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おかえり

 そうやっていつも甘い言葉に騙されてきた。
きっと僕が君の元に真っ直ぐに帰ってきたとしても、君は「おかえり」の四文字を言ってはくれないだろう。もう一度、最後でもいい、嘘でもいい、心に込もっていなくてもいい。もう一度だけ僕に言ってくれないだろうか。

 そんな淡い期待をして家に帰る。でも玄関にはいるはずの君がいない。なぜなら僕は君と少し前に喧嘩をしてしまって、君が家を出て行ってしまったんだ。僕が浮気していたのが君にバレたんだ。よりによって君の親友と浮気してしまった。    

 明らかに僕が悪かったのかもしれない。でもこれは言い訳に聞こえるかもしれないが人は常に新しい刺激を求める人間なのだと思う。カップルで今の彼氏、彼女に飽きてしまい付き合いたての頃の初々しさや心臓が張り裂けそうなくらいのドキドキ感を味わいたくて他の男や女にいってしまう人は僕以外にもいるはずだ。そうやって僕はいつも都合のいい解釈をしては目の前の現実から逃げてきた。そうまでしないと世の中やっていけないと自分に言い聞かせていた。人とはどこまでいっても愚かで醜い生き物なのだろうか。それとも他の女性に手を出す僕のチンチンが悪いのだろうか。一人家で自問自答して考えていた。

 翌朝、早く目を覚ました。鳥の囀りというのか、鳴き声が脳まで届いた。リズムを刻んでいるようでこのままずっと聴いていたいと思った。
「いいよな〜鳥さんはよ〜〜、お前さんは自由なんだろ?!帰る家もお前さんの帰りを待つ鳥もきっといるんだろ?」鳥に感情をぶつけてどうすると愚かな自分を嘲笑した。

 朝食は白米にしゃけ、ほうれん草のおひたし、えのきの天ぷらを食べる。食事中に考える事ではないが、僕は本当に頭を使っているのではなく、チンチンで物事を考えているのかどちらかを真剣に考えていた。こんなこと人に相談できるような事ではないし、したとしても軽く流されるだけ。白米を箸で口に運び、すかさずしゃけも口に頬張った。口の中で白米としゃけの味を堪能する。その一方でチンチンの事を考える。こんな朝を過ごすのはおそらく日本で僕だけなのだろう。

 同棲していた時の彼女とこ思い出を電車に揺られながら振り返っていた。なんだかんだ僕は君の事をどの女性よりも愛していたし、愛される男になる為に最大限の努力をしていたと思う。でも一度手に入ってしまうと人は慢心し、堕落し、心に隙ができる。その隙がきっとその人の弱みなのだろう。その弱味に付け入るのが上手い人程モテると聞いた事があるがそれは本当らしい。でも僕は不器用だから弱味に付け入ることなんて出来なかった。だがその不器用という所も人を惹きつける魅力になったんだと思う。

 次々と変わる風景を見渡しながら思う。嗚呼もう一度君とやり直したい。やり直すなら喧嘩をする前の順風満帆な時に。扉を開けたら君がいて「おかえり」と言ってくれる日常が欲しい。僕はいつのまにか寝過ごしていて大学行きのバスがある駅を通り越していた。電車の扉が空いた。僕は降りずに今どこの駅にいるのかを把握する為、スマホで調べた。電車に乗ってくる人の流れの中に僕はいる。いつその波に流されるか分からなかった。扉が閉まり車内は妙に静かになる。乗ってきた内の一人の女子高生がLINEで「おかえりなさい、〜〜君」と語尾にハートを付けているのを見た。「そっか、うん、そうだな。おかえりって言葉は言いたいし言われると嬉しいよな〜」と思い、また僕は君の事を懐かしみ、思い出にふけていた。

 

 

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