ディグ・モードvol.108「スリー.パラディ（3.PARADIS）」

スリー.パラディ（3.PARADIS）は2013年にモントリオールで設立された、エメリック・チャチュア（Emeric Tchatchoua）がクリエイティブ ディレクターを務めるパリ拠点のブランド。『星の王子さま』に大きな影響を受けたデザイナーは、ストリートウェアとテーラリングを融合させ、自身が掲げる目標のひとつである「団結の促進」をモチーフやプリントで表現している。

ストリート ウェアとテーラリングの要素を融合

2020年春夏コレクション（Courtesy of 3.PARADIS）

パリで生まれ、モントリオールに拠点を置き、家族のルーツがカメルーンにあるエメリックは、物心ついたときから常にファッションに関心を抱いていた。2004年、ア ベイシング エイプ（A BATHING APE）のニゴー（NIGO）の存在を知り、ネット上で日本のストリート カルチャーに初めて出会ったことで彼の全てが変わった。

その後、エメリックはエディ スリマン（Hedi Slimane）がディオール オム（DIOR HOMME）のためにカッティングにこだわって作成したコレクションを好きになった。

2021年春夏コレクション（Courtesy of 3.PARADIS）

ファッションの学校で勉強した後、メンズウェア業界が提供する服に飽きていたエメリックは、友人や自分のために服作りを始めることにした。彼はブランドをオンラインで立ち上げ、鏡に反射するヘビ革のエンボス加工を施したレザージャケットを初日に販売した。次第に多くの人が服を求めるようになり、ブランドは自然と成長していった。

デザイナーは初めから、自身が賞賛するストリートウェアのカジュアルで実用的な要素とテーラリングの緻密さを融合させることに固執していた。「私の作品は、たとえ食料品を買いに出かけるだけであってもスタイリッシュにスーツを着たい男性のためのものです」と彼は『Another Man』のインタビューで語っている。

目標は団結を促進すること

2022年春夏コレクション（Courtesy of 3.PARADIS）

ブランド名の「3」は心、体、魂の完璧なバランスを表し、「Paradis」（フランス語で「楽園」の意）は人間なら誰しもが求める理想の幸福、つまり誰もが行きたいと願う楽園を表している。

「団結の促進」を目標のひとつに掲げるエメリックは、あらゆる人のために服をデザインし、すべての人にとって普遍的なテーマについて服で語っている。コレクションのテーマは、制作を始めるときに自身に問いかけている質問に基づいて、あるいは人々に伝えたい、意識を高めたいテーマに基づいて意識的に選んでいるとデザイナーは説明する。

彼が生み出す作品には意味があり、本質と形が一体となることがエメリックにとって重要だ。彼はさまざまな知識や日々のリサーチから主なリファレンスを得て、自身や知人に起こった人生経験から多くのインスピレーションを得ている。それは感情から哲学、文学、映画、美術、サブカルチャーなど多岐にわたるとエメリックは説明している。

モチーフやプリントで団結を表す

2023年春夏コレクション（Courtesy of 3.PARADIS）

スリー.パラディはシンボリズムが多く用いられている点が特徴だ。代表的なものは鳩のモチーフで、それはデザイナーにとって重要な意味がある。エメリックは身近な人が亡くなったときに鳩のモチーフを使い始め、それは彼にとってセラピーのようであり、故人に敬意を表す方法でもあった。

「それは彼が支持し、私が今日まで生きているすべての価値観、つまり平和、愛、団結、静けさ、自由、精神性を表しています。それは私がスリー.パラディを通して発信している価値観やメッセージでもあります」とデザイナーは『GUAP』で語っている。

モノグラム プリント『Le Noeud Infini』の開発は、相互接続、結束、連帯感というブランドの哲学を表現するというアイデアが発端だ。デザイナーは仏教哲学についての本を読んだ後、『Le Noeud Infini』（フランス語で「永遠の結び目」という意味）と名づけた。仏教でそれは相互依存、統一、そして対立する力の相互作用を指し、最終的には宇宙の調和につながるものだ。

イニシャルを組み合わせることが、それらの価値観を表現する最良の方法であると感じたデザイナーは、各部分が相互に依存して完璧なバランスを作り出しているモノグラム パターンを生み出した。

影響を受けたのは『星の王子さま』

エメリック・チャチュア（Courtesy of Yan Bleney）

エメリックが成長するうえで最も影響を受けたものは、アントワーヌ・ド・サン＝テグジュペリ（Antoine de Saint-Exupéry）の『星の王子さま（The Little Prince）』だ。作者が自身の人生の比喩として執筆したこと、彼の子ども時代と心の平和の探求、人類の兄弟愛への信念、そして妻への深い愛が、デザイナーのストーリーテリングに対するアプローチを形作った。

「私の創作プロセスは常に比喩です。作家や詩人が言葉で絵を描くのと同じように、私は色、生地、アートワーク、形、模様、イメージ、そして衣服のあらゆる要素を使って絵を描き、物語を伝えます」とエメリックは『GUAP』で語っている。

この記事は、フリーランスで翻訳や海外アパレルブランドの日本向けPRをしている𝐡𝐢𝐫𝐨𝐤𝐨が、自身のファッション業界に対する見識を広める目的で書いたものです。