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サイゴ ーー ショートショート

歯を噛み締めていた。
彼が握っていた手は、優しく握り返していたこそその優しさを壊さないように我慢した。
雨がさらに強く降るのをぼんやりと見つめながら、心が乱れた。
彼がその景色を曇らせる激しい雨の中で一緒に浴びようと誘ったとしても、二人の間に残ったものを洗い流すことはなかった。
温めようとするの失敗した冷たい手を放し、彼女の視界から消えるまで雨の中を走りだしても、無駄だ、彼は安全ではない、自分の中で消えることはないから。

二人の青少年はレストランの前のベンチに黙って座っていた。
彼らの手は嵐によって繋がれていた。

別れはすでに中で間接的に交わされていたが、彼女はそれが正式に告げられるのを待っていたに違いない。
彼女は物事が正式に始まり、正式に終わることを期待するタイプだった。
その野望を挫こうとしていたが、突然雨が激しく止み、彼はほとんど恐怖に近い絶望を感じた。

「終わりだな。避けられないことだと思おう」

彼がその言葉を言う間、彼女は彼の手を握っていたのと同じように、その手を優しく放した。
彼は唐突に話し続けた。
話しているうちに、瞬間を引き伸ばすことができると分かった。

「君はいつものように前に進もうとして、すぐに他の誰かに出会うだろう。そして、わかるんだよ、君はそうだから、もう返ることはなく、一人で、安全な場所で痛みを感じるんだ。でも、また前に進んだ先で会うことになるよ。きっと。その時は、苦しくなるって約束する。君が結婚して子供ができたとしても、きっと痛くなるって約束する。それが起こるのは必然だって、君も、それを知ってる。」

彼女は泣きそうだったけれど、何も言わなかった。
彼女の瞳は、それを知っていることを物語っていた。
ただ、その知識に対して何もしようとはせず、涙をこらえることしかできなかった。
彼女がそういう人だからこそ、彼は心の底から憎んでいた。
部屋で一人泣いて、涙を拭き取って、ただそれを受け入れる人。
どうしようもないことだと思い込んだ。

涙をこらえながら、彼女は最後にもう一度だけ彼の手を握りたいと思った。
そうした。
それが彼らしい終わり方だと思った。
彼を憎みたかった。
あの言葉が深く胸を刺すたび、もっと怒りたかった。
でも、彼の言う通りだった。
彼女はそのままで、何も変えようとはしなかった。
それを考えた彼女は、思わず笑いたくなったが、笑うより突然涙が溢れ出し、雨はしとしとと戻ってきた。
涙を見せたくなくて、その霧雨の中に入り、彼の視界から消えるまで走り出した。
彼は涙を浮かべた目で空を見上げ、正しいと祈った。
遠い場所で、胸の中の痛みから解放された場所、彼女にもう一度会えることを。


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