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Nepalエベレスト街道を歩く Gokyo Lake
本日ゴールを迎えようとしている私たちの足取りは軽かった。
Dragnag(4700)からGokyo(4790)までの道のりに大幅なアップダウンはなく、景色もそれほど変わらず。時折テトラポッドのような大きな岩たちが現れるので用心しながら渡る。
道の脇にはぽつりぽつりと池があるが、凍っているのか殆どが灰色をしていて、私はコンクリートの工場に迷い込んだような気持ちになった。
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そうして1時間半か2時間ほど歩いただろうか。目の前に、絵の具の青に白を混ぜたような水色のレイクが見え始めた。少し前を歩いていたNimaが「Gokyo Lake」と私の方へ振り返った。
なんと私たちはいつの間にかGokyoへ辿り着いていたのだ。
「あれ…?チョ・オユーは?」Gokyoから見えるはずの8000峰、チョ・オユーが全く見えないのだ。ようやくその時、あたりが曇っていることに気づいた。そして気づいたとほぼ同時に雪も降り始めた。
「チョ・オユーが見えんな…」そう呟くとNimaも「そやな、今は見れんな」と笑った。
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歩き進めるとその丘の下には大きくて綺麗な色をした湖と、いくつかの宿が建つ小さな村が見えてきた。目的地に辿り着いた私はとても興奮していて雪が降っていることにも構わずにコロコロと転がるように丘の下に降った。
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駆け降りた少し先にはMonicaがニヤリと笑いながら腕を組んで待っていた。
全員が揃った後、本日の宿”CHO-OYU VIEW LODGE”の中に入り、2階の談話室へ。
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本来であればここですぐにザックを下して小休憩か、すぐに部屋の鍵をもらって部屋に移動するのだが、感極まっていた私。気持ちが溢れて少し泣きそうになりながらMonicaとMayuのところに駆け寄り「一緒にきてくれてありがとう」と一人ずつ抱きしめた。そうして私たちが友情を深めているところ、Nimaは「おこめ!俺ともハグ!」と冷やかしてくる。鬱陶しいので逃げる。
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その後部屋の鍵を受け取り移動。本日の宿は窓からGokyo Lakeを望む展望。
ベッドカバーは平成の頃のダイソーの食器か布にありそうな水玉模様のデザイン。
まぁ、可愛んちゃう?
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部屋はMayuと相部屋
お馴染みの荷物広げと着替えを終えたら談話室に集まるいつものルーティン。
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Monicaもこの表情「もういいちゃ」
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次の日から帰路に向けてのトレック。
Monicaは明日早起きをして一人、”Gokyo Ri / Peak(5357)”に向かうとのこと。
私とMayuは体力温存の為、宿にステイすることにした。
といっても貴重な朝の時間をただ寝ているだけでは勿体無いので、朝6時に起きて朝日を拝むことにした。
ここで面白いのは、明日晴れるという確証すらないことだ。現代人の私たちは「明日何かしよう」と思いついた時、殆どの人が携帯電話を開き、明日の天気や気温を確認するだろう。それで「晴れているから決行だ」とか「やっぱりやめておこう」だとか画面からの情報に踊らされて物事を決定する習慣がついてしまっている。
そんな中、私たちの携帯電話はここ数日まともに電波が入っておらず、現在の時刻を知ることとYAMAPを見る他には機能しないおもちゃと化している。
それでも明日の朝、きっと晴れることを信じて健気にも早起きをするのが、限られた時間しか与えられていない訪問者たちの性なのだ。
そして私たちの健気な晴れ乞いは、惜しくもお天道様に届かず、ここから眺めるはずだったチョ・オユーとギャチュンカン、そしてエベレストを望むことは叶わなかった。
我らの宿の名前にもなっているチョ・オユー(8201)はシェルパ語で「トルコ石の女神」という意味を持つ山。14座ある8000m峰の中で最も登りやすいとされている山らしい。背景にエベレストとローツェが写り込むようにして撮影することが登頂の証として好まれているんだとか。
また、ギャチュンカン(7952)はシェルパ語で「百の谷が集まる山」の意味。エベレストとチョ・オユーとの間にある山で、クライマー山野井夫婦の雪崩からの生還で知られる山。私はそれを元にした沢木耕太郎の著書「凍」をこの旅に持参したものの阻害因子”UNO”により読書はほぼ許されずトレック中はただの重い荷物と化した。
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諦めて宿に帰ろうかという時に少しの晴れ間。
格好いい山が見えて「あれは何?」とNimaに確認したところ「チョラツェかな」と。Nima適当なので、どこまで本当か分からんけれど。
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そして後ろを振り返ると、静かに、ひんやりとした朝を迎えたGokyoの村。
その奥にはGokyo Lakeと日程不足で断念したRenjo La Pass。
右手にはGokyo Ri、Monicaが早朝に出発したPeakだ。
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どこかをMonicaが歩いているはず
無事帰ってくるだろうかと心配していたが、7時ごろ派手な色をした女が一人レイクの脇を歩いて降ってくるのが見えた。
朝の挨拶をしてみんなで宿に戻る。パッキングを済ませ、朝食を取ったら出発。
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お世話になった宿を出る。
出発しようという頃にやっと空が晴れ、少しだけ山々が顔を出してくれた。
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手前に見えたある山はギャチュンカンに形が少し似ていたが、これは違う山のよう。ギャチュンカンはもう少し奥にあってGokyoの村からは見ることができなかった。
晴れた日のGokyo RiもしくはRenjo La Passからは見ることができるのだろうか。
NimaはGokyoからの景色について、いつでも美しいが特に夕日に照らされた街と山、レイクは特別に美しい、と言って写真を見せてくれた。
「自分の目で確かめにまた来ないと」なんとなくそう思った。いつになるのか、誰と来るのかは分からないけれど。
その時まで、さようならGokyo
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