軽トラに乗った小屋の本屋さん
旅暮らしの本屋さん。
今、とんでもなく心が踊ること。
それはそう、旅暮らしの本屋さん。
かわいい軽トラックにちっちゃな小屋を乗っけて、日本中、あちらこちらで小さな本屋さんを開いてゆく、旅暮らしの本屋さん。
軽トラックも小屋も、憧れだった。
わたしが生まれ育ったのは、とっても田舎の町だったから、道路をいつも軽トラックが走っていた。
その荷台で、りんご箱のりんごがこぼれそうになっていたり、わんちゃんが吠えていたり、ときには学校帰りの子どもたちがわいわいはしゃいでいたり。
こっそりあの荷台に乗せてもらった日、びゅんびゅんとものすごい勢いで風を切ればどこまでも、どんなに遠いところへも行ってしまえるのだと知った。
軽トラックのうしろには、夢と自由とロマンがある。
実家には、山と畑と田んぼがある。
そのどれもに、小屋が建っている。
夕日に照らされる木の小屋、淡い青のトタン小屋。
遥か昔から開けられていない扉のある小屋、使い古した道具が詰まった小屋、田植えや稲刈りの機械が眠る小屋。
その小屋に小さな動物が身を潜めていることを、幼いわたしは感じた。
小屋にはどんなものが入れられてもいいし、誰が暮らしていてもいい。
世界で一番小さな家はきっと、ちっちゃなちっちゃな小屋なんだと思う。
やっぱりどうしても、旅暮らしの本屋さん。
やってみたい立派なわけなんてなくて、ただ、とてつもなくわくわくするから、弾けるほどうきうきするから、もうとにかくやってみたい。
ぽつりぽつりと、いろんなところへの出店を重ねるところから。
これからのことはそれから、ぼちぼちだんだん決めてゆけたら。
そんなふうに落ち着いていたのに、ぽっとあかりが灯ってしまった。
ひらめきやときめきは、いつだってこうしてわたしを軽やかにして、とびっきりのしあわせを教えてくれる。
やまのたにま店、うみべのまち店。
長野県伊那谷と愛知県知多半島の二拠点生活をしているから、そのどちらにも、小さな本屋さんをつくれたらいいな、と思っていた。
糸波舎を始めることになったころ、そう思っていた。
いつか、こぢんまりとした実店舗ができたらいいな、と今も思う。
けれどそれは、自分が家庭を築いてゆくころ、子どもを授かるころがいいな、と今は思う。
それまでは、旅暮らしの本屋さんをやってみようと思う。
それが今、わたしがやってゆける、糸波舎のひとつの形。
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