手間
朝の通勤路、満員電車。
蒸し風呂のようなバスの車内。
私の目線の先にいる人は皆、揃って下を向いたまま、
一点を凝視している。
スマホ片手に親指一本で退屈を埋められる時代。
先人達はありとあらゆる知恵を絞り出し、
文明を開花させてきた。
その甲斐もあって、前よりずっと暮らしやすくなった
世の中は、何故かどこか窮屈で息苦しい。
今もこうしてキーボードを叩いて言葉を綴っている。
「簡単で楽に」
そんなキャッチフレーズが飛び交わる世の中だからこそ、あえて手間をかけたい。
スマホじゃなく貴方の手を握っていたいし、
フィルムカメラを現像する手間こそが愛おしいと思う。
LINEじゃなくて手紙、
ネット購入より手作り、
下手くそでも心を込めて綴りたいし送りたい。
「手間をかければかけるほど、感情が乗ってくる」
私はそう思う。
3年付き合った何の変哲もない元カレより、
2ヶ月付き合ったクズな元カレの方が
よく覚えているように。
時間と感情は比例しないが、手間と感情は比例する。
どんなにロボットが進化しようとも、
感情を持つものは生物だけだ。
ロボットに感情が取り入れられたとしても、
今感情を持つ私ですら言葉で言い表されない感情が
山程あるのだから。
人間はないものねだりだから、不便だと嘆くくせに
便利になったらなったで文句を言う生物だ。