フットボーラーとしての”価値”を最⼤化するには/Insight#19
自身の価値を最大にしたい。これは、プレイヤー、指導者を含めた全てのフットボーラーの願いではないでしょうか。一方で、価値を最大化していくための育成・指導・能力開発の方法は、どう選べばよいのでしょうか?
株式会社リーグドア 代表取締役の中野風太氏をゲストとしてご招待。フットボーラーの”価値の最大化”をキーワードに、育成・能力開発の本質について語り合いました。
<登壇者紹介>
ゲスト 中野風太氏
株式会社リーグドア代表取締役
ゲストコメンテーター 續木智彦氏
西南学院大学サッカー部監督
司会進行 和田タスク
前FC町田ゼルビアスタジアムDJ
短い選⼿キャリアの中でどこをどう伸ばしていくか
@13:15
タスク:19回⽬のゲスト、今⽇は中野⾵太様にお越しいただきました。リーグドアという会社では、実際どんなことをサービスとしてやっているのかご紹介いただけますか。
中野:一言でいうと育成年代のサッカー選⼿の⽀援をやっております。プラットフォーム「ミサンガ」みたいなテクノロジーを使ったサポートもそうですし、育成年代の選⼿がレベルアップしたりステップアップしていくためのパーソナルコーチングだったりとか、それをチーム単位でサポートさせていただくようなことをやっております。
タスク:具体的にはどのようにサポートしているのでしょうか?
中野:⼀番多いのは上のカテゴリーに進みたいとか、⼤学からプロやJFLに挑戦したいみたいなパターンとか「選⼿のレベルアップをより加速させるためにどうしたらいいの?」っていうようなお声をいただくパターンが多いですね。
タスク:現在のフットボーラーに求められてるものはどのようなところだと思いますか?
中野:いろんなスポーツがある中でも、複雑性の⾼い競技性だなとサッカーに対して思っていて。単純に⾝体能⼒だけでは測れないような選⼿の価値と能⼒みたいなものが多分に含まれてるのがサッカーの特徴だと思っています。
全能⼒トッププラスみたいな選⼿になるのが理想ですけど、例えばメッシのようにフィジカル的な能⼒値が低いような場合でも、オンザボールとか⾝体技術の部分だったりインテリジェンスの部分が人より伸びていると世界⼀になれますとか。
本当に短い選⼿キャリアの中でどこをどう伸ばしていくかみたいなところを常に考え続けなきゃいけないのが、サッカー選⼿だと思います。
チームにフィットしないとき、「求めるもの」と「提供されるもの」の構造がまったく違うから、悩み方が間違ってる
@24:23
タスク:サービスを利⽤する選⼿たちの悩みってまちまちだと思うんですよ。どのように対応されてるのでしょうか?
中野:サービスの枠組みとしては、まず「⼼技体知」の4領域で専⾨家をそろえて、複数の専⾨家が1⼈の選⼿を育てるコーチングするような「多対1」の育成モデルみたいなものを提供しています。
タスク:「多対1」の良さってどんなところですか?
中野:サッカーはチームスポーツなので、トレーニング時間がチームを向上させるっていうのが最重要課題として取り扱われることが多いと思うんですけど、我々のコーチングの時間は選⼿の成⻑が⼀番重要な課題として取り扱える時間になるので。そういう意味では個⼈の1⼈1⼈に合わせた指導ができるのは⼤きなメリットだと思いますね。
タスク:あくまで選⼿が伸ばしたいところに対して提供していくのでしょうか?
中野:サッカーである以上、第一はチームのプレーモデルに対して、選⼿がどういう役割を担っていて、どういうパフォーマンスを求められているかっていうところを⼀番最初に我々の⽅で突き詰めて、本⼈と会話をさせてもらうところからになります。
指導者から求められてることが⾃分の中で⾔語化できてないケースも多分にあるので。そういう場合は、彼の能⼒をどう育てていくかのアプローチからスタートします。チームの⽅向性とか監督が求めていることを変なふうに咀嚼してる選⼿は結構多いです。
タスク:監督やヘッドコーチは「組織を進めていく仕事」が多いと思うんですけど、そこに対しては時間を補っていくという意味でもあるんですか?
中野:監督が⾃分の⼦供を⾒てくれないみたいな保護者の⽅からのお問い合わせをいただくパターンもあって。チームの指導者はチームマネジメントとかチームを良くしていくことが最重要ミッションなので、彼ら1⼈1⼈を深掘って⾒ていくことが構造的に難しいのは、まず理解してもらえないといけないなと思っています。
選⼿はもちろん、選手をサポートしている親御さんの意識をどう変⾰していくかということも時間を使って伴⾛させてもらってます。
タスク:中野さんがこのサービスを始めた理由ってそこですか?
中野:⾃分⾃⾝がそういう経験をしていて。なんで俺はあのとき評価されてなかったんだろうと、⼤⼈になって振り返る機会がありまして。
当時は感情的に「他の選⼿が気にいれられてる」とか、⾃分がチームにフィットしてないことを感情的に処理してたんですけど。社会⼈になって構造的に組織とか競技を⾒られる能⼒がついてきた時、「これは求めるものと提供されるものの構造が全く違うから悩みが間違ってる」って気づいたというのがあります。
役割の中で⾃分の特性とか強みをより発揮していく
@26:51
タスク:チームにフィットさせながら、心技体知で⾜りてないことを順に補っていく⽅向なのでしょうか?
中野:チームから求められる役割を遂⾏するとか、そこを適切に理解して役割の中で⾃分の特性とか強みをより発揮していくみたいなものって、多分サッカー選⼿に求められる最も重要な能⼒なので、そこを磨いてるようなイメージですね。
チームのコンセプトよりもっと⼿前側のサッカー技術の原理原則みたいな部分が⾜りてない選⼿に対しては「能⼒開発がまず必要だよね」っていうようなコミュニケーションをとることもあります。
タスク:難しさってどこにありますか?
中野:カテゴリーによってまちまちですが、選⼿の感覚と保護者の感覚が違う場面が難しいケースです。
プレーの課題みたいなものって⽐較的能⼒開発をしやすい領域なんですけど、本⼈の思考習慣とか、認知の癖みたいなところを修正していくとかは結構時間がかかるなという肌感があります。
ステップアップをしていく選⼿って、既存のチームできちっとした評価を得て中⼼選⼿になる過程を踏んでいるのがほとんどなので、そこを完全に無視して別ルートで進むっていうのはサッカー選⼿の成⻑曲線としてはだいぶ遠回りになってしまうんです。
タスク:リーグドアが思う良い選⼿とチームが求める良い選⼿っていうのでずれが出てくる気がするんですけど、ないでしょうか?
中野:⼤きくずれることはぶっちゃけそんなにないんですけど、細かいポイントでずれてくるみたいなことは実体験としてはやっぱりあって。
例えばフォワードの選⼿の前線からの守備の構成って、トップリーグで最も良しとされてるような形と中学校のカテゴリーで勝率を上げるために取り⼊れる前線からの守備の構成って全然違うパターンっていうのがありますよね。
タスク:善し悪しのずれにどうアプローチしてるんですか。
中野:本⼈や親御さんが違和感に思ってることが解消されないまま今のチームにフィットさせようとすると感情とモチベーションが追いついてこない。彼らが求めているトップリーグの構造と理論は知識としてお伝えし、習得してもらうパターンというのはあります。
とはいえ、戦っているステージが違うというのもお伝えをさせてもらって。プロを⽬指している以上、今求められるパフォーマンスを発揮するところにコミットするようなアプローチですね。
タスク:海外でこういうサービスがあったりするんですか?
中野:同じ形のものはまだ⾒つけられてないんですけれど。海外は指導者の⼈数が多いので1⼈1⼈に指導の時間が構造的に多い体制をとってるのがヨーロッパとかサッカー先進国で、そもそも⼈数が多い背景もあります。
スポーツビジネス、⽂化の成り⽴ちがまったく違うので、同じ形式を⽇本にっていうのは難しいと思います。
今の資本主義原理の価値と合わせて「情緒的な価値をどれぐらい作れるか」は選⼿に求められる価値観
@45:52
タスク:フットボーラーの価値は、どのようなところだと考えていますか?
中野:⼤きく2軸あると思っていて、マーケットバリューとソーシャルバリューですね。端的に⾔うとどのくらいの利益を出せるか。
今、スポーツの産業が市場資本主義原理の中で成り⽴っているので、単純に「どれくらい利益を出せる選⼿なのか?チームの成績にどれくらい貢献できる選⼿なのか?」というマーケットバリューは間違いなく選⼿に必要な価値だと思っています。
Jリーグ選⼿でも⾯⽩いアプローチで市場価値を⾼めてる選⼿もいるなと思っていて。もちろんプレーを鍛えるのもそうですけど、SNSでチームの取り組みとかをめちゃくちゃ発信してるような。
特にプロの選⼿は⾃分のプレーにフォーカスすることを突き詰めてやってきているので、プロサッカー選⼿という職業がどういう構造で成り⽴ってるかを考えてそこの価値を上げる視点を持ててないケースが多いです。チームにどれだけの利益を出せるのかも選手の価値ですね。
タスク:社会的価値の向上というところは?
中野:スポーツって産業が明確に社会を便利にする産業ではなく、元々はエンタメだったり、娯楽産業ではあるので。今の資本主義原理の価値と合わせて「情緒的な価値をどれぐらい作れるか」は選⼿に求められる価値観。
アスリートは夢を叶える姿を⾒せるのが職業の本質だと思っています。彼らが努⼒してる過程を経て⾃分の⽬標を達成したり、組織の⽬標を達成したり、町全体の⽬標を達成するみたいな姿は社会性を持ってると思っています。
タスク:サービスとして、個⼈にフォーカスしてるのか、それとも学校やクラブやチームのどちらに向けているのでしょうか?
中野:そこの話は本⾳と建前があるので(笑)。
リーグドアとしては、フットボーラーの価値を上げていきたい。サッカーを通じて幸福とか感動の総量を社会全体に広げていけたらと思ってます。
本⾳の部分は僕自身の思いが根っこにあって、平たく言うと「世界一になりたい」。選⼿としてはプロになれなかった⼈間で夢を諦めてしまった。そこにすごく⼤きな⼼のしこりみたいなものが残っていて。
世界⼀の選⼿を輩出するとか、世界選⼿の成⻑に貢献したという実感を得たいってのもあります。シンプルに「⽇本の男⼦サッカーがワールドカップで優勝する姿を⾒ないと死ねないな」という思いもあります。
タスク:中野さん達にフットボール価値向上にぜひ貢献いただけたら。お話いただいてありがとうございました。
次回の案内と「The Blue Print」のお知らせ
タスク:次回は11月8日、第2回⽬の登場になると橋谷英志郎⽒をお迎えして分析についてのあれこれをさらに深掘っていきたいなと思ってます。
また、「The Blue Print(ブループリント)」というオンラインコミュニティをFacebookグループの方で持っています。意見交換ができるようになってますので、ぜひご活用ください。
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