醜悪
※この作品はフィクションです。
終電を逃したのはこれで二回目だった。
たまたま駅近の居酒屋で高校時代好きだった人と再開し、話をしている内に意気投合し、そこから居酒屋に行き、3時間も飲んでいた。急すぎたので彼女には連絡していなかった。
ここからが浮気なのだろうか、それとも、、、と考えている内に終電の時間が刻一刻と迫っていた。今横を歩いているのは彼女ではない別の女だ。これはもう浮気にあたるのだろう。彼女に内緒にしている時点でもうアウトだったのだ。そもそもなぜあんなとこで再開したのだか疑問だ。
偶然を装った計画的犯行ではないかと一瞬頭の中をよぎったのか、彼女のラベンダーのいい香りの香水を隣で嗅いでいるせいか、不思議と落ち着いてしまう。しかも居酒屋に入る前より少し物理的に距離が近い気がして、思考を放棄せざるをえなかった。
結局人間の欲求の性欲に勝てなかった。途中ラブホ街を通ったが、彼女が嫌な素振りを見せたので僕の家に泊めた。
玄関の前まできて「ねぇ、、お願い、きて?」
と上目遣いに僕の胸に両手を添えて寄り掛かってきた。堺さんが酔ったらこんなに積極的になるのは驚きだが、「いくらなんでもエロすぎんだろ、」と思いつつもまずはソフトなキスから始めた。堺さんは目を閉じてこの瞬間を噛み締めているように感じた。あとの事はもう思い出すだけで息子が勃ってしまうので省略する。
「昨日はそうだな、都会の少し外れた大衆居酒屋で飲んだっけ?」昨日の夜の記憶が昔のように思え、全てを思い出す事などできなかった。高校生時代二年半ずっと好きだった女の子で、堺さんという外見だけでなく中身も美しい人だった。
そんな彼女に僕は一目惚れしたのだ。何より同じバスケサークルに入っていたが、まだ入って間もない一年生に積極的に話しかけサークルの雰囲気を壊さないようにしていた姿を見てさらに好きになってしまった。そう、完全に好きになってしまったのだ。
これは神様がくれた祝福ではないかと自分に浸っていた。
「余韻に浸りたかった。ずっと、ずっと、誰にも邪魔されないような奥深いところで、君と二人で、、」そんなポエムチックな言葉を並べていても朝は変わらず来る。積み木のように重ねておいた悩みをうじうじ考えていた日々が、今では堺さんの事ばかりを考えてしまう。普段の堺さんも可愛いが、ベッドの上ではさらに可愛いのは反則すぎると思った。そんな一人言を聞かれていたのか、堺さんが後ろから「何いっちょ前に倒置法なんか使ってんだーよぅ!」とツッコまれた。こんな幸せな事があっていいのだろうかと日常の幸せを感じた。
「ねぇねぇ〜?!お昼どっかランチしてこーよ!
わたし大学三コマ目からなんだよね〜」
そう言って大胆に誘ってくる所も好きだった。
「ん〜今日俺ね〜大学全休なんよー。それでお昼
は彼女とデートする予定なんだよね、、だから
堺さんとはいられないんだ、、ごめんね、、、」
自重筋トレを終えて冷水シャワーを浴びてスキンケアや髪をセットしながら答えた。
曖昧に濁して答えても自分の彼女も堺さん両方を傷つける事になりかねないと思い、はっきり言った。
ヘアアイロンを使って寝癖を直していると、玄関からガチャッと扉が開く音がした。
今一瞬嫌な予感がした。きっと僕の彼女が来たのだろう。しかも堺さんの靴が出しっぱなしということをすっかり忘れていた。彼女はきっと女物の靴ということなんてすぐに分かるはずだ。その時点で浮気という二文字が浮かぶのも見える。
今更なんて言い訳しようかなど狡猾なことを考えたくない。彼女の事は好きなはずなのに、僕達の関係が終わりを迎えようとしている度に堺さんと付き合っている未来を浮かべてしまう。結局のところ僕は堺さんの事が好きだったのだ。だがその当時叶わなかったからその埋め合わせとして今の彼女と付き合っていたのだろう。
つまり僕はどうしようもないクズ野郎なのだ。ヒトの悪い所を切り取ってそれを全て取り込んだ人間、それは僕の事を言うのだろう。なんて醜悪なのだろう。こんな醜態を晒すならいっそ死んだ方がましだと思った。彼女が玄関で靴をぬぐ音が聞こえてくる。心臓を握り潰されそうだ。彼女はリビングに繋がる扉を開けようとしていた。
これはきっと神様が僕が彼女ではなく堺さんを選んだ罪として与えた罰なのだろう。
扉が開いた瞬間、積み木のように置いていた悩みが溢れ出して止まらず、情報の整理が出来なかった。ふと堺さんの方を見たら、この状況を楽しんでいるように感じた。あの時彼女は一体何を考えているのだろうかと疑問に思い、不気味に感じた。まだ初夏が始まったばかりというのに、寒気が僕を襲う。醜い人間にも感情はあるのだなとこの状況で冷静に分析していたのだった。
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