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はじめに: アラサー女の転落と再生

そこはかとないキラキラ感で避けていたnoteを29歳の誕生日の深夜にとうとう始めてしまった。
Twitterで専用アカウントも作ったけれど、やはり私はこちら側が性に合っている。
そんな文章の長いアラサーの備忘録兼自己紹介です。

私の音楽の世界は学生時代からほぼ変わらず、ギターとマイクを持った40-50代のゆるめの邦人おじさんたちで構成されていた。
2021年の春の日、そんな愛すべき平和な世界に、隣国から自分と同年代の歌って踊れるグローバルスーパースターが殴り込んできたが最後、私の価値観とアイデンティティは崩壊した。

事の発端は友人から何気なく送られてきた一本のMV。

グループ名くらいしか知識のない、派手な顔と服と髪色ばかり印象に残る男性七人が歌い踊る動画だったけど、友人が「最高」と言うのでちゃんと眺めて、話も合わせてとりあえず返信した。
全員同じ顔に見えたけど、がんばった。

それから一週間後、私たちは五時間彼らについて語り合った。
それだけではない。
何をしていても脳内では彼らの楽曲が流れ続け、SNSの更新を毎日心待ちにし、日本の音楽番組に出るとすべて録画して何度も観返し、社用携帯の待ち受けと社用PCのデスクトップまで彼らの写真に変え、オンラインコンサートを生きがいにして平日を乗り切った。
ここ何年も感じたことのなかった、このダイナマイトみたいな心のときめきとワクワクはもはや完全に高校二年生だ。

ビジュアルを推すアイドルなんて興味なかった。
ましてやお化粧してるような派手なのなんてなおさら。
年上のミュージシャンしかファンになったことがなかった。
歌詞偏重人間だから何言ってるか分からない外国語の楽曲は苦手だった。
ラップもたいして好きでもなかった。
音楽においてダンスもそんなに重要ではなかった。

なのに、すべてひっくり返された。
たった一週間で、いや、おそらく実質一日で、私が築き上げてきた価値観は完全に崩壊した。
笑ってしまうほどあっけなく、私は落ちた。

さらに、彼らは私のアイデンティティまでも奪う。
今まで私は自分の好きなものについて自分だけの言葉で、自分だけの観点で語れると思っていたし、それこそが自分の感性だと思っていた。
ところがどうだ、彼らに対して私が発した言葉なんて
「顔が良すぎて意味わからん」
「いやこれは だめ しんどい」
「えっ待ってむりむりむりすきすきすきすき」
「歌唱力に殴られてる」
「一人ひとり観るために七回観なあかんやつやん」
「いや、この企画考えた人誰??天才すぎる」
オタク語彙とオタク構文に頼り切りのこの体たらく。
そして自分が好きだと思ったところはもれなくあみ全員が好きなところなので、自分だけの観点もへったくれもない。
しょせん私の「好き」はみんなの「好き」。
私のアイデンティティはどこへ行った?

「なぜ私は彼らをここまで好きになってしまったのか、彼らの魅力とはいったい何なのか」
沼に落ちてから一ヶ月かけて、彼らの魅力と今回の転落事故の原因について5,000字超えで言語化することでなんとか溜飲を下げ、私はやっと自分自身と折り合いを付けることができた。

覆された価値観はもう戻らないし、アイデンティティが少なからず揺らいだことも事実だが、それも受け入れて私は本当の意味で、自身の音楽の世界に彼らを招き入れることができたように思う。

アラサーになっても、ガンジス川で沐浴しなくても、こんなに大きく価値観が変わることがある。
たった一本のMVから始まった私の新世界は、予想よりはるかに広くて深くて、知れば知るほど素敵な小宇宙だった。
そしてそれは今でもとどまるところを知らず、日々拡がり続けている。

そして同時に、この事故は私を世の中に対して少し優しく寛容にもした。
この事故を通して、一つ誓ったことがある。
それは、よく知らない他人の趣味をもうぜったいに批判したり軽視したりしないでおこうということだ。
誰かの「好き」には、私が知らないだけで素敵な魅力がたくさんあるのだし、それを知ってしまうきっかけ次第で、いつどこで私もそちら側へ転がるか分からないのだ。

たった一本のMVから、バターのようになめらかに、あなたたちが私の心の中へこっそり入ってきてしまったように。


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