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モーツァルト・ピアノ、クラリネットとヴィオラのための三重奏曲 変ホ長調 KV498「ケーゲルシュタット」、12のホルン二重奏曲KV487

2006年に書いた原稿をweb用に加筆修正してみました。モーツァルト・ピアノソナタチクルスのレクチャー原稿を補強するつもりで書いています。


■ピアノ、クラリネットとヴィオラのための三重奏曲 変ホ長調 KV498「ケーゲルシュタット」

1786年(フィガロ の年!)に作曲されたこの珍しい編成の三重奏曲は、「ケーゲルシュタット」という愛称でよく知られています。

動画はテツラフがヴィオラを弾いてるのが興味深いです。

「ケーゲルシュタット=九柱戯」は、ボウリングの前身となるゲームです。ボウリングの起源は紀元前まで遡ることができますが、近代的なボウリングの基礎は、16世紀にマルティン・ルターによって確立されました(宗教改革で有名な、あのルターです!)。ルターは、ピン数がまちまちだったのを9本に統一し、ルール化しました。これがすなわち、9 pins=九柱戯です(ちなみに、現在私たちが親しんでいる10本のピンによる10・pinsは、19世紀以降のルールになります)。モーツァルトは、このゲームに興じながらこの作品を作曲したという言い伝えがあり、それで「ケーゲルシュタット」と呼ばれるようになったわけです。この言い伝えの真偽のほどは定かではありませんが、この作品とほぼ同時期の「ホルンのための12の二重奏曲」KV487の自筆譜に、『九柱戯をしながら』と書かれていたりしますから、もしかするとホントかもしれませんね。👇の絵のようにちょっとワイン飲んだり、楽器を弾いたりしながらやってたのかもしれないですね。

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 この作品は、モーツァルトが親しくしていたジャカン家の集いに際して作曲されました。おそらく、初演のピアノはジャカン家の娘で、モーツァルトの優秀な弟子でもあったフランツィスカ・ジャカンでした。

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クラリネットはもちろん、悪友で親友のアントン・シュタットラー。

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そしてヴィオラはモーツァルトが担当したのではないか、と言われています。高音の旋律楽器を含まない編成のため、ふくよかで柔らかいサウンドと渋い色合いが特徴で、独特な魅力があります。初版では、楽譜の販売促進のため、クラリネットのパートをヴァイオリンで弾くのも可、とされています。ヴァイオリン・ヴィオラ・ピアノの組み合わせの演奏は今でも多いです。

でも、やはりクラリネットとヴィオラの組み合わせでないと、この独特なサウンドは再現できません。ボウリングの片手間で書いたという言い伝えから、何となく軽く見られそうですが、実に高度に練られた傑作です。楽しい音楽ですが、どこかちょっと哀愁が感じられるのも素敵です。アンサンブルの親密さや、伸びやかなクラリネットの魅力はもちろんですが、ヴィオラのコンチェルタンテな扱いにも注目すべきでしょう。ヴィオラは派手に書かれているわりには弾きやすくて、演奏していてとても楽しい作品です。

クラリネット・ヴィオラ・ピアノという組み合わせでロマン派以降の作曲家も曲を書いていますが、これらは明らかにケーゲルシュタットの系譜に連なるものです。この編成の独特な色合いに魅せられる作曲家は多いんです。ロマン派ではシューマンのおとぎ話、ブルッフの8つの小品はよく演奏されます。下記のザビーネ・マイヤーのCDではケーゲルシュタットと併せてシューマンとブルッフも聴くことができます。

近現代の作曲家たちも、この編成で作曲しています。独特な響きに惹かれる人が多かったんでしょうが、ケーゲルシュタットとシューマンの「おとぎ話」でプログラムを組むとき、同じ編成で毛色の違う新作が欲しいなあと思う人も多かったはずです。じゃ、書いてもらおう!ってことで、新しいレパートリーがだんだん増えてきたってことじゃないでしょうか。

■「ホルンのための12の二重奏曲」KV487


1786年の作品です。自筆譜に『九柱戯をしながら』と書いてあるので「ケーゲルシュタットデュオ」と言われることもあります。モーツァルトの自筆譜は3曲(第1番、3番、6番)が残っているだけ。楽器指定もありません。ひと昔前まではヴァイオリン二重奏で演奏されることが多かった作品です。その後の研究でホルンのための曲ではないかという説が有力になったのです。ホルン用だとすると、技術的に難しすぎるのではないかということになって、バセットホルン用に書かれたのではないかと言われるようになりました。でも、モーツァルトは悪友で親友のホルンの名人ロイトゲープをからかうためにホルンをわざと難しく書くことも多かったので(協奏曲は典型的です。楽譜にはソロの難しい部分に がんばれロバくん!とかロイトゲープをからかう言葉が書き添えてあったりします)、それじゃホルンもありかなってことになって、現在は概ねホルン用ってことで落ち着いているようです。自筆譜に『九柱戯をしながら』と書いてあるので、ロイトゲープやシュタットラーといった遊び仲間とボウリングに興じながら作曲した可能性はあるでしょう。どんなに難しく書いてもロイトゲープは名人ですからなんとか演奏したと思います。四苦八苦しながら真っ赤になって吹くロイトゲープを見て笑い転げるモーツァルトの姿が浮かんできそうな、そんな楽しい曲です。


バセットホルンで演奏すると👇のような感じになります。


文句なしに素敵ですけれども...

余裕があって心地良すぎるかもなあ..と個人的には思いますね。

ホルンの演奏みたいなスリルや緊張感はどうしても薄れてしまいます。


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