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物吉貞宗に会いに日常の美を愛でる空間へ 〜尾張徳川美術館展 尾張徳川家の至宝〜

物吉くんに会いに、サントリー美術館にいってきました


六本木のサントリー美術館で開催されていた、「徳川美術館展 尾張徳川家の至宝」に行ってきました
武家としての宝・武具のほか、当時の武士の教養・政治に必要な茶の湯や能、香道の道具、国宝の「源氏物語絵巻」や「初音の調度」など、豪華な品々が満載でした

そんなわけで乃木坂駅に到着!
ここからサントリー美術館のある東京ミッドタウンへ向かいます

江戸時代の東京ミッドタウン周辺の様子

東京ミッドタウンのところは、もともとは現在の山口県・長門萩藩、いわゆる幕末に活躍する長州藩の麻布下屋敷があったところ
地図上では「松平」となっておりますが、毛利元就の孫・輝元と藩祖とするお家で、麻布下屋敷の庭園は東京ミッドタウンの東の港区立檜町公園として整備されており、緑豊かな場所のようです
ご近所には、伊達政宗の長男・秀宗を初代とする宇和島藩伊達家のお屋敷がありますね

参照:大江戸今昔アプリ httpswww.edomap.jp

↓↓宇和島旅の様子

宇和島藩伊達家のお屋敷は現在、国立新美術館になっております
この時はちょうど「CLAMP展」が開催されており、たくさんの人が並んでいて大盛況のようでした
さくらちゃん、懐かしいなあ〜

緑とアートの街・東京ミッドタウン

いや、東京ミッドタウンは緑豊かでアートがたくさん!
コンセプトに「JAPAN VALUE」を世界に発信しつづける街として、「季節を愉しみ、自然と共生する都市生活を提案する街」「デザインやアートへの関心を喚起し、知的創造力を育む街」をテーマに作られている施設だそう

確かに建物の中にも外にも、あちこちに作品が設置されており眺めて歩くのだけでも楽しいです
これは何を表現しているんだろう?
面白いね、物吉くん

彫刻「妙夢」とミッドタウンの建物
ガレリアから見た「ミッドタウン・ガーデン」

以前は、敷地内の作品を解説してもらえるアートツアーがあったようですが…残念ながら現在開催されていないようです…
問い合わせてみたらわかるのかな?ちょっとHPでは探しきれませんでした。

ツアーの情報はありませんでしたが、HPにはアートのマップがありました
これみながら作品をまわってみるもの楽しそうです

参照:ARTWORK アートワーク in 東京ミッドタウン

サントリー美術館の入っている建物、ガレリア
1階入ってすぐに、京都・清水寺の音羽の滝をイメージした「ツリーシャワー」があります

音羽の滝をイメージした「ツリーシャワー」

この各階の交差する通路の模様は、手漉き和紙の作品「鎮守の森」
下から「社」「木」「太陽」を表しているのだそう
なんだか神社の参道を歩いているような気分です

手漉き和紙の作品「鎮守の森」

お店の看板も、提灯をイメージした和の雰囲気あるものに統一されています
本当に建物全体でコンセプトが整えられているんですね

そんな歴史とアートの街にあるサントリー美術館
こちらのコンセプトは「日常にある美」

「都市の中の居間」をテーマに、茶の間でくつろぐように美術品を楽しんでほしいという考えから作られた美術館だそうです
確かに内装も木の温かみがあり、お家のようなやわらかい空間です
所蔵品も暮らしに身近なガラス作品が多く、エミール・ガレの作品などを多く所蔵しているそう

今回の特別展は、名古屋の徳川美術館所蔵の品が展示されています
刀剣乱舞にとっても、多くの実装刀が所蔵されているおなじみの美術館です
2022年の特別展「名物」では、ゲーム実装されている刀のうち、所蔵されている6振のほかプラス2振、合計8振が同時に見られる展示とのことで話題になりました

●2022年特別展「名物」にて展示された実装刀8振
〈ゲスト〉 ・桑名江 ・獅子王
〈特別展〉 ・南泉一文字 ・物吉貞宗 ・鯰尾藤四郎 ・後藤藤四郎
〈常設展〉 ・本作長義 ・五月雨郷

↓↓その時の旅日記はこちらです

今回の展示は撮影禁止とのことでしたので、Xのポストなどをお借りして、気になったものの感想を書いていこうと思います

第一部「尚武 もののふの備え」

まず武家として大事なものは武具
こちらでは主に具足類に刀剣や刀装・弓・火縄銃など、武家としての尾張徳川家を代表する品を展示したエリアになります

「脇指 無銘 貞宗 名物 物吉貞宗」

必ず勝利をもたらす脇差とのことで「物吉」と名付けられたとのこと
縁起のいい由来もあり、尾張徳川家初代・義直のお母さんはなんとか息子に形見分けさせたかったそうです
まあそりゃそう。親心ですな
その後、尾張徳川家の家宝として代々当主が受け継ぎます
2022年の徳川美術館の特別展「名物」では、豪華な拵と白鞘、華やかな織物で作られた刀袋も展示されていました
刀の箱の中まで華やかな織物の布が張られていたりと、相当大事にされていたことがよくわかります

刀身には、梵字・蓮華・鍬形・素剣の彫刻が
宗教的なモチーフが多いですね
徳川美術館の刀は研いでおらず、江戸時代のままの姿とのこと
…江戸幕府開府が1603年だから…今年で420年ぐらいたちますが…
こんなにきれいとか、どれだけきっちり管理されてきたんだろう。すごいなあ

「太刀 銘 長光 名物津田遠江長光」

また、国宝の「太刀 銘 長光 名物津田遠江長光」もこちらにて展示
こちらは織田信長が所持していたものを、本能寺の変で明智光秀が奪取
家臣の津田遠江重久に与えたところからこの名がついたそう
その後、津田遠江重久が前田家に仕えたことにより前田家へ、さらに前田家から将軍綱吉に献上→尾張徳川家へと伝わったみたいです
波紋はやっぱり華やかですね
海老背と呼ばれていたようですが…刀自体はそこまで反り返っているかな?銘の字体の特徴からきているという説のほうが正しそうです

今度、徳川美術館・足利市との合同企画「伯仲燦然」で予定されている、
2025年6月の特別展「時をかける名刀」でも展示されるそうなので、また見る機会がありそうです

「唐銅飛龍形百目大筒」

これすごいな
龍のような頭の魚をかたどった大砲です
見た目のインパクトがすごい…名古屋城の天守閣にいる鯱にも似てますね
城の壁や石垣を破壊するほど威力のあったという大筒ですが…これは実際に使われたものなんだろうか?
この大筒が実際どれぐらいの威力があるのかちょっと気になります

第二部「清雅 ー茶・能・香ー」

武が表向きであれば、こちらはプライベートの部分
もののふの備えが公的な武家の品々であれば、こちらはプライベートな、当時の武士の教養として求められた茶道・能楽・香道に関わる品が展示されていました

まず茶の湯の道具がたくさん
茶壺に茶杓にお茶碗が…歴代の所有者も歴史上有名な人物ばかりです

「冬枯」

古田織部が主人公の漫画「へうげもの」にも登場した「冬枯」も展示されていました
4方向からみれるケースにて展示されていたため、ぐるっと一回り見ることができました
今見ても遊び心があるデザインだなあ

能楽もまた、社交や情報交換の場に必要なものとして、武将の教養としてたしなまれました

「紅地柳に蹴鞠文唐織」

唐物とは、能装束の中でも一番華やかで若い女性の役が着用するもの
こちら刺繍で模様を作っているように見えるのですが、全て織物で表現されています
蹴鞠模様というのも珍しいものだそうです

この他にも腰帯などが展示されていました
インド刺繍のようなおしゃれな模様で、今見ても欲しいなと思えるデザイン
あの模様のリボンとかあったらいいなあ

香道も茶道と同じ堂に禅宗の教えを背景に持つため、武士に好まれたそう
どんな香が使われているのかを当てる、組香(くみこう)という一種のゲームのような遊びが行われていたそうです

「秋の野蒔絵十種香箱」

香の種類を当てる競技・組香の道具のセット
蒔絵も素晴らしいのですが、紙包の秋草の絵も可憐で可愛らしいです

「青磁香炉 銘 千鳥 大名物」

かわいいな
小鳥がちょこんとのっているシンプルなデザイン
色味もパステル系のグリーンでかわいいですね
こちらは江戸時代の人気作品「絵本太閤記」にも出てくる香炉だそうで
天下の大泥棒・石川五右衛門が豊臣秀吉の寝所に忍び込んだ際、香炉の上の千鳥が鳴いたことで捕まってしまうという、場面に出てきます
フィクション性の高いエピソードですが、それだけ江戸の庶民にもよく知られたアイテムだったんでしょう

でも見た感じ、ささやかでかわいらしい声で鳴きそうな千鳥さんだな…緊急アラートのような、目覚ましのような鳴き方はしなそうです

第3部「求美」

最後に奥方や姫君たちの華やかな奥道具が
琴や琵琶などの楽器に貝合わせの遊び道具、お輿入れの際に姫君たちが携えた婚礼調度が中心のエリアです
婚礼調度はお化粧台やお化粧道具、硯など毎日使う道具になり、特に今回展示されている家光の娘・千代姫が尾張徳川家に嫁いだ時の「初音の調度」が有名です

「筝 銘 青海波」

横の模様が波の模様になっていることから名付けられたそう
獅子や牡丹の模様もとても細かく繊細
落ち着いた色合いですが、螺鈿や鼈甲が贅沢に使われ豪華な品です

特別公開 国宝「初音の調度」・国宝「源氏物語絵巻」

なんといっても今回の展示の目玉は、「源氏物語絵巻」と「初音の調度」
時期的に、源氏物語絵巻は「横笛」の場面、初音の調度は「初音蒔絵旅眉作箱」の展示期間でした

「初音蒔絵旅眉作箱」

源氏物語・第二十三帖「初音」の場面を題材にした旅行用のお化粧道具
箱は二重底で、下段の引き出しには硯・水滴・筆・錐などが
携帯用の鏡とその鏡巣、そのほか白粉入、黛入、白粉を解くための梅花形の化粧水入、整髪油を入れる油桶のセットになります
「初音」の帖は、お正月で賑わう六条邸にて、明石の上とその娘の明石の姫君が交わした歌にちなんでいます

その作中に登場する和歌

(明石の御方)
年月を松にひかれて経る人に
今日鴬の初音聞かせよ

(明石の姫君)
ひき別れ年は経れども鴬の
巣立ちし松の根を忘れめや

この和歌が箱の蓋と側面に書かれています
そのままの文字で書いてあるわけではなく、「葦手文字」と「留守模様」という、文字を絵画的にかいたもので表現しています
葦手文字は、絵の中に波のような隠し文字を使った表現方法
留守模様は、人物はなく風景画のなかにその他にも絵やモチーフで表す方法です
芦手絵などは平安時代からあり、やまと絵の「平家納経」などにも使われている手法です。
「平家納経」は、2023年10月に東京国立博物館で開催された特別展「やまと絵展」でも展示されていました。

どこに何が書いてあるのか、「初音蒔絵文台・硯箱」を例に見るとこんな感じで文字やモチーフの絵がかいてあります

引用:https://www.dmtomonokai.co.jp/magazine/2021autumn/01/

どこにどんなモチーフがあるのか、この蒔絵の箱じっくりみたいものです
美術館や博物館にいる時間ではなかなか足りない…
せめてお土産などでないかなあ?と探したら、こちらのお煎餅がありました

坂角総本舖の「姫ゆかり 初音の調度」

創業135周年記念として徳川美術館とのコラボレーションした商品で、9/2から発売とのこと
こちらは「初音蒔絵旅眉作箱」ではなく、「初音蒔絵小角赤手箱」がモチーフですが、同じ初音の和歌が書かれています

引用:https://mainichi.jp/articles/20240828/pr2/00m/020/540000c

なるほどね、ここの部分にこの文字があてられているのね
坂角総本舖の代表的な商品・えびせんべいは、千代姫の夫・尾張二代目藩主・徳川光友に縁のあるお菓子です
お殿様も絶賛するおせんべい、そりゃおいしいでしょうなぁ

徳川家に献上された海老せんべい。
海老せんべいのルーツは、とれたての海老のすり身をあぶり焼きにした「えびはんぺい」といわれています。1666年(寛文6年)に尾張藩主の徳川光友公が絶賛し、徳川家献上品となったそうです。

坂角総本舖の歴史|坂角総本舖(えびせんべい ゆかり) (bankaku.co.jp)


もう一つ、7/31から展示される調度、こちらは源氏物語・第二十四帖「胡蝶」を題材にした将棋盤になります
「胡蝶」の帖は、六条院の春の町の庭園にて、舟楽を催した場面
春の花が咲き誇る中、鳥の楽が奏でられ蝶の舞が舞われ、うららかな光に満ちている庭園の様子が描かれています

この帖のタイトルは、第二十一帖「少女」にて秋好中宮がしかけた「春秋の争い」という和歌の贈答に対する紫の上の返事

(紫の上)
花園の胡蝶をさへや下草に
秋待つ虫はうとく見るらむ

(秋好中宮)
胡蝶にも誘はれなまし心ありて
八重山吹を隔てざりせ

この和歌にちなんでいます
葦手文字などはないようですが、華やかな竜頭鷁首の船が春の池をゆったりめぐっている宴の様子があらわされています

このエリアのほかにも、前述のエリアにも千代姫の調度が展示されています。

第二部「清雅 -茶・能・香ー」の香の場所に「銀檜垣に梅図香盆飾り」
第三部「求美」の階段を下りてすぐのところに「純金葵紋蜀江文皿」と
「純金葵紋牡丹唐草文盃」
がありました

どちらも国宝ですが、純金葵紋の盃と皿は純度95%の純金でできているそう
金でできた工芸品などは時代とともに鋳つぶされ、ほとんど残っているものがないそうですが、徳川美術館に所蔵されている千代姫の調度には金銀を使った工芸品が多く残っているそうです

「源氏物語絵巻 横笛」

もう一つの目玉は「源氏物語絵巻」
こちらは平安時代につくられた最古のもののひとつになるそうで、会期中に「柏木(三)」「横笛」「橋姫」「宿木(二)」の4つが展示されました
今回は第三十七帖「横笛」の展示期間
柏木の一周忌が過ぎ、形見として贈られた笛を夕霧が吹いたところ、亡くなった柏木が夢に現れ、その笛はふさわしい人に渡してほしいと頼まれます
その雰囲気におびえたのか、寝ていたはずの夕霧と雲居の雁の赤ちゃんが泣き出し、女房達が魔除けの打撒をしている場面になります

詞書の料紙には四角や線状に切られた金箔が散らされ華やか
絵のほうは思っていたより、色がはっきりしていて鮮やかです
華やかな年中行事や宴のシーンではなく、本当に家族のプライベートなシーンになるため、室内の調度品や服装など普段の人々の様子がわかります

2020年に5年の歳月をかけた修復作業が完了しましたが、その修復作業の解説パネルもあり、「柏木(三)」修復の詳しい内容が書かれていました
もともとは詞書と絵がセットになった巻物だったようですが、少し前までは絵だけ額縁に飾られていたため、それをまた元の巻物の装丁にもどしたそう
また、復元作業のなかで下書きの状態も調査されたようで、下書き段階では、赤ん坊の薫を抱く光源氏の左手はもっと下だったり、薫が光源氏に両手を伸ばしていたりと、ちょっと違いがあったようです
なるほどな~

最後にミュージアムショップへ
ここでは筆ペンをお土産に買ってきました
(お隣の手ぬぐいは、静嘉堂文庫丸の内の曜変天目茶碗模様の手ぬぐいです)
前々から書きやすいと聞いていたので、今回買ってみました
絵柄は、源氏物語の第四十四帖「竹河(二)」
髭黒大将の妻になり5人の母となった玉蔓が、娘たちの結婚に関してあれこれ苦悩するお話です
その中の、桜の木をかけて玉蔓の2人の娘が碁を打っているシーンになります
こちらも徳川美術館に所蔵されている国宝・源氏物語絵巻の一つですね

「竹河」の由来は、作中で歌われる催馬楽の竹河と、薫君と藤侍従が読んだ下記の和歌にちなみます

(薫君)
竹河のはしうち出でしひとふしに
深きこころのそこは知りきや

(藤侍従)
竹河に夜をふかさじといそぎしも
いかなるふしを思ひおかまし

華やかな宮中やこの世の栄華、その裏にあるままならない人間模様などを描いた源氏物語
物語を書き切ったこと自体もすごいのですが、作中の約800首におよぶこれらの和歌も紫式部が自分で作っているのがすごいです
大河ドラマもいよいよ佳境に入っているようで、この後の展開も楽しみです

そして、サントリー美術館のメンバーズクラブにはいると同伴者も無料なんだね…混雑時優先入場はうれしいかも
敷地内のアートも見てみたいので、また来ようかな?


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