ドリーム・デスゲーム 2
✱✱✱
「セカンドステージ、生存者すべてがクリアとなりました」
「第3(サード)ステージまで約一日、それぞれ"有意義な時間"をお過ごし下さい」
アナウンスの後、何も無かった壁が入口となり、奥には人数分の部屋と、食堂、図書館や映画館まで完備されていた。
ざわざわとしながらも、攻略組を先頭に人々は中に入っていった。
『24時間、飲食可能です』
と書かれた紙が、食堂の前に貼られていた。
「こんな死体山ほど見たあとで飯なんか食えるかよ…」
通り際に男がそう呟いて居た。
確かに、山ほど人が死んでいた。
血も、バラバラの肉も、当たり前のように転がっていた。
走ることに必死で気づかなかったけれど、今思うと……吐き気がしてきた。
「余計なことは考えるな。お前は強い、何も心配せずに着いてこい」
しばらく考え事をしているようだった兄が、口を開いて僕を慰めてくれた。
「うん、ありがとう」
「いや。それより…」
兄が視線を向けた先は、僕の腕だった。
「その子も、一緒に行くつもりか…?」
兄の言葉に、僕の腕をギュッと両腕で掴んで離さないでいるのは、エナだった。
「えっと……笑」
「当たり前よ!この子に何かあったらどうすんの!」
戸惑う兄に、エナは強気に言い放った。
そう言えばいつも、いじめられる度にエナが助けてくれていた。
エナにとって僕は今も"守らなきゃいけない存在"なようだった。情けない。
「何かあってもそいつなら変え…………いや、そうだな。エナ、頼むよ」
兄は何かを言いかけて、やめた。
エナは突然の態度の変わりように驚きつつも自慢げに、「あ、あったりまえよ!」とさらに腕をぎゅっと掴んだ。
部屋に向かう途中、思い出したように
「ていうかあんた、いきなり呼び捨て!?」
とエナが兄に文句を言っていたが、兄は何も答えなかった。
用意された部屋は、一人部屋と二人部屋があり、僕と兄は二人部屋、エナは向かい側の一人部屋となった。
エナは同じ部屋が良かった、と最後までブーイングをしていた、兄に。
部屋に入ると、兄は扉の鍵を閉めた。
そしてベッドに座り、「話がある」と言った。
僕はもうひとつのベッドに座った。
「話って?」
「ああ、あのエナって子の事だ。お前とはいつからの知り合いだ?」
「出会ったのは小学二年生。ていうか家にもよく遊びに来てたんだけど…」
兄は少し考えて、「…記憶にないな」と言った。
「まあいい。とりあえず、あいつがお前に最初に言った言葉が引っかかったんだが」
「あいつは『あんたもこのゲーム参加してたの?意外』と言っていた」
「そうだっけ」
「確かに言っていた。つまり、この"ゲーム"の存在を知ってここに来ていた。野次馬ではなく、意図的に参加した"志望プレイヤー"の一人だ」
「志望プレイヤー…」
「だからあいつにはあまりこちらの情報を与えるな。いつ何時裏切られるか分からない。第2ステージの抜け方も、俺が一人で二人分の鍵を手に入れたことも、お前の力のことも、見た未来のことも…」
「ちょ、ちょっと待って」
僕は話においつけず、割って入った。
「僕の……力ってなんの事?それに、未来を見たって……確かに何か、混乱して見えたけど、あれは未来なの?て言うかなんで未来だって分かるの?そもそもなんで、僕が何か見たって知ってるの!?」
僕は酷く動揺した。
兄は元々状況を把握したり、攻略するのが上手いとは思っていたけど、話してもいないことまで知っているとは思わなかった。
「……詳しくは分からんが、俺もお前も力を手に入れていることは確かだ。ファーストステージであの光を浴びたからな」
「光って……あの紫の?」
「そうだ。あれがプレイヤーになる条件。そしてあれを浴びると、プレイヤーになることと引き換えに"力"が与えられる。なんの力かは、本人にしか分からない。………本来はな」
そう言うと兄は自分の左の眼球を、指でとんとん、と叩いた。
「俺は片目が見えなくなった。代わりに、"見えないものが見える"ようになった」
「MOBや敵のステータス、思考の全て、そして信頼を得た者、もしくは一度力を見た事のあるプレイヤーの全ステータス、誘導方法、攻略最短ルート、などだ……」
「何それ……最強すぎるね」
僕は頭が追いつかず、笑うしか無かった。
「そこそこレアな力だとは思う。だが今までもこの力を使ってチートをしていた奴はいたらしい」
「今までのも見えるの…?」
「ああ、歴代の力の一覧を見ることも出来る。だがその中でも…」
「お前の力は、このゲーム始まって以来の最悪最高級チートだ」
そもそも、力があることすら実感がないのに、チートと言われてもピンと来なかった。
「よく分からないけど……。それでなんでエナを信用しない話になるの?」
兄は少し僕に寄って、「あいつの力は見えないからだ」と小声で言った。
「それって…信用されてないから?」
「それもある。だが一番は力をまだ見ていないからだ」
「次のステージで俺が力を見るまでは、決してあいつへの警戒を怠るな。お前の力は、あの場の誰もが見ていた。詳細を知るのは俺だけだが、攻略組には確実に目をつけられたはずだ」
「エナが裏切って、お前を売る可能性もないとは言えない」
「エナはそんなこと……!!」
「───ゲームは人を変える。力は人を狂わせる」
「簡単に心を許すな。信用はこちらから渡すんじゃなく、後から確証に変えていけ」
兄はそれだけ言い捨て、扉の鍵を開けた。
つい先程までの厳しい顔とは変わって、
「飯でも食いに行くか」と言った。
僕は言われたことを心に留めつつ、「エナ呼んでくるね!」と笑って見せた。
「エナ!ご飯食べに──」
─────エナの部屋の扉を開けた瞬間、細い刀が僕の腹を突き刺した。
「え」
僕は一瞬の大きな痛みで、その場に倒れた。
兄はその瞬間にエナの力が"見えた"のか、僕を抱えて全力で走り出した。
「あれは……!バケモン級かよ……!!」
意識が朦朧としたなかで見えたのは、刀を持ったエナ────獅子のような姿だった。
✱✱✱
朦朧とした意識が途切れると同時に、
その日は目を覚ました。