東京タワー、届くことのない手紙、告白
東京には、少し前までいちばん高かった電波塔があります。
タワーマンションの最上階に住みたい、と言っていましたね。きみの欲しい夜景には、その赤い鉄塔も、かならず必要なんだと思います。
東京ではお元気にされていますか。
夢、希望とか、きみが小さいころテレビからもらった概念は、まだだいじにしまっていますか。
君が報われないことをしていること。きみがきっと希望を見失うこと。
そんなことは分かりきっていて、きみは生まれ育った街へ帰るかもしれないし、それを誰も気にも留めないかもしれません。
朝日があがること、それだけが、ある日きみにとって唯一の希望になるかもしれないし、しにたいと思ってしまうのも、当たり前なのかもしれませんね。
当たり前なのかもしれない。
きみはそれでもかわいい。
汚い人間たちがつくる、きみが想像していたよりずっと汚い東京の街で、きみは美しくて、いつまでもぼくたちは嘘つきでした。
いつかきっときみは、自分や、ぼくや、あるいは世界が悪いにせよ、その全ての根源が、あの東京タワーにあると気付く。そのとき、きみはあの赤い鉄塔の冷たさを知る。
不可能の象徴として建つ真っ赤な東京タワー。
原告はきみとぼく、被告はあの鉄塔だとして、求刑は火刑にしよう。燃える東京タワーは、きっとかわいいから。
すごい深い時間、火に包まれる赤い鉄塔を見て、きみがずっと欲しかった永遠を目に焼き付けること、それがきみが東京に、引っ越してきた理由なのかもしれない。