映画『21世紀の女の子』によせて
山戸結希監督企画・プロデュース映画『21世紀の女の子』を鑑賞してきました。山戸監督については前記事にて。
『21世紀の女の子』は15人の女性監督が撮った15篇118分の、女の子の、女の子による、女の子のための映画です。監督・女優陣の中で私が知っているのは山戸監督、橋本愛さん、松井玲奈さんの3人のみで、それ以外の方は全員初めましての方でした。
この映画は山戸監督主催ということで、企画発表時から鑑賞を決めていたのですが、既に商業作品を世に放っている監督もいらっしゃるので失礼にあたるやもしれないのですが、どの作品にも〝山戸監督の血潮〟を感じました。
「『溺れるナイフ』を実写化するなんて間違ってる」といった声は私のもとにも頂きました。その気持ちは痛い程わかります。自分が一番「溺れるナイフ」のことをわかってる、読む人みんなにそう思わせてくれる魔力のある漫画だから。でも、だからこそ、「自分の方が、山戸よりこの漫画をわかってる」って、本当にそう思うのなら、自分自身の体で、土俵に上がってくればいいのに、って思うんです。
私が初めて観た山戸監督作品の映画『溺れるナイフ』のパンフレットより、原作者・ジョージ朝倉さんと山戸監督の対談でのこの言葉がすごく強烈で、まったくもってその通りだな、と思います。
『21世紀の女の子』に作品を寄せた監督さんたちは皆、山戸監督と同じ土俵に上がった人たちなのだな、と思うとそれだけで身が引き締まります。
私も趣味でこうしてブログを書いていますが、ブログは家で一人でも書けるけど、映画は一人では絶対に撮れないんですよね。俳優、カメラマン、照明、メイク、衣装など、たくさんの人の手が加わって、かつそれらを監督が束ねないと映画作品は作れない。その手間や煩わしさ、苦しさ怖さ恥ずかしさを乗り越えた人たちがこの映画を作っていることを思うと、私はそれを見届けることが何よりの使命だと思いました。
小説家の妻と出会った女性カメラマンとの熱情「muse」、元恋人で元被写体だった女性とカメラマンの絡まり「Mirror」、服飾学生の夢と現実と将来の揺らぎ「out of fashion」などの結びとして、14篇目に置かれた山戸監督のポエティックと舞いを融合させた女の子の魂を揺さぶる「離ればなれの花々へ」は、前13篇で感じた山戸監督の血潮を集約した、まさに心臓のような映像でした。
ひと作品8分とかなり短いこともあり、部屋のインテリア、着ている洋服やアクセサリー、女の子のメイクなどのビジュアルやディティールから、各登場人物の人間性をキャッチする瞬発性を求められるので、一度で浚おうとするとやっぱり難しかったです。つまり、また観に行きたくなる。
どこまで山戸監督のディレクションが加わっているのかわかりませんが、15人全員違う人間が撮ったとは思えないような一つの明確な芯を感じました。
どの作品もすごく個人的なことを描いていて、セックスした男の足の指毛を数えたり、ラブホの浴槽でセフレにペディキュアを塗って貰ったり、各監督のフェティシズムが落とし込まれているので、それらを一つ一つ手に取って眺めていくのも面白いです。
私が一番気に入ったのは枝優花監督(@edmm32)、山田杏奈さん主演の「恋愛乾燥剤」です。
高校生の女の子が初めてできた彼氏への理想と現実のギャップに戸惑い、鞄に入れると相手の恋心を乾燥させられる「コイサメル」という薬を使うお話。
現実ではありえないアイテムが登場するところに『世にも奇妙な物語』を彷彿とさせられ、劇中に出てくる謎の二人組の女の子、場にそぐわない衣装の青年、タイトル映像の派手なピンク色など、女の子や街並みの素朴さをいい意味で崩しにきているポップな世界観が、映画全体を覆うアンニュイなフィルターに風穴を開けてくれています。星野源も歌っていたけど、やはりポップは正義。他の短篇では大学生や社会人など大人目な女性の性的描写が醸し出される中、それよりずっと前の段階でのお話なところも可愛らしい。
枝監督がどこまで周りと擦り合わせたのかわかりませんが、こういう作品が一つあるだけで息がしやすくなっていいですね。
山田杏奈さんの意思のある眉がとってもチャーミングで魅力的。なんとまだ18歳、現役女子高生ということで、未来が楽しみですね。
勿論、ほかの短篇たちもそれぞれ違った魅力があって、どれも素敵な作品たちでした。
観終わった後に知ったのですが、「自分自身のセクシャリティあるいはジェンダーが揺らいだ瞬間が映っていること」が共通テーマだったそうですが、知らずに観ても楽しかったです。
全体的に詩的な言葉が多いので、誰でも気軽に楽しめる!とは正直言えないのですが、基本私は女の子が好きで女の子の幸せを応援したい人間なので、そこまで気負わずに楽しませて頂きました。
作品自体もこれから公開が広がっていくし、監督さん・女優さんたちの活躍にも今後とも期待していきたいです。気軽に見て!とは言えませんが笑、興味がある方は是非、自分の足で自分の手で映画館の扉を開いて、スクリーンに映る女の子たちの生きざまを、両手に魂を抱き留めながら目撃してきてください。
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