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断片

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やさしさ

やさしさ

駐輪場の奥、草むしりもおざなりの誰かの家の庭であろうそこはいつも目も開けずに挨拶をしてくる猫が根城にしている場所だった。日当たり悪く、夜になるとひとつだけ紐に吊るされた裸の電球が息絶え絶えに光を吐くような視界が悪い場所で、庭というより小さな小さな空き地のようで、それでも猫はその場所で、ここは自分の城ですとでもいうように毎日目も開けず足も体の中に隠したまま、駐輪場に向かう私に挨拶をしてくるのだった。

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