デシリットル
小学生の頃、体積の単位として「リットル」を習った
わたしは「リットル」という言葉は知っていたが、1リットルや2リットルの飲み物を見たことがあるだけだったので1リットル=1000立方センチメートルと知れた驚きと感動があった
わたしは「ミリリットル」も知っていた
わたしは利発な子どもだったので学校で習うよりずっと前に母に自販機で売っているのはなんなのか訊いて500ミリリットルのペットボトルだと教わっていた
でもまさか「リットル」の前につく「ミリ」に1/1000という意味があるとは思っていなかったので新たな学びがありうれしかった記憶がある
デシリットル
こいつは完全に初見だった
リットルはそれ単体でひとつの単位なのでわかる
ミリもミリメートルとかもあるしわかる
「デシ」とは
トンチキアニメの博士キャラの語尾か?とかおもいながら帰路について母に「デシリットルって知ってる?」と訊いてみたところ、「なにそれ?」との返答が返ってきた
母の頃やいまがどうかは知らないが、わたしの頃はデシリットルを習った
そして何故か知らないがデシがつくほかの単位(デシメートルなど)は習わなかった気がする
わたしの世代は小学校低学年の頃にゆとり教育からゆとらず教育への転換期が重なっていたので、もしかしたらその歪みは時代と時代の狭間に生み出された魔物なのかもしれない
ただ、その頃のわたしにとってはゆとりだのなんだの知ったこっちゃないので、同じように単位の頭につく「ミリ」「センチ」「キロ」と明らかに馴染めておらず長さの単位では思いっきりハブられている、そして義務教育で習うのにわたしの母の記憶にも残っていない「デシ」そして「デシリットル」に妙な親近感を抱いたのであった
そして、世界中のみんなに忘れられてもわたしだけは大人になるまで「デシリットル」のことを覚えててやるんだ、とそのとき決心したのであった
わたしは情に厚い女なのでそのことをずっと覚えていた
そして20歳を迎えた朝、わたしは1番に「デシリットル」のことを考えた
いままで辛いことも多かった20年、その半分以上をデシリットルとともに過ごしてきた
ねえデシリットル、わたし覚えてたよ
わたしずっとデシリットルの隣にいたよ
ねえ、デシリットル
わたしあなたのために覚えてたつもりなのに
あなたにたくさん救われちゃった
ありがとう
ありがとうデシリットル
その晩、人生ではじめてできた恋人とすみだ水族館に行った
この水槽の水、何デシリットルだろう…とか考えたりした
水族館を見終わったあとは都内でおいしい晩御飯をご馳走してもらったりした
正直に言う、あれはふたりきりのデートではなくデシリットルも混じえた三つ巴の食事会であった
わたしにとってはそれくらいデシリットルの存在は大きかった
なんで急にこんな話をしたかと言うと、きょう「デシリットル」を使っている大人を見たからだ
当たり前である
世の中に存在する単位で、ましてや義務教育でも習うのだからそりゃ使う大人もいる
なんなら覚えていなかったわたしの母が少数派まである
それでもやはりマイナー単位
実際使っている人はほとんど見てこなかったのである
でもきょう見てしまった
いままでの人生、デシリットルに助けられたりもしたがそれはあくまで副次的な作用、わたしはどうしてもデシリットルのためにデシリットルのことを覚えていたかったのだ
デシリットルのこと、忘れないよ
多分ずっと忘れないけど、いままでみたいにはいられない気がするんだ
いままでほんとにありがとう
デシリットル、わたしがいなくても上手くやるんだぞ
わたしはきょう、デシリットルを卒業する