『プリンタニア・ニッポン』

授業で提出した課題の紹介文です

『プリンタニア・ニッポン』は、迷子(ペンネーム)によってwebメディア「MATOGROSSO」に連載されている漫画で、現在4月29日時点で16話まで更新されている。佐藤( No.佐藤46)という主人公と、「生体プリンタ」の不具合によって産みだされた餅のような生物「すあま」との日常が描かれた漫画である。
漫画の舞台は、「評議会」に監視管理されている近未来的な都市である。人々や組織は「評議会」や他者からの評価を得ることで「Lev(レベル)」が上がり、その「Lev」に応じて「支給ポイント」(娯楽用で、所持していなくても生活することはできる)を得ることができる。逆に評価が下がると、「開拓地」へ配属され、「再生」のための職に就くこととなる。「開拓地」では高い攻撃性を持つ「敗残兵」というロボットが出没し、また、「汚染領域」では防護服の着用が必要である。

ところどころ不穏な描写はあるものの、この漫画は全体を通してほのぼのした雰囲気が漂っている。しかし、ここで描かれている世界はいわゆるところのディストピアである。ディストピアは逆ユートピアとも翻訳され、ユートピアの対義語である。ディストピアは全体主義や管理社会を特徴として持ち、時には表面的な自由や格差社会が描かれる。しかしながら、トマス・モアの『ユートピア』が管理社会や奴隷制を描いたことから考えると、ディストピアとユートピアは本来同じものかもしれない。『ユートピア』は当時のイギリス社会を風刺しており、ディストピア作品も共産主義や機械文明を風刺していると考えると、この作品もなんらかの風刺をしている可能性がある。
現在の世界では、資本主義や自由主義が幅をきかせている。しかしながら、その代表とも言えるアメリカは格差や高額な医療費学費などが大きな問題となっていて、自由主義、資本主義の限界が見える。一方、共産主義国家である中華人民共和国でも格差が問題となっているが、しかしこれは共産主義、社会主義そのものの失敗と言うよりも、大きくは、中央の腐敗や資本主義国家との競争が原因で資産が再分配されなかった故の失敗であると考えられる。
『プリンタニア・ニッポン』では、この問題を抱えた現代社会に対して一つの「理想郷」を提示しているのではないかと考える(少なくとも16話時点では)。脅威となる「外敵」の存在は示唆されず、「開拓」による持続的発展も見込まれている。また、職業のある程度の選択権など一定の自由もあり、「開拓地」での労働もリスクはあるものの劣悪な環境とは考えにくい。
以上が『プリンタニア・ニッポン』の紹介である。重大なネタバレを防ぐため、ミスリーディングとも取られかねない情報の意図的な隠匿もあるが、少しの時間で読める量なので、是非自分の目で読んでいただきたい。

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