向島に詰まっている記憶。
僕たち二人は、黄色電車であるところに向かっている。
特に、計画を立てていたわけでもない。
ただ直感で行きたいと思う場所はいつも決まっていた。
電車内に差す光の先には、海に囲まれた島たちが見える。
いや、もしかしたら島に囲まれた海なのかも。
最近の僕は、何をやっても心の中で「何か違う」という感情に憚れていた。
でもいつもこの場所に来ると、その感情はなくなる。
街に浸るだけで、心が落ち着く。地元ではないのに、どこか懐かしい思い出が浮かび上がるような、そんな気持ちになる。
古い街並み、街に住んでいる人たち、青い空、青い海、空気の全てが
僕の肌に優しく当たっていく。
商店街の店がたくさん立ち並ぶ中、この定食屋に目がついた。
後で調べると、昔からやっている老舗らしく、値段も手頃なことから、地元の学生たちから愛されてるお店らしい。
こういう場所は、今まで流れてきた、
尾道の歴史を感じることができる気がした。
狭い路地を見つけるとついつい入って行きたくなる。
すると、こっそりと佇むお店を見つけた。
僕は今まで何故か、気づかなかった。
何度も尾道にはきているのに。
今日、この瞬間、このタイミングで出会うことになっていたのかもしれない。
そう思うと、お店の中に何があるか興味を持ち始めていた。
1階が雑貨で主にアフリカ模様の装飾が置いてある。
見回すと、隅に二段ベットの梯子のような階段が掛けてあった。
隠れ家みたいな雰囲気でワクワクしてると、上からここの店主が降りてきた。
「上に古本が置いてあるので、よかったら上がってみてください。」
上がると、本棚にびっしりと本が並んでいた。
買い主が読み終わった本は、棚の奥そこに眠っていることが多い中、こうやって本をまた違う人へと受け継いでいく。
店主とたわいのない会話をし、お店を後にした。
何も考えずに歩いていると、必ず海辺に行ってしまう。
心の中で自然と海を求めているのかな。
向かいに島が見える。
「なんとなくだけど、行ってみない?」
「うん、なんか行ってみたいから行こう!」
瀬戸内海のいい所は、ふらっと島に立ち寄れる場所が多いこと。
島一つ一つ見える景色も違うし、街も地形も違う。
他にも色々あるけれど、それをひっくるめて僕は瀬戸内海が好き。
向島に着き、心のままに歩いていると、また気になるお店を見つけた。
そこは港から徒歩で15分くらいの場所にある。
中に入ると、雑誌や雑貨が置いてあった。
眺めてるいると、女性店主の方が色々と説明をしてくれた。
向島で活動している人を、オリジナル雑誌で、情報を発信をしているのだそう。
「ここは元々街の電器屋さんだった建物で、それをリノベーションしてこのお店を作ったの。」
びっくりしたのは、電器屋さんだったってこと。
僕の実家も電器屋さんなのだ。
これも何かの縁なのかもしれない。
「向かいにあるお店ね、面白いから、もし時間があれば行ってみて。」
中には漫画がたくさんある。子供が好きそうなおもちゃとかも。
普段はあまり漫画は読まないけど、この空間にいると読みたくなった。
不登校だった頃、学校にも家にも居場所がなかった時ほんと苦しかった。
色々な理由で居場所を失っている子供たちが、気軽に入れる空間は、些細なことかもしれないけど救いになると思う。
そういう場所がここにはあった。
島に住む人たち、平日なのにせかせかしくない。
のんびりと日常を堪能している気がする。
ふらっと立ち寄った向島だけど、少しの時間で人々の思いや歴史が感じられた。
またいつか来よう。 いや、必ず来ます。