完全ワイヤレスイヤホンにおけるノイズキャンセリング機能と、骨伝導ノイズ

昨今、ワイヤレスイヤホンを使うのが当たり前になってきましたね。世間を眺めても、有線のイヤホンを使っている人を見る事はほとんどありません。
以前はネックバンド型も見かけましたが、現在はほぼ、完全ワイヤレスイヤホン(以下、TWSイヤホン)です。

搭載されている機能として、アクティブノイズキャンセリング(以下、ANC)を有する製品もポピュラーです。最近に発売されたのでは、ついていない物のほうが珍しいかも知れません。

TWSイヤホンのレビューにおいて、ANC機能の評価を気にする人は多いと思います。私もそうです。と言うより、ANC以外の評価、特に音質なるものにあまり関心がありません。ラジオを聴いたり、作業中のBGMを聴く用途なので、極端に音が籠もっていたりしなければ良いのです。だからコーデックも気になりません。LDACが搭載されていても使いませんし。
また、パススルーやアンビエントサウンドと称される外音取り込み機能も使いません。重視するのは、マルチポイントとANCです。

イヤホンレビューにおいてANCの評価を見ると、色々の観点からアプローチしています。多いのは、外音を高・中・低に分類し、それぞれの領域をどのくらい消してくれるか、というもの。また、騒音として共通認識のある環境での効果、たとえば電車・バス・飛行機などの中におけるキャンセルの程度に言及するのもあります。空調の音に着目する観点もありますね。
人によって、乗り物から発せられるエンジン音が気になる場合もあれば、高い音、特に人間の音声を消したいというニーズもありますから、このような見かたの評価は有用です。

Amazonや価格.comでのレビューを参照すると、当然、ANCの効きが良くないという意見も見かけます。自分が同じ製品を所有している場合、本当に同じ物を使っているのか、と思わされるレビューもあります。
ANCが効かないという意見の内、パッシブノイズキャンセリング機能(以下、PNC)、つまりイヤーピースの材質による遮音作用や耳穴の塞ぎかたによるノイズ削減の観点に触れていないものは、参考にする価値はありません。なぜなら、いくら強力なANC機能を搭載する製品であっても、しっかり耳穴を塞がなければ効果を発揮し切れないからです。

装着する人間の耳、すなわち耳介や外耳道の構造は千差万別であり、したがってイヤーピースやハウジングとどう接するかも非常に多くのバリエーションが生じます。そして、レビューを参照する側は、レビュー者がどのような個性を有しているかなどを通常は知りようも無いので、単にANCが効かなかった、などという感想は有用な情報にならないわけですね。
付属しているイヤーピースの種類を紹介し、様々のイヤーピースを試したとか、レビュー者自身の耳穴の構造にも触れ相性の問題まで言及するレビューは、それほど多くありません。

そのように様々な見かたから評価されるノイズキャンセリングですが、私にとって極めて重要であるけれど、ほとんど見る事の無い観点があります。それは、

イヤホン自体や人体が振動する事によるノイズ

です。これには複数のものがあります。たとえば、歩行や走行した時に地面から伝わる振動、イヤホン自体が揺れて伝わったり耳介とハウジングが接する事で生ずる振動、咀嚼時に顔面から伝達される振動、等々。これらは私にとって、最も不快に感じるノイズであり、生じさせたく無いあるいはキャンセルしたいものなのですが、この観点からのノイズを論ずるレビューというのは滅多に見かけません。たまにあっても、そこに着目して複数の製品を比較するようなのは、ほぼ無いです。

PNC説明のリンクを上に張りましたが、それを説明している音響機器メーカーであり、優れたTWSイヤホンを送り出しているJabraは、このような振動由来のノイズを

骨伝導によって生じる内部ノイズ

骨伝導によって生じる内部ノイズを削減するにはどうすればよいですか? | Jabra Elite 10 - Titanium Black | よくあるご質問 | Jabra サポート

と表現しています。

以前、こういった現象を表現する何か専門用語は無いかと、かなり探したのですが、オーディオメーカーによる説明でそれらしいの見たのは、これくらいでした。

Jabraによる説明を参照しましょう。

Jabra イヤーパッドのインイヤー装着スタイルにより、ユーザーのサウンド体験は骨伝導によって影響を受ける可能性があります。骨伝導は、主に頭蓋骨を通じた内耳へのサウンドの伝達です。

自身の足音や咀嚼する音など、周囲の音は、空中を通してではなく、頭蓋骨を通して伝達されます。この感覚は、耳を指で塞いだときにこうした音を聞いた場合と同様です。

骨伝導の感覚を弱めたい場合は、密着を緩めるために別のサイズのイヤージェルを使用してみてください。ご使用のイヤーパッドで Jabra Sound+ アプリまたは Jabra Sport Life アプリの HearThrough 機能がサポートされている場合は、周囲の音を含めるためにこの設定を使用してみてください。

お役に立ちましたか?

骨伝導によって生じる内部ノイズを削減するにはどうすればよいですか? | Jabra Elite 10 - Titanium Black | よくあるご質問 | Jabra サポート

Jabraの説明にあるように、耳穴に指を入れ塞いだ時に、この現象が顕著に生じます。イヤホンのアピールでフィット感なるものを前面に出す製品もありますが、イヤーピースが耳穴によく入り、耳介とハウジングが接触した場合、まさにこの、耳穴に指を突っ込んだがごとき骨伝導ノイズが生ずるわけです。ですから私は、フィット感を、イヤホンを選定する時のポジティブな要件として捉えません。むしろ、離れてくれているほうが良い面もあるのです。

私はほとんど感じた事が無いですが、心臓の鼓動が気になるという人もいます。私の場合は、後頭部での脈動などがよく感ぜられます。

上掲のように、骨伝導ノイズについてある程度、丁寧に説明しているのはJabra以外にはほとんど見かけませんが、皮肉な事に、私が使ったTWSイヤホンの中でも強く骨伝導ノイズを生じさせた製品が、Jabraの物だったりします。特にJabra Elite 75tなどは、良好なフィット感が評価された製品ですが、そのフィット感が、強い骨伝導ノイズに繋がります。対して85tは、ハウジングの形状やステムのノズル形状もあってそこまでフィットしないが故に、骨伝導ノイズが生じにくく思われました。面白いですね。

Jabraはアドバイスしてくれていますが、かといって、骨伝導ノイズを減ずるためにイヤーピース(Jabraだとイヤーパッドやイヤージェル)の形状を変えたり、イヤホンの挿入を少し浅くすると、PNC機能が損なわれ、結果的にANCの効果が充分に発揮できない、という結果に帰着します。色々の要因がトレードオフの関係を結んでいて複雑です。

ここまで見たように、イヤホンレビューにおいて、骨伝導ノイズに言及するものはほとんどありません。もしあったとしても、実際のノイズ発生とそれの知覚は装着者の特性に強く依存するので、参考にするにも限界があります。だから実際に色々と着けて試してみるしかありませんが、経験的に重要ではないかと推測するのは、下記の点です。

  • イヤホン本体が軽い

  • ステムが長い

  • ハウジングが小さい

  • ハウジングがえぐれたような形状

軽いほうが振動が強くなりにくいのは想像しやすいです。また、ステムが長ければ、イヤーピースをしっかり耳穴に挿入しながらもハウジングを密着させるのを避けられます。ハウジングが小さいのとえぐれているのは、言うまでも無く耳介への接触を防ぐように働くと思われます。
これらの観点は、バッテリーをハウジングに格納する必要が無いので大きく重くならないネックバンド型のイヤホンでは骨伝導ノイズがほとんど気にならない事からも、ある程度は妥当だろうと考えています。以前はそういう事情もあって、ネックバンド型を好んで着けていましたが、ネックバンド型では、コードが接する事によるタッチノイズが生ずるので、一長一短です。

実際に使用したのと上記の観点から、骨伝導ノイズが生じにくいと感ぜられたのは、Ankerのイヤホンでした。

これらの製品はいずれも、先述の条件を備えており、あまり骨伝導ノイズが生じません。また、歩行時に足から生ずるノイズはANCでキャンセルされます。
これらの製品は私にとってとても好ましい性能でしたが、同じAnkerでも、

比較的に安価ながら充分な性能を備えているとして人気を博す上記製品などは、ステムが短く大口径であり、ハウジングが近くなり過ぎてイヤーピースの密着が得られずPNCが不充分で、結果的にANCの効果が発揮されず私には合いません。当然ながら、同メーカーでもデザインコンセプトの違いで、得られる性能が異なってきます。
1万円付近のイヤホンで人気のEarFunのシリーズは、スペックは良好ですが、ハウジングが丸い形状だからなのか、かなり骨伝導ノイズが生じます。もちろんこれは、装着者である私の人体の特性との相性の問題です。そもそも骨伝導ノイズが気になるかという、心理的特性も関わります。

いまは、Shokzの製品のように、骨伝導によって音を聴くという骨伝導イヤホンもポピュラーなので、骨伝導ノイズなる表現は紛らわしいものでもありますが、現象を表すに適切な語だと思いますので、そのまま使っています。当該現象について言及するイヤホンレビューは滅多に見ませんので、こうして記事として書きましたが、他に同じような観点から書かれた記事などがあれば、紹介して頂けるとありがたいです。

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