存在しない記憶 第二章
第二章 春
三回落ち続けた大学にやっと受かった。嬉しい、という気持ちにはなれなかった。ストレスと闘って必死に勉強し続けた一、二浪目の頃と、もう殆ど諦めて遊んでいた三浪目の一年を比べてなぜあの時は落ちて今回は受かったのだろう、と不思議に思った。
誰もいない昼間、リビングで補欠合格を報せた受話器を元に戻せないままぼんやりと立っている。台所の蛇口からポツ、ポツ、と一定のリズムで金属に滴る水滴の音が脳味噌を刺激した。その音を聞き続けていたら不意に涙が溢れてきたが、その涙はほんとう