけないんです。逆をとられてもついていける選手っていうのは、筋力が強い。これを「復元力」というんです。大谷選手なんかはやってますね。やらないと速くはならないです。
タスク:「敵を見てパスを出すという共通理解があると、パスミスも減って、ミスの質が変わってくるのでは」と感想をいただきました。
前田:味方がやりやすいところへ出すのがパスなんですよ。次の処理をしやすいように。前の選手へパスを出すのに、たとえば相手が右にいるのか左にいるのかで、随分変わってくる。相手が左側にいるんだったら、右側の方にパスを出してあげれば取られない。そこまで見てあげるっていうのも、気配りじゃないかと。
スポーツは楽しくないと、やる意味がない
タスク:選手が失敗したくないマインドだと、新しいやり方をトライしてもらうのはハードルが高い気がするんですが、どうアプローチしますか?
前田:積極的なミスはOKです。しかし、消極的なミスは注意した方がいい。ボールをもらったときに前が空いてるのに、後ろ向きでバックパスするのは消極的です。サッカーは、相手のゴールにゴールしなきゃいけないわけだから、ゴールを見る態勢を作らなきゃ。
相手がいないときに一回で前を向かなきゃいけないのに、後ろへ向いてバックパスしてしまうのはよくない。積極的なミスは怒る必要がないです。「やってみよう。取られたら、次を考えよう。もっと成功する方法は何かあるか」とやればいいんです。
タスク:續木先生はいかがですか?
續木:逆を突こうとしていくと、ゴールを奪うことが目的なのに、シュートのところでパスを選択しちゃうなって思ってて。「シュートをパス」と捉えられれば、その手前の敵とゴールキーパーと駆け引きすればいいので、そういう認識に変えれば、選択肢や注意の向け方が狭くなりすぎなくて済むのかなって。ヒントをいただきました。
タスク:前田監督、今日はありがとうございました。率直な感想を聞かせてください。
前田:私の経験をふまえて、皆さんにサッカーを理解していただいたり、楽しく思っていただけたりすればうれしくて。スポーツは楽しくないと、やる意味がないと思ってまして。スポーツは楽しい、勝つことも大事だと知ってもらいたい。
スポーツの世界は、最終的には負けるか勝つかですから。どちらかというと勝った方がいいわけですよ。そのためにみんなやってるわけですから。ぜひ頑張っていただきたいと思います。

次回の案内と「The Blue Print」のお知らせ
タスク:次回のインサイトは、2025年1月3日(金・祝)20時〜予定しております。2回目になる安藤隆人さんをお迎えして、「相互理解できてますか?」の続編をお届けします。皆さん三が日にお忙しいと思いますが、お耳を拝借いただけたらうれしいです。
また、「The Blue Print(ブループリント)」というオンラインコミュニティをFacebookグループの方で持っています。意見交換ができるようになってますので、ぜひご活用ください。
The BluePrint コミュニティページ(Facebook グループ)
https://www.facebook.com/groups/theblueprint.cloud9/
最新のイベント情報(Peatix)
https://blueprint-insight.peatix.com/
有料購読者限定で、当日のアーカイブ動画を公開中です。
ぜひ、対話の生の声をご視聴ください。
ここから先は
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?